The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




4人はそれから20分ほど黙りこくっていた。
ロンは何度も間違いを棒線で消したりしながら、何度もイライラと鼻を鳴らしつつ「変身術」のレポートを書き終え、ハーマイオニーはあれこれ考えながら、羊皮紙の端までまだせっせと書き込んでいる。
サクヤはついに睡魔に負け、ハーマイオニーの肩を枕に、舟をこぎ出していた。
「もうすぐ終わるから、先に上がっていたら?」とハーマイオニーが促しても、サクヤは「まってる……」とむにゃむにゃするだけだった。
ハリーは暖炉の火を見つめ、シリウスの頭が現れて、女の子について何か助言してほしいと、そればかりを願っていた。
しかし、火はだんだん勢いを失い、真っ赤な熾火もついに灰になって崩れた。
気がつくと、談話室に最後まで残っているのは、またしてもこの4人だった。

「じゃあ、おやすみ」

散らばった「変身術」の参考書や羊皮紙をまとめ、ロンは大きな欠伸をしながら、男子寮の階段へ向かったので、ハリーもそれに続くことにした。

「クラムとずっと手紙のやりとりをしてるの、サクヤは本当に気にならないのかな?」

ハリーと一緒に階段を上りながら、ロンが問い詰めた。

「もし――もし僕に彼女がいて、そいつ宛てに羊皮紙にびっしり書き込んだ手紙を送ろうとしてたら、僕は嫌だけどなあ」

「そうだな」

ハリーは考えた。

「サクヤとも手紙の内容を確認してたし、別にラブレターってやつの類じゃないんだろう」

「うん、だけどクラムはハーマイオニーを狙ってるんだろ?」

ロンが4年生のときのことを思い出しながら言った。

「まだ機会を窺ってるかもしれないじゃないか?」

「そうかもしれないね、うん」

ハリーはまだチョウのことを考えていたので、曖昧な返事になっていた。
2人は黙ってローブを脱ぎ、パジャマを着た。
ディーン、シェーマス、ネビルはとっくに眠っている。
ハリーはベッド脇の小机に眼鏡を置き、ベッドに入ったが、周りのカーテンは閉めずに、ネビルのベッド脇の窓から見える星空を見つめた。
昨夜のいまごろ、24時間後にはチョウ・チャンとキスしてしまっていることが予想できただろうか……。

「おやすみ」

どこか右のほうから、ロンがボソボソ言うのが聞こえた。

「おやすみ」

ハリーも言った。
この次には……次があればだが……チョウはたぶんもう少し楽しそうにしているかもしれない。
デートに誘うべきだった。たぶんそれを期待していたんだ。
いまごろ僕に腹を立てているだろうな……それとも、ベッドに横になって、セドリックのことでまだ泣いているのかな?

ハリーは何をどう考えていいのかわからなかった。
ハーマイオニーの説明で理解しやすくなるどころか、かえって何もかも複雑に見えてきた。

そういうことこそ、学校で教えるべきだ、寝返りを打ちながらハリーはそう思った。
女の子の頭がどういうふうに働くのか……とにかく、「占い学」よりは役に立つ……。
サクヤとハーマイオニーのカップルを参考にしてみようか?

もう一度寝返りを打って考えてみた。
でも、僕たちは部屋はおろか、寮すら違う。彼女たちのように四六時中ずっと一緒にはいられないし、朝から晩まで、もしずっとチョウと一緒にいるとしたら……。
ハリーは身震いした。そんなの、話す話題なんてあっという間になくなってしまうじゃないか……。

ネビルが眠りながら鼻を鳴らした。ふくろうが夜空のどこかでホーと鳴いた。


ハリーが眠りに落ちるころ、談話室ではハーマイオニーがようやく手紙を書き終えたところだった。

「お待たせ、終わったわよ」

ハーマイオニーが、羊皮紙を丁寧に丸め、封をしながら言った。

「サクヤ?」

ハーマイオニーは肩を少し動かし、肩に寄り掛かって眠るサクヤの顔を覗き込んだ。
二重瞼がしっかりと閉じられ、代わりに口が少し開いている。

この状況は、忘れもしない。前にも経験がある……。
ハリーのファーストキスに伴って思い出されたのは、ハーマイオニー自身のファーストキスの記憶だった。
1年生のとき、夜中にこっそり抜け出そうとするハリーとロンを待ち伏せながら眠ってしまったサクヤに、ひそやかに勝手なキスをした、甘くも苦い思い出だ。

「サクヤ、上で寝ましょう?」

優しくそう言うと、ハーマイオニーは昔を思い出しながら、同じ姿勢でキスをした。

あの時とは違い、今ではもう、こっそりとしなくてもいいし、罪悪感を抱く必要もない。
眠りが浅かったのか、気がついたサクヤはくすぐったそうにクスクスと笑った。

「……ふふ、4年ぶりだね」

サクヤのその言葉は、ハーマイオニーにとって思いがけないものだった。

「え……?」

「ここでキスするの」

目を開けたサクヤがふにゃりと笑った。

「え!?」

ハーマイオニーにはとうてい理解が追いついていなかった。
あの思い出は自分だけのもののはず。他の誰にも言ったことがないし、サクヤ自身は眠っていて気がつかなかった――

「まさか、あのとき実は起きてたの……!?」

ハーマイオニーが問い詰めると、サクヤは身体を起こしながら首を振った。

「正確に言うと、夢うつつの出来事だったからほとんど忘れてたんだけど」

サクヤはハーマイオニーの耳の下に柔らかく手を滑り込ませた。

「閉心術の訓練のとき、過去の記憶を掘り返されるんだ。
自分でも覚えてなかったようなそういう記憶も、そのときに思い出すことがあって」

ハーマイオニーは真っ赤に茹った自分の顔を、手で覆いたくて仕方がなかった。
それなのに、耳の下に優しく添えられたサクヤの両手がそれを許してくれない。

「夢か現実か分からない出来事だったんだけど、いま確信した」

もう一度、今度はサクヤから、今の2人の関係にふさわしい口づけをし直した。

「オレのキスは上手?」

先ほどのハリーたちとの会話を思い出しながら、サクヤが静かに、いたずらっぽく尋ねた。
ようやくサクヤの手から解放されたハーマイオニーは、たまらず彼女の肩口に額を擦り付けながら、なんとか絞り出すように答えた。

「合格点以上よ……。
――あのとき、勝手に触れてごめんなさい……」

「ううん。
あのときからずっと、思い続けてくれて、ありがとう」

2人は自分たちの寮室に戻ると、1つのベッドに一緒にもぐり込んだ。
身を寄せ合い、何度も角度を変えてキスを繰り返し、お互いの吐息で呼吸した。
初めて身体を重ねたときのように、彼女の反応のいいところを気にしながら、そこばかりに触れるやり方は今はしない。
おそらく本人よりも、彼女の身体について熟知している自信があった。
サクヤの指先が服の隙間からハーマイオニーの背を撫で上げ、その軌道に沿って、ぞくぞくとした甘い痺れを走らせていく。
背骨のライン上の、皮膚の薄い部分に指を這わせてやれば、ハーマイオニーはぴくりと反応する。
腕の中でくぐもった声をあげ、悶える彼女を密着させた身体で感じながら、サクヤは夢中でハーマイオニーを貪った。

しかし、その感覚は突然訪れた。
次にどこで焦らそうかと、ハーマイオニーを組み敷きながら見下ろしたとき、サクヤの心に何かが侵入しようとする急な感覚に襲われた。
胃の底が抜けるような、この恐ろしい感覚はよく知っている……サクヤはすかさず閉心術を使い、そちらに集中せざるを得なくなってしまった。
ぱたりと手が止まったサクヤに、ハーマイオニーもすぐに気がついた。彼女の内側で何かが起こっている。
ハーマイオニーは呼吸を整えながら、咄嗟に彼女の左腕に手を添えた。
こんな邪魔のされ方をするのは、これが原因に違いない。そう思ったのだ。

サクヤは同じ姿勢のまま、目に映った何かを見ているみたいにじっと一点だけを凝視していた。

実際に、サクヤの目には寮室ではないどこか暗い通路が映っていた。
そしてそこにはハリーもいる……ハリーと一緒に何かの中に入り込んでいる……。

その身体は滑らかで力強く、しなやかだった。
2人は光る金属の格子の間を通り、暗く冷たい石の上を滑っていた……床にぴったり張りつき、腹這いで滑っている……暗い。しかし、周りのものは見える。
不気味な鮮やかな色でぼんやり光っているのだ……2人は頭を回した……一見したところ、その廊下には誰もいない……いや、違う……行く手に男が1人、床に座っている。
顎がだらりと垂れて胸についている。その輪郭が、暗闇の中で光っている……。
2人は舌を突き出した……空中に漂う男の臭いを味わった……生きている。居眠りしている……廊下の突き当たりの扉の前に座って……。

そこで、ハリーがその男に噛みつきたがっているのをサクヤは感じ取った……ハリーとサクヤは、それぞれ意識が分かれていて、サクヤにはハリーがどうしたいのかが分かるようだった……。
もっと大切な仕事があるのだから、その噛みつきたい衝動を抑えなければならない……ハリーはそう思っていた。
その大切な仕事はやり遂げさせるわけにはいかない……サクヤはそう感じていた。

サクヤは自分の意志ではうまく動かないながらも、なんとか身体を無駄にのたうたせて、目の前の男に存在を知らせることにした……本当にささやかな抵抗だった……しかし男はそれに気がついた。
急に立ち上がり、膝から銀色の「マント」が滑り落ちた。
鮮やかな色のぼやけた男の輪郭が、2人の上に聳え立つのが見えた。男がベルトから杖を引き抜くのが見えた……。
よし、それでいい……サクヤはそう思った。しかたがない……ハリーは男と敵対することにした。
ハリーが身体を床から高々と伸び上げ、男を襲う姿勢になった。
サクヤはすかさず、再び動きを阻止しようと踏ん張った……しかし……。
1回、2回、3回。ハリーの牙が男の肉に深々と食い込んだ。
男の肋骨が、ハリーの両顎に砕かれるのを感じた。それはつまり、サクヤにも共有されたことになる……生暖かい血が顎のなかで噴き出す感覚を味わった……。

男は苦痛の叫びをあげた……そして静かになった……壁を背に仰向けにドサリと倒れた……血が床に飛び散った……。

このままこの意識の中にいて、こんな些細な妨害をするだけじゃだめだ。サクヤは気がついた。
ここにいてはいけない……知らせなければ。
サクヤが強く頭を振ると、意識はすぐに自室に戻ってきた。
目の前では、ハーマイオニーがサクヤの手を握りしめ、真っ青な顔で自分を覗き込んでいた。

「ハル……」

「大丈夫なの?何が起きたの?」

きっと、自分自身もハーマイオニーに負けないくらい真っ青な顔色なのだろう。
額にぐっしょりとかいた冷や汗を、ハーマイオニーが拭ってくれている。

「ごめん、行かなきゃ……知らせなきゃ……」

ベッドからずり落ちるように降りると、足元がふらついた。
口のなかには、まだ骨を噛み砕いた感覚が残っている……。

「どこへ行けばいい?校長室?」

ハーマイオニーがサクヤに肩を貸しながら尋ねた。

「うん……そう、そうだね、そこがいいと思う……でも、ハルはハリーを起こしに行って……苦しんでる……。それに、ロンも――」

生暖かい血がまた口から噴き出すようだった。
サクヤがパッと口元を押さえたが、もちろん血は1滴もこぼれていない。生唾がせり上がってくる感覚だけだ。激しい吐き気がある。

「ロン?ロンも関係があるの?」

2人で女子寮の階段を下りながら、ハーマイオニーが早口に訊ねた。
サクヤがこくりと頷き、説明しようとしたところで、青ざめた顔をして男子寮から駆け下りてくるネビルと鉢合わせた。

「2人とも助けてっ――ハリーが吐いちゃった!」

しかしネビルはそこまで言って、サクヤの異常にも気がついたようだった。

「もしかして、サクヤも?」

「うん……たぶん、同じことが起こった。
ハリーも目を覚ましたなら、それじゃ――それじゃ、急いで校長室に行かなきゃ……」

サクヤが必死に頭を働かせながら言った。
しかし、談話室を出ようとするのを、何かに気がついたハーマイオニーが引き留めた。

「ねえ、でも私たち、校長室の合言葉を知らないわ。だからまずはマクゴナガル先生を呼ばないと――」

なんとももどかしい手順だった。
しかし、これよりも早い方法が思いつかなかったサクヤは、ハーマイオニーに同意することにした。
サクヤの頷きを受け、ハーマイオニーは努めて冷静を装い、ネビルにてきぱきと指示を出した。

「ネビルはマクゴナガル先生を呼んできて、ハリーとサクヤのことを伝えてちょうだい。
私たちはハリーを見ていないけど、たぶん、ほとんど同じような状態だと思うから――それから、私たちはハリーたちと合流したらすぐに校長室に向かい始めることも伝えてもらえるかしら。
急いでダンブルドア先生に伝えなくちゃいけないことがあるの――」

ネビルはこくこくと何度も頷き、足をもつれさせながら談話室を出て行った。
ハーマイオニーだって、たった今サクヤがハリーと一緒に見た光景の詳細を知らない。にも関わらず、しどろもどろな言葉から得られたわずかな情報から最適解を見つけだし、サクヤに代わって立ち回ってくれた。

「ありがとう、ハル。
さあ、急いでハリーたちのところへ行こう――」

気を持ち直したサクヤが言うと、2人は男子寮への階段を上った。




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