The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーは身体の中の恐怖が、いまにも溢れ出しそうな気がした。駆けだして、大声でダンブルドアを呼びたかった。
ウィーズリーおじさんは、こうして僕たちがゆるゆる歩いているときにも、血を流しているのだ。
あの牙が(ハリーは必死で「自分の牙」とは考えないようにした)、毒を持っていたらどうしよう?
5人はミセス・ノリスの前を通った。猫はランプのような目を5人に向け、微かにシャーッと鳴いたが、マクゴナガル先生が「シッ!」と追うと、こそこそと物陰に隠れた。
それから数分後、5人は校長室の入口を護衛する石のガーゴイル像の前に辿り着いた。

「フィフィ フィズビー」

マクゴナガル先生が唱えた。
ガーゴイル像に命が吹き込まれ、脇に飛び退いた。
その背後の壁が2つに割れ、石の階段が現れた。螺旋状のエスカレーターのように、上へ上へと動いている。
5人が動く階段に乗ると、背後で壁が重々しく閉じ、5人は急な螺旋を描いて上へ上へと運ばれ、最後に磨き上げられた樫の扉の前に到着した。扉にはグリフィンの形をした真鍮のドアノッカーがついている。
真夜中をとうに過ぎていたが、部屋の中から、ガヤガヤ話す声がはっきりと聞こえた。
ダンブルドアが少なくとも十数人の客をもてなしているような声だった。

マクゴナガル先生がグリフィンの形をしたノッカーで扉を三度叩いた。
すると、突然、誰かがスイッチを切ったかのように、話し声がやんだ。
扉が独りでに開き、マクゴナガル先生はハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーを従えて中に入った。

部屋は半分暗かった。
テーブルに置かれた不思議な銀の道具類は、いつもならくるくる回ったりポッポッと煙を吐いたりしているのに、いまは音もなく動かなかった。
壁一面に掛けられた歴代校長の肖像画は、全員額の中で寝息を立てている。
入口扉の裏側で、白鳥ほどの大きさの、赤と金色の見事な鳥が、翼に首を突っ込み、止まり木でまどろんでいた。

「おう、あなたじゃったか、マクゴナガル先生……それに……ああ

ダンブルドアは机に向かい、背もたれの高い椅子に座っていた。
机に広げられた書類を照らす蝋燭の明かりが、前屈みになったダンブルドアの姿を浮かび上がらせた。
雪のように白い寝間着の上に、見事な紫と金の刺繍が施されたガウンを着ている。
しかし、はっきり目覚めているようだ。明るいブルーの目が、マクゴナガル先生をしっかりと見据えていた。

「ダンブルドア先生、ポッターとフェリックスが……そう、悪夢を見ました」

マクゴナガル先生が言った。

「いえ、悪夢というより……」

見たんです。実際に」

ハリーが素早く口を挟んだ。
マクゴナガル先生がハリーを振り返った。少し顔をしかめている。

「いいでしょう。
では、ポッター、あなたからそのことを校長先生に申し上げなさい」

「僕……あの、たしかに眠っていました……」

ハリーは恐怖に駆られ、ダンブルドアにわかってもらおうと必死だった。
それなのに、校長がハリーのほうを見もせず、組み合わせた自分の指をしげしげと眺めているので、少し苛立っていた。

「でも、普通の夢じゃなかったんです……現実のことでした……僕はそれを見たんです……。サクヤも同じ光景を見たと言っていました。でも――」

サクヤの名前が出たとたん、ダンブルドアが初めて指から目を離した。
しかしハリーを見たわけではない。ダンブルドアはまっすぐにサクヤを見ている。

「本当かね?」

ダンブルドアはサクヤに訊ねた。

「はい」

サクヤは深く息を吸った。

「ロンのお父さん――ウィーズリーさんが、巨大な蛇に襲われたんです」

言い終えたサクヤの言葉が、ハリーには空中に虚しく反響しているような感じがした。バカバカしく、滑稽にさえ聞こえた。
一瞬の間が空き、ダンブルドアは背もたれに寄り掛かって、何か瞑想するように天井を見つめた。
ショックで蒼白な顔のロンが、ハリーからサクヤ、そしてダンブルドアへと視線を移した。ハーマイオニーは黙ったまま、サクヤのそばに寄り添っている。

入り込まれたのか?」

「いえ、すぐにその――そうしたので、大丈夫だったと思います」

奇妙な会話だった。
ダンブルドアとサクヤが見つめ合ったまま、また一瞬の時間が流れ、それからまたダンブルドアが静かに口を開いた。

「どんなふうに見たのかね?」

「全部、蛇の目を通して見ていました。ハリーも一緒に」

「2人は――」

「あの、ベッドで眠っていたときに、夢に――頭の中に割り込んでくるような形で見ました。でも本当に起きたことなんです」

ダンブルドアが何か言いかけたが、我慢ならなかったハリーが再び口を挟んだ。
それなのに、ダンブルドアはまだハリーを見てくれない。サクヤが話しているときはサクヤのほうを見たというのに。
ハリーはまた腹が立った――どんなふうに、なんて、そんなことどうでもいいじゃないか?

「ハリー、君には私の言ったことがわからなかったようだね」

苛立つハリーとは対照的に、ダンブルドアの静かな声は変わらなかった。

「つまり、わしが聞きたかったのは、襲われたのを見ていたとき、君たちがどの場所にいたのか、ということじゃ。
犠牲者の脇に立っていたのか、上からその場面を見下ろしていたのか――それは今、サクヤが『蛇の目から』と教えてくれた。
それから、そのとき君たち2人は隣り合ってそれを見ていたのか、ということをさらに聞こうとしておった。どうかな?」

あまりに奇妙な質問に、ハリーは口をあんぐり開けてダンブルドアを見つめた。
聞くまでもなく、まるで何もかも知っているような……。

「僕は蛇になっていました。でも――」

ハリーが言った。

「――でも、サクヤはあそこにはいませんでした」

ハリーがあの光景で感じ取ったのは、自分の身体となっていた大蛇と、ウィーズリーおじさんの2人だけで、他には誰もいなかった。
しかし、サクヤは首を横に振っていた。

「オレもあの場にいたよ。ハリーとおんなじ目線から、おんなじ光景を見た。ハリーが気づかなかっただけで……。
それよりダンブルドア先生、急がないと本当に――」

「アーサーはひどい怪我なのか?」

ダンブルドアが、相変わらず血の気が失せた顔のロンに目を移しながら、さっきとは違う鋭い声で聞いた。

はい

サクヤよりも早く、ハリーが力んで答えた。
どうしてみんな理解がのろいんだ?あんなに長い牙が脇腹を貫いたら、どんなに出血するかわからないのか?
それにしても、ダンブルドアは、せめて僕の顔を見るぐらいは礼儀じゃないか?

ところが、ダンブルドアは素早く立ち上がった。あまりの速さに、ハリーが飛び上がるほどだった。
それから、天井近くに掛かっている肖像画の1枚に向かって話しかけた。

「エバラード!」

鋭い声だった。

「それに、ディリス、あなたもだ!」

短く黒い前髪の青白い顔をした魔法使いと、その隣の額にいる銀色の長い巻き毛の老魔女が、深々と眠っているように見えたが、すぐに目を開けた。

「聞いていたじゃろうな?」

魔法使いが頷き、魔女は「当然です」と答えた。

「その男は、赤毛で眼鏡を掛けておる」

ダンブルドアが言った。

「エバラード、あなたから警報を発する必要があろう。その男が然るべき者によって発見されるよう――」

2人とも頷いて、横に移動し、額の端から姿を消した。
しかし、隣の額に姿を現すのではなく(通常、ホグワーツではそうなるのだが)、2人とも消えたままだった。
1つの額には真っ黒なカーテンの背景だけが残り、もう1つには立派な革張りの肘掛椅子が残っていた。
壁に掛かった他の歴代校長は、間違いなく寝息を立て、涎を垂らして眠り込んでいるように見えるが、気がつくとその多くが、閉じた瞼の下から、ちらちらとハリーを盗み見ている。
扉をノックしたときに中で話をしていたのが誰だったのか、ハリーは突然悟った。

「エバラードとディリスは、ホグワーツの歴代校長のなかでも最も有名な2人じゃ」

ダンブルドアはハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニー、マクゴナガル先生の脇を素早く通り過ぎ、今度は扉の脇の止まり木で眠る見事な鳥に近づいていった。

「高名なゆえ、2人の肖像画はほかの重要な魔法施設にも飾られておる。
自分の肖像画であれば、その間を自由に往き来できるので、あの2人は外で起こっているであろうことを知らせてくれるはずじゃ……」

「だけど、ウィーズリーさんがどこにいるかわからない!」

ハリーが言った。

「みんな、お座り」

ダンブルドアはハリーの声が聞こえなかったかのように言った。

「エバラードとディリスが戻るまでに数分はかかるじゃろう。マクゴナガル先生、椅子をもう少し出して下さらんか」

マクゴナガル先生が、ガウンのポケットから杖を取り出してひと振りすると、どこからともなく椅子が5脚現れた。
背もたれのまっすぐな木の椅子で、ダンブルドアがハリーの尋問のときに取り出したあの座り心地のよさそうなチンツ張りの肘掛椅子とは大違いだった。
ハリーは振り返ってダンブルドアを観察しながら腰掛けた。
ダンブルドアは、指1本で、飾り羽のあるフォークスの金色の頭を撫でていた。
不死鳥はたちまち目を覚まし、美しい頭を高々ともたげ、真っ黒なキラキラした目でダンブルドアを覗き込んだ。

「見張りをしてくれるかの」

ダンブルドアは不死鳥に向かって小声で言った。炎がパッと燃え、不死鳥は消えた。




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