The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




日曜の朝、サクヤとハーマイオニーは60cmもの雪を掻き分け、再びハグリッドの小屋を訪れた。
ハリーとロンも一緒に行きたかったが、またしても宿題の山が、いまにも崩れそうな高さに達していたので、しぶしぶ談話室に残り、校庭から聞こえてくる楽しげな声を耐え忍んでいた。
生徒たちは、凍った湖の上をスケートしたり、リュージュに乗ったりして楽しんでいたが、雪合戦の球に魔法をかけてグリフィンドール塔の上まで飛ばし、談話室の窓にガンガンぶつけるのは最悪だった。

「おい!」

ついに我慢できなくなったロンが、窓から首を突き出して怒鳴った。

「僕は監督生だぞ。こんど雪球が窓に当たったら――痛ぇ!

ロンは急いで首を引っ込めた。顔が雪だらけだった。

「フレッドとジョージだ」

ロンが窓をぴしゃりと閉めながら悔しそうに言った。

「あいつら……」

サクヤとハーマイオニーは昼食間際に帰ってきた。
ローブの裾が膝までぐっしょりで、少し震えていた。

「どうだった?」

2人が入ってくるのを見つけたロンが聞いた。

「授業の計画をすっかり立ててやったのか?」

「やってはみたんだけど」

ハーマイオニーは疲れたように言うと、ハリーのそばの椅子にサクヤと並んで、どっと座り込んだ。
それから杖を取り出し、小さく複雑な振り方をすると、杖先から熱風が噴き出した。それをサクヤへ優先的に、2人分のローブのあちこちに当てると、湯気を上げて乾きはじめた。

「私たちが行ったとき、小屋にもいなかったのよ。
私、少なくとも30分ぐらい戸を叩いたし、サクヤは小屋の周りを探したわ。そしたら、森からのっしのっしと出てきたの」

「さすがに、オレたちだけで森まで探そうとは思わなかったよ」

サクヤが肩をすくめた。
ハリーは呻いた。禁じられた森は、ハグリッドをクビにしてくれそうな生き物でいっぱいだ。

「あそこで何を飼っているんだろう?ハグリッドは何か言った?」

ハリーが聞いた。

「ううん」

ハーマイオニーはがっくりしていた。

「驚かせてやりたいって言うのよ。
アンブリッジのことを説明しようとしたんだけど、どうしても納得できないみたい。
キメラよりナールのほうを勉強したいなんて、まともなやつが考えるわけがないって言うばっかり――」

ほんとにキメラを飼ってるってわけじゃないからな」

ハリーとロンがぞっとする顔を見て笑ったサクヤが、最後に「……たぶん」と、尻すぼみにつけ加えた。

「でも、飼う努力をしなかったわけじゃないわね。卵を入手するのがとても難しいって言ってたもの。
グラブリー-プランクの計画に従ったほうがいいって、口を酸っぱくして言ったんだけど、正直言って、ハグリッドは私たちの言うことを半分も聞いていなかったと思う。
ほら、ハグリッドはなんだかおかしなムードなのよ。どうしてあんなに傷だらけなのか、いまだに言おうとしないし」

やがてサクヤは再び立ち上がり、ぐーっと大きく伸びをした。

「ありがと、ハル。もうだいたい乾いたから、あとは自分のローブを乾かして」

「またハグリッドのところに行くのか?――って、ああ、スネイプのところか」

ロンがサクヤを見上げ、思い出したかのように言った。

「頑張ってね」

ハリーやハーマイオニーも口々に激励すると、サクヤはにっこり笑い返した。

「コツを掴んだかもしれないんだ。今日こそものにしてみせるよ――」

そのサクヤの言葉は、ほとんど毎週聞いている気がしなくもないが、「今度こそ終わりますように」という思いは、ハリーもロンもハーマイオニーも、みんなが抱いているものだった。
シリウスがスネイプを注意してくれたのか、ハリーとシリウスが最初に談話室で話して以来、サクヤの特訓が夜中過ぎまでかかることはなくなったが、それでも毎回外出が許された時間ギリギリまで戻ってこないし、戻ってくる彼女はいつも疲れ果てていた。

今回の特訓も例外なくしごかれ、そろそろ21時を回ろうかというころ、地下の研究室では、サクヤがくずおれ、スネイプは構えていた杖を下ろすところだった。

「はぁ……はぁ……」

サクヤは震える息を、自身の肩を抱いて落ち着かせようとしていた。
スネイプはその様子を眺め、俯いている彼女の見えないところで、わずかに満足げな表情を一瞬だけ浮かべた。

「――もはや、我輩がこの件についてお前に教えることはもうないだろう」

サクヤがパッと顔を上げると、スネイプはいつもと変わらない険しい顔で言葉を続けた。

「ダンブルドア校長に、任務完了の報告をしておくとしよう。――寮に戻るがいい」

「て、ことは……つまり、合格点がもらえたと……?」

わなわなと、驚きや喜びを抑えたサクヤの問いに、スネイプは「今すぐ取り消してやってもよいのだが」と皮肉たっぷりに答えた。

「……っ!
あ、ありがとうございました……!」

サクヤは開放感を胸いっぱいに、飛び上がって喜んだ。
その隙を見逃さなかったスネイプは、ローブにしまっていた杖を取り出し、3か月間さんざん特訓してきた術をしつこくかけた。
しかしサクヤは、スネイプの侵入を素早く察知すると、あっという間に締め出し、パッと杖を構えて次の攻撃に備えた。

「――この程度、わけもなくやってもらわねば本当に前言撤回をしていたところだ」

フン、とつまらなそうに息を吐くスネイプに、サクヤは苦笑いを浮かべるほかなかった。
寮に戻れ、とスネイプが繰り返すと、サクヤは鞄を肩にひっかけ、深く頭を下げてもう一度お礼を言い、研究室を後にした。

閉心術を習得した。ついにやり遂げた。
地下室からの階段を2段飛ばしに駆け上がるたびに、サクヤは心のなかで復唱した。
一刻も早く、ハーマイオニーやハリー、ロンに報告をしたくて階段を急いで上っていたのだが、やがて1段飛ばしになり、駆け足が緩まり、ついに足が止まった。
はじめこそ、毎週課される厳しい訓練からの開放感や達成感で満ち溢れていたのだが、喉元を通り過ぎてしまったいま、今日の訓練についてのことが頭を占めていった。

サクヤは、今度は記憶を噛みしめるようにゆっくり歩きだした。
今回は、つい先日起きた出来事をスネイプに掘り返された。今シーズン最初のクィディッチの試合直後、ドラコ・マルフォイに言われたことだ。
「ディゴリーを殺したのはお前なんだろ?死喰い人」――この苦い思い出を何度もほじくり返し、突きつけられた。
墓場でのあの出来事は、サクヤにはあれ以上どうしようもなかったこと、それについて、もう十分すぎるほど自分を責め、悔やみ、今はその思いを胸に前を向こうと頑張っていること――少しずつ気持ちの整理をつけてきていた。
でもだからといって、この言葉で傷つかないわけがない。
深く抉るように繰り返されたこの記憶に、サクヤは打ちのめされ、膝をつき、心が挫けかけた。
痛めば痛むほど、克服できたときにより強靭な閉心術を身に着けるだろう、スネイプはそう言って執拗にサクヤの心を責め立てた。

最初に抵抗が成功したのは夕方ごろだった。
繰り返すなかで「それは違う」「絶対に違う」という思いで心のなかを満たし、スネイプを締め出してみせた。
しかし一度うまくいったからといって、閉心術を完全に習得したとは言えない。
小休憩をはさんだあとは、他のつらい記憶と併せて引き出されたり、感情的になった心の隙を突かれたとしても、入り込まれないようにする特訓が続けられた。
そうして、あらゆる想定から繰り出されるスネイプの開心術を全て完全に防ぐことができるようなったのが21時近くというわけだった。

閉心術を習得した。
「太った婦人」の肖像画へ続く階段を上りながら、サクヤは心のなかで繰り返したが、いまや、あんまり嬉しくないな、とさえ思えた。
そう感じるのは、身に着けるにあたって、頭の片隅に押しやっておきたかった記憶を無理やり引き出され続けてきた苦さからくるのだろうという自覚はあった。
あれだけつらい思い出や苦しい経験を掘り返されて、嬉しかった出来事も蹂躙された。
ヴォルデモートに対抗するためだ、というのは理解こそしているが、この閉心術で本当にあの恐怖に抵抗できるのかの不安はまだある。

「ミンビュラス ミンブルトニア」

肖像画に向かって合言葉を唱えると、「門限ギリギリね」という婦人の小言とともにグリフィンドール寮への入口が現れた。
ダンブルドア校長がこの手段こそ有効だと判断して、閉心術の達人であるスネイプの特別授業を課し、今夜それをクリアしてみせた……だからきっと大丈夫だ。サクヤはそう自分に言い聞かせて入口をよじ登った。

談話室には、まだちらほらと残っている生徒が何グループかに分かれ固まって談笑していた。
彼らの楽しそうな笑い声や、穏やかに爆ぜる暖炉の温かな火は、疲れきったサクヤの身と心に染み渡った。
そして暖炉の前で、いつものお気に入りの位置に陣取っている親友たちが、戻ってきたサクヤに気がつき、パッと笑顔になった。

「おかえり」

「おつかれー、もうそんな時間か……」

大詰めの宿題の山に囲まれげっそりしているハリーとロンが言った。
それから、サクヤの放心状態に気がついたハーマイオニーがソファから立ち上がった。

「サクヤ?大丈夫?」

「うん」

サクヤの返事は、どっちつかずな声色をしていた。

「終わったよ――特訓は、今日でおしまいだって」

ハーマイオニーがさっと手で覆った口からは、一瞬悲鳴に近い声が漏れた。

「じゃあ――?」

「――うん!」

ハリーやロンの手前、それが何を意味しているのかは目で会話するほかなかったが、2人にとってはそれで十分伝わったようだ。
ハーマイオニーは目にいっぱいの涙を浮かべながらサクヤに抱きついた。
それに、ハリーとロンだって自分のことのように喜び、ガッツポーズをした――その拍子に、インク壺をひっくり返したってお構いなしだった。
他の生徒たちが何事かと首を伸ばしてこちらを見ていたが、そんなことすら気にせず、ハーマイオニーは「おめでとう、本当にお疲れさま!」と涙声で繰り返していた。

そうしてようやく、サクヤの心にじんわりとした確信が広がってきた。閉心術を身に着けて良かったと。
何も間違ってなんかないんだ。誰だって不安なく戦ってるわけじゃない。
この腕の中に感じる存在のために習得しようと決めたじゃないか。
つい先ほどまで何かに喜ぶ気分ではなかったなんて嘘のように安堵の気持ちにあふれ、ハーマイオニーの涙が移ったかのようにサクヤの顔は火照り、瞳を濡らした。

ここから先の記憶は、今度こそ自分だけのものになるのだ。







>>To be continued

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