The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーは、何かしていないと堪らないので飲んでいただけだった。
胃袋は恐ろしい、煮えたぎるような罪悪感でいっぱいだった。
みんながここにいるのは僕のせいだ。みんなまだベッドで眠っているはずだったのに。
警報を発したからこそウィーズリーおじさんが見つかったのだと自分に言い聞かせても、何の役にも立たなかった。
そもそもウィーズリー氏を襲ったのは自分自身だという、厄介な事実からは逃れられなかった。

ハリーはちらりと、バタービールの瓶を見つめるサクヤを盗み見た。
いい加減にしろ。ハリーに牙なんかないだろ?もしもハリーがサクヤにこの罪悪感を打ち明けたら、そう叱ってくれるだろう。
そう想像して、落ち着こうとした。しかし、バタービールを持つ自分の手が震えていた。ハリーはベッドに横になってた。誰も襲っちゃいないよ……。

しかし、それならダンブルドアの部屋で起こったことは何だったのだ?

いつしか頭の中のサクヤの声は自分に変わり、自問自答していた。僕は、ダンブルドアまでも襲いたくなった……。

ハリーは瓶をテーブルに置いたが、思わず力が入りビールがテーブルにこぼれた。誰も気がつかない。
そのとき空中に炎が上がり、目の前の汚れた皿を照らし出した。
みんなが驚いて声をあげるなか、羊皮紙がひと巻、ポトリとテーブルに落ち、黄金の不死鳥の尾羽根も1枚落ちてきた。

「フォークス!」

そう言うなり、シリウスが羊皮紙をさっと取り上げた。

「ダンブルドアの筆跡ではない――君たちの母さんからの伝言に違いない――さあ――」

シリウスが手紙をジョージの手に押しつけ、ジョージが引きちぎるようにそれを広げて読み上げた。

お父さまはまだ生きています。
母さんは聖マンゴに行くところです。
じっとしているのですよ。できるだけ早く知らせを送ります。
ママより


ジョージがテーブルを見回した。

「まだ生きてる……」

ゆっくりと、ジョージが言った。

「だけど、それじゃ、まるで……」

最後まで言わなくてもわかった。ハリーもそう思った。
まるでウィーズリーおじさんが、生死の境を彷徨っているような言い方だ。
ロンは相変わらずひどく青い顔で、母親の手紙の裏を見つめていた。まるで、そこに慰めの言葉を求めているかのようだった。
フレッドはジョージの手から羊皮紙を引ったくり、自分で読んだ。それからハリーを見た。
ハリーはバタービールを持つ手が、また震えだすのを感じ、震えを止めようと、いっそう固く握り締めた。
ウィーズリー家の視線から逃れるようにして、ハリーは再びサクヤを見た。
サクヤは先ほどハリーと一緒にみんなに説明したとき以来、ずっと押し黙ったままだった。
きっと、ウィーズリー氏の安否だけが心配事じゃないのだろう。緊張した面持ちで常にシリウスのそばから離れないようにしていた。

こんなに長い夜をまんじりともせずに過ごしたことがあったろうか……ハリーの記憶にはなかった。
シリウスが、言うだけは言ってみようという調子で、ベッドで寝てはどうかと一度だけ提案したが、ウィーズリー兄弟妹きょうだいの嫌悪の目つきだけで、答えは明らかだった。
全員がほとんど黙りこくってテーブルを囲み、ときどきバタービールの瓶を口元に運びながら、蝋燭の芯が、溶けた蝋溜まりにだんだん沈んでいくのを眺めていた。
話すことといえば、時間を確かめ合うとか、どうなっているんだろうと口に出すとか、ウィーズリー夫人はとっくに聖マンゴに着いていたのだから、悪いことが起こっていれば、すでにそういう知らせが来ていたはずだと、互いに確認し合ったりするばかりだった。

フレッドがとろっと眠り、頭が傾いで肩についた。
ジニーは椅子の上で猫のように丸まっていたが、目はしっかり開いていた。
そこに暖炉の火が映っているのを、ハリーは見た。
ロンは両手で頭を抱えて座っていた。眠っているのか起きているのかわからない。
家族の悲しみを前に、よそ者のハリーとサクヤ、シリウスの3人は幾度となく顔を見合わせた。そして待った……ひたすら待った……。

ロンの腕時計で明け方の5時10分過ぎ、厨房の戸がパッと開き、ウィーズリーおばさんが入ってきた。
ひどく青ざめてはいたが、みんなが一斉に顔を向け、フレッド、ロン、ハリーが椅子から腰を浮かせたとき、おばさんは力なく微笑んだ。

「大丈夫ですよ」

おばさんの声は、疲れきって弱々しかった。

「お父さまは眠っています。
あとでみんなで面会に行きましょう。いまは、ビルが看ています。午前中、仕事を休む予定でね」

フレッドは両手で顔を覆い、ドサリと椅子に戻った。
ジョージとジニーは立ち上がり、急いで母親に近寄って抱きついた。
ロンはへなへなと笑い、隣にいたサクヤと力なくハイタッチをして、残っていたバタービールを一気に飲み干した。

「朝食だ!」

シリウスが勢いよく立ち上がり、うれしそうに大声で言った。

「あのいまいましいしもべ妖精はどこだ?クリーチャー!クリーチャー!

「シリウス、そんな言い方をすると、ハルが怒るんじゃないか?」

久しぶりに口を開いたサクヤがそう注意していたが、声色は安堵にあふれたもので、ハリーには本当に咎めているように聞こえなかった。
しかし、シリウスが呼んでもクリーチャーは呼び出しに応じなかった。

「ハーマイオニーがここにいない以上、そんなこと気にするまでもない――クリーチャー!
……来ないなら、それでいい」

シリウスはそう呟くと、人数を数えはじめた。

「それじゃ、朝食は――ええと――8人か……ベーコンエッグだな。それと紅茶にトーストと――」

シリウスが移動したので、それにくっついてサクヤも立ち上がった。それに続いて、ハリーも準備を手伝おうと調理台のほうへ急いだ。
ウィーズリー一家の幸せを邪魔してはいけないと思った。
それに、ウィーズリーおばさんから、自分の見たことを話すようにと言われる瞬間が怖かった。
ところが、食器棚から皿を取り出すや否や、おばさんがハリーの手からそれを取り上げ、ハリーをひしと抱き寄せた。

「ハリー、あなたがいなかったらどうなっていたかわからないわ」

おばさんはくぐもった声で言った。
それからすぐにハリーを放し、同じように手伝いを始めようとしていたサクヤも抱きしめた。

「サクヤ、あなたもよ。
アーサーを見つけるまでに何時間も経っていたかもしれない。そうしたら手遅れだったわ。
でも、あなたたちのおかげで命が助かったし、ダンブルドアはアーサーがなぜあそこにいたかを、うまく言い繕う話を考えることもできたわ。
そうじゃなかったら、どんなに大変なことになっていたか。かわいそうなスタージスみたいに……」

ハリーはおばさんの感謝にいたたまれない気持ちだった。
おばさんはサクヤを解放すると、シリウスに向かって、ひと晩じゅう子供たちを見ていてくれたことに礼を述べた。
シリウスは役に立ってうれしいし、ウィーズリー氏が入院中は、全員がこの屋敷に留まってほしいと答えた。

「まあ、シリウス、とてもありがたいわ……アーサーはしばらく入院することになると言われたし、なるべく近くにいられたら助かるわ……その場合は、もちろん、クリスマスをここで過ごすことになるかもしれないけれど」

「大勢のほうが楽しいよ!」

シリウスが心からそう思っている声だったので、ウィーズリーおばさんはシリウスに向かってにっこりし、手早くエプロンを掛けて朝食の支度を手伝いはじめた。

「シリウスおじさん」

ハリーは切羽詰まった気持ちでいた。

「ちょっと話があるんだけど、いい?あの――いますぐ、いい?

シリウスが親指でサクヤを指すと、ハリーは少し考えて、「サクヤも一緒でいいよ」と頷いたが、これから話すことを考えると、本当は嫌だった。
ハリーが暗い食料庫に入ると、シリウスとサクヤが従いてきた。
何の前置きもせずに、ハリーは名付け親に、自分の見た光景を詳しく話して聞かせた。自分自身がウィーズリー氏を襲った蛇だったことも話した。

ひと息ついたとき、シリウスが聞いた。

「そのことをダンブルドアに話したか?」

「うん」

ハリーは焦れったそうに言った。

「だけど、ダンブルドアはそれがどういう意味なのか教えてくれなかった。まあ、ダンブルドアはもう僕に何にも話してくれないんだけど」

「そんなことないと思うよ、ハリー」

サクヤが優しく言った。

「ああ。何か心配するべきことだったら、きっと君に話してくれていたはずだ」

シリウスも落ち着いてサクヤに続けて言った。

「だけど、それだけじゃないんだ」

ちらりとサクヤを見てから、ハリーがほとんど囁きに近い声で言った。

「シリウス、僕……僕、頭がおかしくなってるんじゃないかと思うんだ。
ダンブルドアの部屋で、移動キーに乗る前だけど……ほんの一瞬、僕は蛇になったと思った。
そう感じたんだ――ダンブルドアを見たとき、傷痕がすごく痛くなった――シリウスおじさん、僕、ダンブルドアを襲いたくなったんだ!」

ハリーには、シリウスの顔のほんの一部しか見えなかった。あとは暗闇だった。
サクヤのほうは見ないようにした。

「幻を見たことが尾を引いていたんだろう。それだけだよ」

シリウスが言った。

「夢だったのかどうかわからないが、まだそのことを考えていたんだよ」

「そんなんじゃない」

ハリーは首を振った。

「何かが僕の中で伸び上がったんだ。まるで身体の中に蛇がいるみたいに」

「眠らないと」

シリウスがきっぱりと言った。

「朝食を食べたら、上に行って休みなさい。
昼食のあとで、みんなと一緒にアーサーの面会に行けばいい。
ハリー、君はショックを受けているんだ。単に目撃しただけのことを、自分のせいにして責めている。
それに、君が目撃したのは幸運なことだったんだ。そうでなけりゃ、アーサーは死んでいたかもしれない。心配するのはやめなさい」

シリウスはハリーの肩をポンポンと叩き、サクヤの背を押して食料庫から出ていった。ハリーは独り暗がりに取り残された。




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