The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリー以外のみんなが午前中を寝て過ごした。
ハリーは、ロンと一緒に夏休み最後の数週間を過ごした寝室に上がっていった。
ロンのほうはベッドに潜り込むなりたちまち眠り込んだが、ハリーは服を着たまま、金属製の冷たいベッドの背もたれに寄り掛かり、背中を丸め、わざと居心地の悪い姿勢を取って、眠り込むまいとした。
眠るとまた蛇になるのではないか、目覚めたときに、ロンを襲ってしまったとか、誰かを襲おうと家の中を這いずり回っていたことに気づくのではないかと思うと、恐ろしかった。

ロンが目覚めたとき、ハリーもよく寝て気持ちよく目覚めたようなふりをした。
昼食の最中に全員のトランクがホグワーツから到着し、マグルの服を着て聖マンゴに出かけられるようになった。
ローブを脱いでジーンズとTシャツに着替えながら、ハリー以外のみんなは、うれしくてはしゃぎ、饒舌になっていた。
サクヤがちらちらとこちらを見ているような気がしたが、ハリーはそれを無視した。ハリーは、サクヤには言わなければ良かったかもしれないと少し後悔していた。

ロンドンの街中をつき添っていくトンクスとマッド-アイが到着したときには、全員が大喜びで迎え、マッド-アイが魔法の目を隠すのに斜めに傾けて被った山高帽を笑った。
トンクスは、また鮮やかなピンク色の短い髪をしていたが、地下鉄ではトンクスよりマッド-アイのほうが間違いなく目立つと、冗談抜きでみんながマッド-アイに請け合った。

サクヤは特にトンクスの到着をことさら喜んでいるように見えた。
ハリーはサクヤとトンクスが2人一緒にいるところをそれまで見たことがなかったが、彼女が到着したとき、サクヤはまっすぐに駆け寄り、抱きついていた。
トンクスは、ウィーズリー氏が襲われた光景をハリーとサクヤが見たことに、とても興味を持ったが、ハリーはまったくそれを話題にする気がなかった。

「君やハリーの血筋に、『予見者』はいないの?」

ロンドン市内に向かう電車に並んで腰掛け、トンクスがサクヤの肩に腕を置きながら興味深げに聞いていた。
ハリーは知る由もなかったが、トンクスは不自然に見えない形で常にサクヤに触れ、マッド-アイはサクヤの座る座席の目の前に陣取って立っていた。

「いないと思うけど……」

そうサクヤが答えるのを聞きながら、ハリーはトレローニー先生のことを考え、侮辱されたような気になっていた。

「違うのか」

トンクスは考え込むように言った。

「違うな。
君たちのやってることは、厳密な予言っていうわけじゃないものね。
つまり、君らは未来を見ているわけじゃなくて、現在を見てるんだ……変だね?でも、役に立つけど――」

そのとき、サクヤがハッと息を呑む音が聞こえた。
ハリーが顔を上げたとき、彼女が引きつけか何かを起こしているように見えた。
じっと一点を見つめ身体を強張らせ、膝に乗せていた手がズボンを固く握りしめている。
トンクスもマッド-アイも、ひどく張り詰めた表情でサクヤを凝視していた。
ウィーズリーおばさんもそれに気づくと、子どもたちをかき集め、ぎゅっと肩を抱いてサクヤを見つめた。

しかしそれは一瞬の出来事で、やがてサクヤが脱力をすると、その場に流れていた緊張の糸も切れた。
トンクスはどこか嬉しそうにニコニコとサクヤに笑いかけ、マッド-アイも満足げに頷いている。

「今のって、そう?

「うん、大丈夫だった……!」

そんな奇妙な会話は、この半日で2回目だった。
ダンブルドアとの会話のときも、あいまいな確認をして、それで終わりだった。
しかし今回はなぜかトンクスが大喜びで、鼻歌を歌いながらサクヤの肩を抱いて横に揺れ、ウィーズリーおばさんに「電車内ではお静かに」と注意されていた。
ハリーがそのことについて質問や考えを巡らせる前に、電車が目的地にたどり着いた。

そこはロンドンの中心部にある駅だった。
先頭に立ったトンクスが相変わらずサクヤの肩に手を回したまま上機嫌に歩き、みんながそれに従いてエスカレーターを上がった。
後ろを歩くハリーからはサクヤの表情こそ見えなかったが、歩調がなんだか軽やかで、トンクスに負けないくらい上機嫌に見えた。
ムーディはしんがりで、山高帽を斜め目深に被り、節くれだった手を片方、ボタンの間からマントの懐に差し込んで杖を握り締め、コツコツッと歩いてきた。
ハリーは、隠れた目がじっと自分を見ているような感じがした。
夢のことを訊ねられる気がして、これ以上聞かれたくなかったハリーは、マッド-アイに聖マンゴがどこに隠されているかと質問した。

「ここからそう遠くない」

ムーディが唸るように言った。
駅を出ると、冬の空気は冷たく、広い通りの両側にはびっしりと店が並んで、クリスマスの買い物客でいっぱいだった。
ムーディはハリーを少し前に押し出し、すぐ後ろをコツコツッと歩いてきた。
斜めに被った帽子の下で、例の目がぐるぐると四方八方を見ていることが、ハリーにはわかった。

「病院に格好の場所を探すのには難儀した。
ダイアゴン横丁には、どこにも十分の広さがなかったし、魔法省のように地下に潜らせることもできん――不健康なんでな。
結局、ここにあるビルをなんとか手に入れた。病気の魔法使いが出入りしても、人混みに紛れてしまう所だという理屈でな」

すぐそばに電気製品をぎっしり並べた店があった。
そこに入ることだけで頭がいっぱいの買い物客に呑まれて逸れてしまわないようにと、ムーディはハリーの肩をつかんだ。

「ほれ、そこだ」

まもなくムーディが言った。
赤レンガの、流行遅れの大きなデパートの前に着いていた。
パージ・アンド・ダウズ商会
と書いてある。みすぼらしい、しょぼくれた雰囲気の場所だ。
ショーウィンドウには、あちこち欠けたマネキンが数体、曲がったカツラをつけて、少なくとも10年ぐらい流行遅れの服を着て、ばらばらの方向を向いて立っている。
埃だらけのドアというドアには大きな看板が掛かり、「改装のため閉店中」と書いてある。
ビニールの買い物袋をたくさん抱えた大柄な女性が、通りすがりに友達に話しかけるのを、ハリーははっきりと聞いた。

一度も開いてたことなんかないわよ、ここ」

「さてと」

トンクスが、みんなにショーウィンドウのほうに来るように合図した。
ことさら醜いマネキン人形が1体飾られている場所だ。つけ睫が取れかかってぶら下がり、緑色のナイロンのエプロンドレスを着ている。

「みんな、準備オッケー?」

みんながトンクスの周りに集まって頷いた。
ムーディがハリーの肩甲骨の間あたりを押し、前に出るように促した。

「何をどうするの?」

そう尋ねたサクヤの、憑きものが落ちたような表情は、ハリーとは対照的に明るいものだった。
トンクスは意味深に微笑むと、ウィンドウのガラスに近寄り、息でガラスを曇らせながら、ひどく醜いマネキンを見上げて声をかけた。

「こんちわ。アーサー・ウィーズリーの面会に来たんだけど」

ガラス越しにそんなに低い声で話してマネキンに聞こえると思うなんて、トンクスはどうかしている、とハリーは思った。
そのくらい、トンクスのすぐ後ろをバスがガタガタ走っているし、買い物客でいっぱいの通りはやかましかった。そのあと、そもそもマネキンに聞こえるはずがないと気がついた。

次の瞬間、サクヤは「わっ」と声を上げ、ハリーはショックで口があんぐり開いた。
マネキンが小さく頷き、節に継ぎ目のある指で手招きしたのだ。
トンクスはサクヤの腕を組むと、ガラスをまっすぐ突き抜けて姿を消した。
次にジニーの肘を掴んだウィーズリーおばさん、そしてフレッド、ジョージ、ロンとそのあとに続いた。
ハリーは周囲にひしめき合う人混みをちらりと見回した。
「パージ・アンド・ダウズ商会」のような汚らしいショーウィンドウに、ただの一瞥もくれるような人はいないし、たったいま、7人もの人間が目の前から掻き消されるようにいなくなったことに、誰ひとり気づく様子もない。

「さあ」

ムーディがまたしてもハリーの背中を突ついて唸るように言った。
ハリーは一緒に前に進み、冷たい水のような感触の膜の中を突き抜けた。
しかし、反対側に出た2人は冷えてもいなかったし、濡れてもいなかった。

醜いマネキンは跡形もなく消え、マネキンが立っていた場所もない。
そこは、混み合った受付のような所で、ぐらぐらした感じの木の椅子が何列も並び、魔法使いや魔女が座っていた。
見たところ、どこも悪くなさそうな顔で、古い「週刊魔女」をパラパラ捲っている人もいれば、胸から象の鼻や余分な手が生えた、ぞっとするような姿形の人もいる。
この部屋も外の通りより静かだとは言えない。
患者の多くが、奇妙キテレツな音を立てているからだ。
一番前の列の真ん中では、汗ばんだ顔の魔女が「日刊予言者」で激しく顔を扇ぎながら、ホイッスルのような甲高い音を出し続け、口から湯気を吐いていた。
隅のほうのむさくるしい魔法戦士は、動くたびに鐘の音がした。そのたびに頭がひどく揺れるので、自分で両耳を押さえて頭を安定させていた。
ライムのような緑色のローブを着た魔法使いや魔女が、列の間を往ったり来たりして質問し、アンブリッジのようにクリップボードに書き留めていた。
ハリーは、ローブの胸にある縫い取りに気づいた。杖と骨がクロスしている。

「あの人たちは医者ドクターなのかい?」

ハリーはそっとロンに聞いた。

医者ドクター?」

ロンはまさかという目をした。

「人間を切り刻んじゃう、マグルの変人のこと?
違うさ。癒しの『癒者ヒーラー』だよ」

「こっちよ!」

隅の魔法戦士が鳴らす鐘の音に負けない声で、ウィーズリーおばさんが呼んだ。
みんながおばさんについて、列に並んだ。
列の前には「案内係」と書かれたデスクがあり、ブロンドのふっくらした魔女が座っていた。
その後ろには、壁一面に掲示やらポスターが貼ってある。

鍋が不潔じゃ、薬も毒よ

無許可の解毒剤は無解毒剤


長い銀色の巻き毛の魔女の大きな肖像画も掛かっていて、説明がついている。

ディリス・ダーウェント
 聖マンゴの癒者       1722-1741
 ホグワーツ魔法魔術学校校長 1741-1768


ディリスは、ウィーズリー一行を数えているような目で見ていた。
肖像画がディリスのものであることに気がついたサクヤが、彼女のもとへ駆け寄った。

「あの――伝言をお願いできますか?」

サクヤがそう尋ねると、ディリスは人数を確認してからサクヤの方を向いた。

「『やりました。完全に防ぐことができました』と」

ディリスはその言葉を受け取ると、「任せな」と請け合ってくれた。
そのやりとりを見ていたハリーと目が合うと、ちょこりとウィンクして、額の縁のほうに歩いていき、姿を消した。



_

( 141/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -