The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「――ほれ、また2頭来たぞ――」

木の間から別の2頭が音もなく現れた。
1頭がパーバティのすぐそばを通ると、パーバティは身震いして、木にしがみついた。

「私、何か感じたわ。きっとそばにいるのよ!」

「心配ねえ。おまえさんに怪我させるようなことはしねえから」

ハグリッドは辛抱強く言い聞かせた。

「よし、そんじゃ、知っとる者はいるか?どうして見える者と見えない者がおるのか?」

ハーマイオニーが手を挙げた。

「言ってみろ」

ハグリッドがにっこり笑いかけた。

「セストラルを見ることができるのは」

ハーマイオニーはちらりと一瞬だけサクヤを見て、それから静かに答えた。

「死を見たことがある者だけです」

「そのとおりだ」

ハグリッドが厳かに言った。

「グリフィンドールに10点。さーて、セストラルは――」

ェヘン、ェヘン

アンブリッジ先生のお出ましだ。
ハリーからほんの数十cmのところに、また緑の帽子とマントを着て、クリップボードを構えて立っていた。
アンブリッジの空咳を初めて聞いたハグリッドは、一番近くのセストラルを心配そうにじっと見た。変な音を出したのはそれだと思ったらしい。

ェヘン、ェヘン

「おう、やあ!」

音の出所がわかったハグリッドがにっこりした。

「今朝、あなたの小屋に送ったメモは、受け取りましたか?」

アンブリッジは前と同じように、大きな声でゆっくり話しかけた。
まるで外国人に、しかもとろい人間に話しかけているようだ。

「あなたの授業を査察しますと書きましたが?」

「ああ、うん」

ハグリッドが明るく言った。

「この場所がわかってよかった!ほーれ、見てのとおり――はて、どうかな――見えるか?今日はセストラルをやっちょる――」

「え?何?」

アンブリッジ先生が耳に手を当て、顔をしかめて大声で聞き直した。

「なんて言いましたか?」

ハグリッドはちょっと戸惑った顔をした。

「あー――セストラル!

ハグリッドも大声で言った。

「大っきな――あー――翼のある馬だ。ほれ!」

ハグリッドは、これならわかるだろうとばかり、巨大な両腕をパタパタ上下させた。
アンブリッジ先生は眉を吊り上げ、ブツブツ言いながらクリップボードに書きつけた。

「原始的な……身振りによる……言葉に頼らなければ……ならない」

「さて……とにかく……」

ハグリッドは生徒のほうに向き直ったが、ちょっとまごついていた。

「む……俺は何を言いかけてた?」

「記憶力が……弱く……直前のことも……覚えていないらしい」

アンブリッジのブツブツは、誰にも聞こえるような大きな声だった。
ドラコ・マルフォイはクリスマスが1ヵ月早く来たような喜びようだ。
逆にハーマイオニーは、怒りを抑えるのに真っ赤になっていた。サクヤはしかめっ面で、かき乱され始めたクラス全体を見渡していた。

「あっ、そうだ」

ハグリッドはアンブリッジのクリップボードをそわそわと見たが、勇敢にも言葉を続けた。

「そうだ、俺が言おうとしてたのは、どうして群れを飼うようになったかだ。うん。
つまり、最初は雄1頭と雌5頭で始めた。こいつは」

ハグリッドは最初に姿を現した1頭をやさしく叩いた。

「テネブルスって名で、俺が特別かわいがってるやつだ。この森で生まれた最初の1頭だ――」

「ご存知かしら?」

アンブリッジが大声で口を挟んだ。

「魔法省はセストラルを『危険生物』に分類しているのですが?」

ハリーの心臓が石のように重くなった。しかし、ハグリッドはクックッと笑っただけだった。

「セストラルが危険なものか!そりゃ、さんざんいやがらせをすりゃあ、噛みつくかもしらんが――」

「暴力の……行使を……楽しむ……傾向が……見られる」

アンブリッジがまたしてもブツブツ言いながらクリップボードに走り書きした。

「そりゃ違うぞ――バカな!」

ハグリッドは少し心配そうな顔になった。

「つまり、けしかけりゃ犬も噛みつくだろうが――だけんど、セストラルは、死とかなんとかで、悪い評判が立っとるだけだ――こいつらが不吉だと思い込んどるだけだろうが?わかっちゃいなかったんだ、そうだろうが?」

アンブリッジは何も答えず、最後のメモを書き終えるとハグリッドを見上げ、またしても大きな声でゆっくり話しかけた。

「授業を普段どおり続けてください。わたくしは歩いて見回ります」

アンブリッジは歩く仕種をして見せた(マルフォイとパンジー・パーキンソンは、声を殺して笑いこけていた)。

「生徒さんの間をね」

アンブリッジはクラスの生徒の人ひとりを指差した。

「そして、みんなに質問をします」

アンブリッジは自分の口を指差し、口をパクパクさせた。
ハグリッドはアンブリッジをまじまじと見ていた。
まるでハグリッドには普通の言葉が通じないかのように身振り手振りをしてみせるのはなぜなのか、さっぱりわからないという顔だ。
ハーマイオニーはいまや悔し涙を浮かべていた。

「鬼ばばぁ、腹黒鬼ばばぁ!」

アンブリッジがパンジー・パーキンソンのほうに歩いていったとき、ハーマイオニーが小声で毒づいた。

「あんたが何を企んでいるか、知ってるわよ。鬼、根性曲がりの性悪の――」

「ハル、落ち着いて……」

サクヤが小声でなだめた。

「今からでも、なんとかいい流れを作ろう――ハグリッド先生!」

サクヤから「先生」だなんて初めて呼ばれたハグリッドは、目をぱちぱちさせながら振り向いた。

「セストラルは――ええと――見た感じ、かなり温厚そうな生物ですけど、コツさえ掴めば、扱いやすいほうなんでしょうか?」

「そうだな……ああ、そうだと思う」

ハグリッドも授業の流れを取り戻そうと奮闘していた。

「うん。こいつらにはいろいろええとこがたっくさんある……」

「どうかしら?」

ハグリッドが説明しようとした矢先、アンブリッジ先生が声を響かせてパンジー・パーキンソンに質問した。

「あなた、ハグリッド先生が話していること、理解できるかしら?」

ハーマイオニーと同じく、パンジーも目に涙を浮かべていたが、こっちは笑いすぎの涙だった。
クスクス笑いを堪えながら答えるので、何を言っているのかわからないほどだった。

「いいえ……だって……あの……話し方が……いつも唸ってるみたいで……」

アンブリッジがクリップボードに走り書きした。
ハグリッドの顔の、怪我していないわずかな部分が赤くなった。
それでも、ハグリッドは、パンジーの答えを聞かなかったかのように振る舞おうとした。

「あー……うん……セストラルのええとこだが。
えーと、ここの群れみてえにいったん飼い馴らされると、みんな、もう絶対道に迷うことはねえぞ。方向感覚抜群だ。どこへ行きてえって、こいつらに言うだけでええ――」

「もちろん、あんたの言うことがわかれば、ということだろうね」

マルフォイが大きな声で言った。
パンジー・パーキンソンがまた発作的にクスクス笑いだした。
アンブリッジ先生はその2人には寛大に微笑み、それからネビルに聞いた。

「セストラルが見えるのね、ロングボトム?」

ネビルが頷いた。

「誰が死ぬところを見たの?」

無神経な調子だった。

「僕の……じいちゃん」

ネビルが言った。

「それで、あの生物をどう思うの?」

ずんぐりした手を馬のほうに向けてひらひらさせながら、アンブリッジが聞いた。
セストラルはもうあらかた肉を食いちぎり、ほとんど骨だけが残っていた。

「んー」

ネビルは、おずおずとした目でハグリッドをちらりと見た。

「えーと……馬たちは……ん……問題ありません……」

「生徒たちは……脅されていて……怖いと……正直に……そう言えない」

アンブリッジはブツブツ言いながらクリップボードにまた書きつけた。

「違うよ!」

ネビルはうろたえた。

「違う、僕、あいつらが怖くなんかない!」

「いいんですよ」

アンブリッジはネビルの肩をやさしく叩いた。
そしてわかっていますよという笑顔を見せたつもりらしいが、ハリーにはむしろ嘲笑に見えた。

「アンブリッジ先生」

サクヤが冷静に声をあげた。
アンブリッジは目を細めたままゆっくり振り返った。

「さっきから先生は、『普段通りに』とおっしゃっていながらも、中断ばかりなさっていますが、それで本当にハグリッド先生の授業方法がおわかりになるんですか?」

それはまるで、マクゴナガル先生が自分の「変身術」授業の査察で、アンブリッジにぶつけた怒りそのもののようだ、とハリーは思った。

「ご自分の査察が、偏向に寄り過ぎているとは思いませんか?」

しかしサクヤのその言葉は、マクゴナガル先生が放ったときより、あんまり効いていないようだった。

「ただのいち生徒が、ホグワーツ高等尋問官を"査察"しようとでも言うのかしら?ものも知らない小さな子どもが、わたくしを公正に判断することができるとは思えませんね。
魔法省は、ホグワーツの教育水準低下を危惧し、基準を満たした教育のできない教師は不適任であると考えています。ひいては、みなさんのためになる査察なのですよ。
公正に判断できると魔法省が認めたこのわたくしが、間違うはずがありませんわね?」

アンブリッジはにっこりと嘲笑を浮かべたまま、サクヤの反論を許さないかのように身体の向きを変え、ハグリッドへと振り向くと、今度は大きくゆっくりとした声で話しかけた。

「これでわたくしのほうはなんとかなります。査察の結果を――」

クリップボードを指差した。

「あなたが受け取るのは――」

自分の身体の前で、何かを空中から取り出す仕種をした。

「10日後です」

アンブリッジは短いずんぐり指を10本立てて見せた。
それからニターッと笑ったが、緑の帽子の下で、その笑いはことさらガマに似ていた。
そしてアンブリッジは、意気揚々と引き揚げた。
あとに残ったマルフォイとパンジー・パーキンソンは発作的に笑い転げ、ハーマイオニーは怒りに震え、ネビルは困惑した顔でおろおろしていた。


「あの腐れ、嘘つき、根性曲がり、怪獣ばばぁ!」

30分後、来るときに掘った雪道を辿って城に帰る道々、ハーマイオニーが気炎を吐いた。

「あの人が何を目論んでるか、わかる?混血を毛嫌いしてるんだわ――ハグリッドをうすのろのトロールか何かみたいに見せようとしてるのよ。お母さんが巨人だというだけで――
それに、ああ、不当だわ。授業は悪くなかったのに――そりゃ、また『尻尾爆発スクリュート』なんかだったら……でもセストラルは大丈夫――ほんと、ハグリッドにしては、とってもいい授業だったわ!私、サクヤに続いて何か言いたかったのに……」

「マクゴナガル先生の真似をした付け焼刃じゃ、ぎゃふんと言わせられなかったけどな」

サクヤは不服そうに唸った。

「アンブリッジはセストラルが危険生物だって言ったけど」

ロンが言った。

「そりゃ、ハグリッドが言ってたように、あの生物はたしかに自己防衛するわ」

ハーマイオニーがもどかしげに言った。

「それに、グラブリー-プランクのような先生だったら、普通はNEWTいもり試験レベルまではあの生物を見せたりしないでしょうね。
でも、ねえ、あの馬、本当に興味深いと思わない?見える人と見えない人がいるなんて、いったいどういう原理なのかしら――」

ハーマイオニーが突然はっとしたような顔をした。

「ごめんなさい、無神経にしゃべりすぎたわ……」

ハリーもサクヤも、自分たちに向けて気遣ってもらえたことが分かったが、あんまり気にならなかった。
ハーマイオニーが未知に関して熱心すぎることなど、もう何年も前から分かっていることだ。

「いいんだ」

ハリーが急いで言った。

「ハルらしい好奇心だから、気にしないで」

サクヤもにっこり笑いかけた。

「ちゃんと見える人が多かったのには驚いたな」

ロンが言った。

「クラスに4人も――」

「そうだよ、ウィーズリー。いまちょうど話してたんだけど」

意地の悪い声がした。雪で足音が聞こえなかったらしい。
マルフォイ、クラッブ、ゴイルが4人のすぐ後ろを歩いていた。

「君が誰か死ぬところを見たら、少しはクアッフルが見えるようになるかな?」

マルフォイ、クラッブ、ゴイルは、4人を押し退けて城に向かいながらゲラゲラ笑い、突然「ウィーズリーこそ我が王者」を合唱しはじめた。ロンの耳が真っ赤になった。

「無視。とにかく無視」

ハーマイオニーが呪文を唱えるように繰り返しながら、杖を取り出してまた「熱風の魔法」をかけ、温室までの新雪を溶かして歩きやすい道を作った。



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