The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




次の日、朝食のときに教職員テーブルに現れたハグリッドを、生徒全員が大歓迎したというわけではなかった。
フレッド、ジョージ、リーなどの何人かは歓声をあげて、グリフィンドールとハッフルパフのテーブルの間を飛ぶように走ってハグリッドに駆け寄り、巨大な手を握り締めた。
パーバティやラベンダーなどは、暗い顔で目配せし、首を振った。
グラブリー-プランク先生の授業のほうがいいと思う生徒が多いだろうと、ハリーにはわかっていた。
それに、ほんのちょっぴり残っているハリーの公平な判断力が、それも一理あると認めているのが最悪だった。
なにしろグラブリー-プランクの考えるおもしろい授業なら、誰かの頭が食いちぎられる危険性のあるようなものではない。

火曜日、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーは、防寒用の重装備をし、かなり不安な気持ちでハグリッドの授業に向かった。
ハリーはハグリッドがどんな教材に決めたのかも気になったが、クラスの他の生徒、とくにマルフォイ一味が、アンブリッジの目の前でどんな態度を取るかが心配だった。

「すぐ戻る」

マルフォイ率いるスリザリン集団を前方に見つけたサクヤが、ハリーたちにそう断って、あろうことか雪をかき分けてその集団に突っ込んでいった。
でも、どうやらハリーが思ったような喧嘩をふっかけに行ったというわけではなさそうで、マルフォイと肩を並べて少し歩いたと思ったら、何事もなくハリーたちのところへ戻ってきた。
あまりに唐突な出来事だったので、マルフォイをはじめクラッブやゴイルはもちろん、パンジー·パーキンソンなどのスリザリン生みんなが終始呆気にとられていた。

「何をしてきたの?」

戻ってきたサクヤに、ハーマイオニーが尋ねた。
サクヤは何でもないようにそれに答えた。

「ただお礼を言いに行っただけさ。
スネイプ先生の特別授業で合格点をもらえたのは、ドラコのひと言のおかげなんだから」

ハリーとロンは互いに顔を見合わせた。
2人とも、何のことかさっぱり分からない様子だったが、それはハーマイオニーも同じようで、「そう……?」と曖昧な返事をしただけだった。
ハリーは、こちらへ振り返ってじっと睨んでいるマルフォイに気がついた。
どうあれ、グリフィンドール生に感謝されるようなことをマルフォイがするわけがない。
サクヤのお礼は皮肉と捉えられたに違いないとハリーは思った。

雪と格闘しながら、森の端で待っているハグリッドに近づいてみると、高等尋問官の姿はどこにも見当たらなかった。
とは言え、ハグリッドの様子は、不安を和らげてくれるどころではない。
土曜の夜にどす黒かった傷にいまや緑と黄色が混じり、切り傷の何ヵ所かはまだ血が出ていた。
ハリーはこれがどうにも理解できなかった。
ハグリッドを襲った怪物の毒が、傷の治るのを妨げているのだろうか?
なにしろ、以前にもそういったことがあったのだ――1年生のとき、トロールに負わされたサクヤの傷は、かなりの期間治ることはなかった。
もしかしてハグリットはトロールを飼い慣らそうとしているのではないだろうか?
不吉な光景に追い討ちをかけるかのように、ハグリッドは死んだ牛の半身らしいものを肩に担いでいた。

「今日はあそこで授業だ!」

近づいてくる生徒たちに、ハグリッドは背後の暗い木立を振り返りながら嬉々として呼びかけた。

「少しは寒さしのぎになるぞ!
どっちみち、あいつら、暗いとこが好きなんだ」

「何が暗いところが好きだって?」

マルフォイが険しい声でクラッブとゴイルに聞くのが、ハリーの耳に入った。ちらりと恐怖を覗かせた声だった。

「あいつ、何が暗いところが好きだって言った?――聞こえたか?」

マルフォイがこれまでに一度だけ禁じられた森に入ったときのことを、ハリーは思い出した。
あのときもマルフォイは勇敢だったとは言えない。ハリーは独りでにんまりした。
あのクィディッチ試合以来、マルフォイが不快に思うことなら、ハリーは何だってかまわなかった。

「ええか?」

ハグリッドはクラスを見渡してうきうきと言った。

「よし、さーて、森の探索は5年生まで楽しみに取っておいた。連中を自然な生息地で見せてやろうと思ってな。
さあ、今日勉強するやつは、珍しいぞ。
こいつらを飼い馴らすのに成功したのは、イギリスではたぶん俺だけだ」

「それで、本当に飼い馴らされてるって、自信があるのかい?」

マルフォイが、ますます恐怖を顕わにした声で聞いた。

「なにしろ、野蛮な動物をクラスに持ち込んだのはこれが最初じゃないだろう?」

スリザリン生がザワザワとマルフォイに同意した。
グリフィンドール生の何人かも、マルフォイの言うことは的を射ているという顔をした。

「もちろん飼い馴らされちょる」

ハグリッドは顔をしかめ、肩にした牛の死骸を少し揺すり上げた。

「それじゃ、その顔はどうしたんだい?」

マルフォイが問い詰めた。

「おまえさんにゃ関係ねえ!」

ハグリッドが怒ったように言った。

「さあ、バカな質問が終わったら、俺について来い!」

ハグリッドはみんなに背を向け、どんどん森へ入っていった。
誰もあとに従いていきたくないようだった。
ハリーはロンとサクヤ、ハーマイオニーをちらりと見た。3人ともため息をついたが、頷いた。
4人は他のみんなの先頭に立って、ハグリッドの跡を追った。

ものの10分も歩くと、木が密生して夕暮れどきのような暗い場所に出た。地面には雪も積もっていない。
ハグリッドはフーッと言いながら牛の半身を下ろし、後ろに下がって生徒と向き合った。
ほとんどの生徒が、木から木へと身を隠しながらハグリッドに近づいてきて、いまにも襲われるかのように神経を尖らせて、周りを見回していた。

「集まれ、集まれ」

ハグリッドが励ますように言った。

「さあ、あいつらは肉の臭いに引かれてやってくるぞ。だが、俺のほうでも呼んでみる。
あいつら、俺だってことを知りたいだろうからな」

ハグリッドは後ろを向き、もじゃもじゃ頭を振って、髪の毛を顔から払い退け、甲高い奇妙な叫び声をあげた。
その叫びは、怪鳥が呼び交わす声のように、暗い木々の間にこだました。誰も笑わなかった。
ほとんどの生徒は、恐ろしくて声も出ないようだった。

ハグリッドがもう一度甲高く叫んだ。
1分経った。
その間、生徒全員が神経を尖らせ、肩越しに背後を窺ったり、木々の間を透かし見たりして、近づいてくるはずの何かの姿を捕らえようとしていた。
そして、ハグリッドが三度髪を振り払い、巨大な胸をさらに膨らませたとき、ハリーはロンを突っつき、曲がりくねった2本のイチイの木の間の暗がりを指差した。

暗がりの中で、白く光る目が一対、だんだん大きくなってきた。
まもなく、ドラゴンのような顔、首、そして、翼のある大きな黒い馬の骨ばった胴体が、暗がりから姿を現した。
その生き物は、黒く長い尾を振りながら、数秒間生徒たちを眺め、それから頭を下げて、尖った牙で死んだ牛の肉を食いちぎりはじめた。

ハリーの胸にどっと安堵感が押し寄せた。
とうとう証明された。
この生き物は、ハリーの幻想ではなく実在していた。ハグリッドもこの生き物を知っていた。
ハリーは待ちきれない気持ちでロンを見た。
しかし、ロンはまだキョロキョロ木々の間を見つめていた。
しばらくしてロンが囁いた。

「ハグリッドはどうしてもう一度呼ばないのかな?」

生徒のほとんどが、ロンと同じように、怖い物見たさの当惑した表情で目を凝らし、馬が目と鼻の先にいるのに、とんでもない方向ばかり見ていた。
この生き物が見える様子なのは、ハリーの他に3人しかいなかった。
1人はサクヤで、初めてその姿を見たように、目を丸くしてまじまじとその生き物を見ていた。
ゴイルのすぐ後ろでは、スリザリンの筋ばった男の子が、馬が食らいつく姿を苦々しげに見ていた。
それに、3人目はネビルだ。その目が、長い黒い尾の動きを追っていた。

「ほれ、もう1頭来たぞ!」

ハグリッドが自慢げに言った。
暗い木の間から現れた2頭目の黒い馬が、なめし革のような翼を畳み込んで胴体にくっつけ、頭を突っ込んで肉にかぶりついた。

「さーて……手を挙げてみろや。こいつらが見える者は?」

この馬の謎がついにわかるのだと思うとうれしくて、ハリーは手を挙げた。ハグリッドがハリーを見て頷いた。

「うん……うん。おまえさんにゃ見えると思ったぞ、ハリー。それにサクヤも」

ハグリッドはまじめな声を出して、手を挙げているサクヤを見た。
それから同じく手を挙げながら、神妙な顔をしている生徒へと視線を移した。

「そんで、おまえさんもだな?ネビル、ん?そんで――」

「お伺いしますが」

マルフォイが嘲るように言った。

「いったい何が見えるはずなんでしょうね?」

答える代わりに、ハグリッドは地面の牛の死骸を指差した。クラス中が一瞬そこに注目した。
そして何人かが息を呑み、パーバティは悲鳴をあげた。
ハリーはそれがなぜなのかわかった。
肉が独りでに骨から剥がれ空中に消えていくさまは、いかにも気味が悪いに違いない。

「何がいるの?」

パーバティが後退りして近くの木の陰に隠れ、震える声で聞いた。

「何が食べているの?」

「セストラルだ」

ハグリッドが誇らしげに言った。
ハリーのすぐ隣で、ハーマイオニーが、納得したように「あっ!」と小さな声をあげた。

「ホグワーツのセストラルの群れは、全部この森にいる。そんじゃ、誰か知っとる者は――?」

「だけど、それって、とーっても縁起が悪いのよ!」

パーバティがとんでもないという顔で口を挟んだ。

「見た人にありとあらゆる恐ろしい災難が降りかかるって言われてるわ。トレローニー先生が一度教えてくださった話では――」

「いや、いや、いや」

ハグリッドがクックッと笑った。

「そりゃ、単なる迷信だ。
こいつらは縁起が悪いんじゃねえ。どえらく賢いし、役に立つ!
もっとも、こいつら、そんなに働いてるわけではねえがな。重要なんは、学校の馬車牽きだけだ。
あとは、ダンブルドアが遠出するのに、『姿現わし』をなさらねえときだけだな」




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