The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
12月がますます深い雪を連れてやって来た。
5年生の宿題も雪崩のように押し寄せた。
日曜午後のスネイプの特別授業を終えたいま、サクヤがかなり時間的余裕ができた一方で、ロンとハーマイオニーの監督生としての役目は、クリスマスが近づくにつれてどんどん荷が重くなっていた。
城の飾りつけの監督をしたり(「金モールの飾りつけするときなんか、ピーブズが片方の端を持ってこっちの首を絞めようとするんだぜ」とロン)、
厳寒で、1,2年生が休み時間中に城内にいるのを監視したり(「なにせ、あの鼻ったれども、生意気でむかつくぜ。僕たちが1年生のときは、絶対あそこまで礼儀知らずじゃなかったな」とロン)、
アーガス・フィルチと一緒に、交代で廊下の見回りもした。
フィルチはクリスマス・ムードのせいで決闘が多発するのではないかと疑っていた(「あいつ、脳みその代わりに糞が詰まってる。あの野郎」ロンが怒り狂った)。
2人とも忙しすぎて、見かねたサクヤが手伝いをしても仕事が終わらず、ハーマイオニーは、ついにしもべ妖精の帽子を編むことさえやめてしまった。あと3つしか残っていないと、ハーマイオニーは焦っていた。
「まだ解放してあげられないかわいそうな妖精たち。
ここでクリスマスを過ごさなきゃならないんだわ。帽子が足りないばっかりに!」
ハーマイオニーが作ったものは全部ドビーが取ってしまったなど、とても言い出せずにいたハリーは、下を向いたまま「魔法史」のレポートに深々と覆い被さった。
いずれにせよ、ハリーはクリスマスのことを考えたくなかった。
これまでの学校生活で初めて、ハリーはクリスマスにホグワーツを離れたいという思いを強くしていた。
クィディッチは禁止されるし、ハグリッドが停職になるのではないかと心配だし、そんなこんなで、ハリーはいま、この学校という場所がつくづくいやになっていた。
たった1つの楽しみはDA会合だった。
しかし、DAメンバーのほとんどが休暇を家族と過ごすので、DAもその間は中断しなければならないだろう。
ハーマイオニーは両親とスキーに行く予定だったが、これがロンには大受けだった。
マグルが細い板切れを足に括りつけて山の斜面を滑り降りるなど、ロンには初耳だったのだ。
サクヤも一緒にスキーをどうか、とハーマイオニーが誘ったが、サクヤはもうずっとゆっくり帰れていないのだから、とグレンジャー家の親子水入らずの時間を優先させることにしていた。
「じゃあ、サクヤは自分の城に帰るの?ホグワーツに残る?」
疑問に思ったハリーが尋ねると、サクヤはうーんと唸った。
「特訓が終わったいま、もうホグワーツの敷地から出てもいいとは思うけど、でも一応騎士団のメンバーに確認してから決めようかなって思ってる」
ハリーは、サクヤもホグワーツに残ればいいのに、とひっそりと思った。ロンが「隠れ穴」に帰る予定だからだ。
1人ぼっちでホグワーツに残るよりはずっといい――ハリーは数日間、ロンへの妬ましさに耐えていたが、クリスマスにどうやって家に帰るのかと聞いたとき、そんな思いを吹き飛ばす答えが返ってきた。
「だけど、君も来るんじゃないか!僕、言わなかった?
ママがもう何週間も前に手紙でそう言ってきたよ。君を招待するようにって!
それに、許しがもらえたら、もちろんサクヤもどうぞって!」
ハーマイオニーは「まったくもう」という顔をしたが、ハリーとサクヤの気持ちは躍った。
「隠れ穴」でクリスマスを過ごすと考えただけでわくわくした。
ただ、シリウスと一緒に休暇を過ごせなくなるのが後ろめたくて、ハリーは手放しでは喜べなかった。
名付け親をクリスマスのお祝いに招待してほしいと、ウィーズリーおばさんに頼み込んでみようかとも思った。
しかし、いずれにせよ、シリウスがグリモールド・プレイスを離れるのを、ダンブルドアは許可しないだろう。
それに、ウィーズリーおばさんがシリウスの来訪を望まないだろうと思わないわけにはいかなかった。2人がよく衝突していたからだ。
シリウスからは、暖炉の火の中に現れたのを最後に、何の連絡もなかった。
アンブリッジが四六時中見張っている以上、連絡しようとするのは賢明ではないとわかってはいたが、母親の古い館で、独りぼっちのシリウスが、クリーチャーと寂しくクリスマスのクラッカーの紐を引っ張る姿を想像するのは辛かった。
休暇前の最後のDA会合で、ハリーは早めに「必要の部屋」に行った。
それが正解だった。
松明がパッと灯ったとたん、ドビーが気を利かせてクリスマスの飾りつけをしていたことがわかったのだ。
ドビーの仕業なのは明らかだ。こんな飾り方をするのはドビー以外にありえない。
100あまりの金の飾り玉が天井からぶら下がり、その全部に、ハリーの似顔絵とメッセージがついていた。
「楽しいハリー・クリスマスを! サクヤより」ハリーが最後の1つをなんとか外し終わったとき、ドアがキーッと開き、ルーナ・ラブグッドがいつもどおりの夢見顔で入ってきた。
「こんばんは」
まだ残っている飾りつけを見ながら、ルーナがぼーっと挨拶した。
「きれいだね。あんたが飾ったの?」
「違う。屋敷しもべ妖精のドビーさ」
「ヤドリギだ」
ルーナが白い実のついた大きな塊を指差して夢見るように言った。
ほとんどハリーの真上にあった。ハリーは飛び退いた。
「そのほうがいいわ」
ルーナがまじめくさって言った。
「それ、ナーグルだらけのことが多いから」
そのとき、アンジェリーナ、ケイティ、アリシアが到着して、ナーグルが何なのか聞く面倒が省けた。3人とも息を切らし、いかにも寒そうだった。
「あのね」
アンジェリーナが、マントを脱ぎ、隅のほうに放り投げながら、活気のない言い方をした。
「やっと双子の代わりを見つけた」
「双子の代わり?」
ハリーはきょとんとした。
「フレッドとジョージよ」
アンジェリーナがもどかしげに言った。
「別なビーターを見つけた!」
「誰?」
ハリーはすぐ聞き返した。
「1人はジニー・ウィーズリー」
ケイティが言った。
ハリーは呆気に取られてケイティを見た。
「うん、そうなのよ」
アンジェリーナが杖を取り出し、腕を曲げ伸ばししながら言った。
「だけど、実際、かなりうまいんだ。もちろん、君や兄たちとは段違いだけど」
アンジェリーナは非難たらたらの目でハリーを見た。
「だけど君らを使えない以上……」
ハリーは言い返したくて喉まで出かかった言葉を、ぐっと呑み込んだ――
チームから除籍されたことを、君の100倍も悔やんでいるのはこの僕だろ?僕の気持ちも少しは察してくれよ。「それで、もう1人は?」
ハリーは平静な調子を保とうと努力しながら聞いた。
「アンドリュー・カーク」
アリシアが気のない返事をした。
「ジャック・スローパーと迷ったんだ。この2人はどっちも冴えないけど。ほかに志願してきたウスノロどもに比べれば……。
でも、ジニーは期待できそうだよ。本当はチェイサーやシーカー向きのすばしっこい飛び方をするけど、その席はどっちも選手が健在だし。試しにバットを持たせてみたら、これもまた思ったより上手いんだ。
それになにより、どうしてもチームに参加したいって気持ちが伝わった――」
サクヤ、ロン、ハーマイオニー、ネビルが到着して、責められているような気になる会話もここで終わり、5分と経たないうちに部屋が満員になったので、アンジェリーナの強烈な非難の眼差しも遮られた。
「オッケー」
ハリーはみんなに注目するよう呼びかけた。
「今夜はこれまでやったことを復習するだけにしようと思う。
休暇前の最後の会合だから、これから3週間も空いてしまうのに、新しいことを始めても意味がないし――」
「新しいことは何もしないのか?」
ザカリアス・スミスが不服そうに呟いた。部屋中に聞こえるほど大きな声だった。
「そのこと知ってたら、来なかったのに……」
「いやぁ、ハリーが君にお知らせ申し上げなかったのは、我々全員にとって、まことに残念だったよ」
フレッドが大声で言った。何人かが意地悪く笑った。
チョウが笑っているのを見て、ハリーは、階段を1段踏み外したとき胃袋がすっと引っ張られる、あの感覚を味わった。
「反復練習は大事だよ」
サクヤが前に進み出て、なるべく嫌味に聞こえないように言った。
「何度も何度も鍛えられた武器は、同じものでも、より強くなっていくんだ。見てて――ハリー、勝負しよう」
サクヤが杖を抜いたので、ハリーも不思議に思いながら同じように杖を構え、2人は距離をとって対峙した。
「呪文は『エクスペリアームス』、それを同時に唱えるんだ――いくよ!」
メンバーが見守るなか、ハリーとサクヤは武装解除の呪文を同時に唱えた。
次の瞬間、宙を舞ったのはサクヤの杖だけだった。
「え!どうして?」
ネビルが目を丸くして訊ねた。
ザカリアス・スミスもまた、わずかに目を大きくしている。
サクヤはにっこり笑いながら杖を拾い、丁寧にローブにしまった。
「『エクスペリアームス』はハリーの大得意な呪文だから。
同じ呪文でも、確実に発動するように書かれた教科書通りの振り方より、そこからわずかな無駄が取り除かれた、必要最低限の杖の振り方のほうが出が速いんだよ。
つまり、同時に呪文を唱えたとしても、より研ぎ澄まされた者のほうが先打ちできるってわけ」
「そのための復習ってわけだね、ハリー?」
ルーナがふわふわとハリーを見た。みんなもハリーを見た。
まるで、ハリーがここまでの流れを想定していたと勘違いしていそうな視線だ。
上手いアシストパスを出してくれた当のサクヤも、ただ満足げに黙ってハリーを見ている。
ここで「そこまで考えてなかった」と正直に言って、この場に満ちる士気の高まりを無駄にするのはナンセンスだということだけは分かった。
「そういうことだよ――さあ、2人ずつ組になって練習だ」
ハリーが気合いを込めて言った。
「最初は『妨害の呪い』を10分間。
それからクッションを出して、『失神術』をもう一度やってみよう」
みんな素直に2人組になり、ハリーはまたいつもと同じように、それを見て回ることにした。
まもなく部屋中に「
インペディメンタ!」の叫びが断続的に飛び交った。
サクヤのアドバイスの甲斐あってか、ネビルは見違えるほどに上達していて、落ち着いて集中すれば、もう「妨害の呪い」を失敗することはなくなっていた。
術をかけられたほうが1分ほど固まっているあいだ、かけた相手は手持無沙汰に他の組の様子を眺め、術が解けると、交代してかけられる側に回った。
ハリーがチョウのそばを通ると、チョウはにっこり笑いかけた。ハリーは、あと数回チョウのそばを通りたいという誘惑に耐えた。
「妨害の呪い」を10分間練習したあと、みんなでクッションを床いっぱいに敷き詰め、「失神術」を復習しはじめた。
全員が一斉に、この呪文を練習するには場所が狭すぎたので、半分がまず練習を眺め、その後交代した。
みんなを観察しながら、ハリーは誇らしさに胸が膨らむ思いだった。
たしかに、ネビルは狙い定めていたディーンではなく、パドマ・パチルを失神させたが、そのミスもいつもの外れっぷりよりは的に近かった。
その他全員が長足の進歩を遂げていた。
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