The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




アンブリッジ先生が戸口に立っていた。
緑のツイードのマントに、お揃いの耳覆いつき帽子を被っている。
アンブリッジは口をぎゅっと結び、のけ反ってハグリッドを見上げた。背丈がハグリッドの臍にも届いていなかった。

「それでは」

アンブリッジがゆっくり、大きな声で言った。
まるで耳の遠い人に話しかけるかのようだった。

「あなたがハグリッドなの?」

答えも待たずに、アンブリッジはずかずかと部屋に入り、飛び出した目をギョロつかせてそこいら中を見回した。

「おどき」

ファングが跳びついて顔を舐めようとするのを、ハンドバッグで払い退けながら、アンブリッジがぴしゃりと言った。

「あー――失礼だとは思うが」

ハグリッドが言った。

「いったいおまえさんは誰ですかい?」

「わたくしはドローレス・アンブリッジです」

アンブリッジの目が小屋の中を舐めるように巡った。
ハリーがロンとサクヤ、ハーマイオニーに挟まれて立っている隅を、その目が二度も直視した。

「ドローレス・アンブリッジ?」

ハグリッドは当惑しきった声で言った。

「たしか魔法省の人だと思ったが――ファッジのところで仕事をしてなさらんか?」

「大臣の上級次官でした。そうですよ」

アンブリッジは、今度は小屋の中を歩き回り、壁に立て掛けられた雑嚢から、脱ぎ捨てられた旅行用マントまで、何もかも観察していた。

「いまは『闇の魔術に対する防衛術』の教師ですが――」

「そいつぁ豪気なもんだ」

ハグリッドが言った。

「いまじゃ、あの職に就く奴ぁあんまりいねえ」

「――それに、ホグワーツ高等尋問官です」

アンブリッジはハグリッドの言葉など、まったく耳に入らなかったかのように言い放った。

「そりゃなんですかい?」

ハグリッドが顔をしかめた。

「わたくしもまさに、そう聞こうとしていたところですよ」

アンブリッジは、床に散らばった陶器の欠けらを指差していた。ハーマイオニーのマグカップだった。

「ああ」

ハグリッドは、よりによって、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが潜んでいる隅のほうをちらりと見た。

「あ、そいつぁ……ファングだ。ファングがマグを割っちまって。
そんで、俺は別のやつを使わなきゃなんなくて」

ハグリッドは自分が飲んでいたマグを指差した。
片方の手でドラゴンの生肉を目に押し当てたままだった。
アンブリッジは、今度はハグリッドの真正面に立ち、小屋よりもハグリッドの様子をじっくり観察していた。

「声が聞こえたわ」

アンブリッジが静かに言った。

「俺がファングと話してた」

ハグリッドが頑として言った。

「それで、ファングが受け答えしてたの?」

「そりゃ……言ってみりゃ」

ハグリッドはうろたえていた。

「時々俺は、ファングのやつがほとんどヒト並みだと言っとるぐれえで――」

「城の玄関からあなたの小屋まで、雪の上に足跡が4人分ありました」

アンブリッジはすらりと言った。
ハーマイオニーがあっと息を呑んだ。その口を、サクヤがパッと手で覆った。
運よく、ファングがアンブリッジ先生のローブの裾を、鼻息荒く嗅ぎ回っていたおかげで、気づかれずにすんだようだった。

「さーて、俺はたったいま帰ったばっかしで」

ハグリッドはどでかい手を振って、雑嚢を指した。

「それより前に誰か来たかもしれんが、会えなかったな」

「あなたの小屋から城までの足跡はまったくありませんよ」

「はて、俺は……俺にはどうしてそうなんか、わからんが……」

ハグリッドは神経質に顎ひげを引っ張り、助けを求めるかのように、またしてもちらりと、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが立っている部屋の隅を見た。

「うむむ……」

アンブリッジはさっと向きを変え、注意深くあたりを見回しながら、小屋の端から端までずかずか歩いた。
身体を屈めてベッドの下を覗き込んだり、戸棚を開けたりした。
4人が壁に張りついて立っている場所からほんの数cmのところをアンブリッジが通り過ぎたとき、ハリーは本当に腹を引っ込めた。
ハグリッドが料理に使う大鍋の中を綿密に調べた後、アンブリッジはまた向き直ってこう言った。

「あなた、どうしたの?どうしてそんな大怪我をしたのですか?」

ハグリッドは慌ててドラゴンの生肉を顔から離した。
離さなきゃいいのに、とハリーは思った。
おかげで目の周りのどす黒い傷が剥き出しになったし、当然、顔にべっとりついた血糊も、生傷から流れる血もはっきり見えた。

「なに、その……ちょいと事故で」

ハグリッドは歯切れが悪かった。

「どんな事故なの?」

「あ――躓いて転んだ」

「躓いて転んだ」

アンブリッジが冷静に繰り返した。

「ああ、そうだ。
蹴っ躓いて……友達の箒に。俺は飛べねえから。
なにせ、ほれ、この身体だ。俺を乗っけられるような箒はねえだろう。
友達がアブラクサン馬を飼育しててな。おまえさん、見たことがあるかどうか知らねえが、ほれ、羽のあるおっきなやつだ。
俺はちょっくらそいつに乗ってみた。そんで――」

「あなた、どこに行っていたの?」

アンブリッジは、ハグリッドのしどろもどろにぐさりと切り込んだ。

「どこに――?」

「行っていたか。そう」

アンブリッジが言った。

「学校は2ヵ月前に始まっています。
あなたのクラスはほかの先生が代わりに教えるしかありませんでしたよ。あなたがどこにいるのか、お仲間の先生は誰もご存知ないようでしてね。
あなたは連絡先も置いていかなかったし。どこに行っていたの?」

一瞬、ハグリッドは、剥き出しになったばかりの目でアンブリッジをじっと見つめ、黙り込んだ。
ハリーは、ハグリッドの脳みそが必死に働いている音が聞こえるような気がした。

「お――俺は、健康上の理由で休んでた」

「健康上の?」

アンブリッジの目がハグリッドのどす黒く腫れ上がった顔を探るように眺め回した。
ドラゴンの血が、ポタリポタリと静かにハグリッドのベストに滴っていた。

「そうですか」

「そうとも」

ハグリッドが言った。

「ちょいと――新鮮な空気を、ほれ――」

「そうね。家畜番は、新鮮な空気がなかなか吸えないでしょうしね」

アンブリッジが猫撫で声で言った。
ハグリッドの顔にわずかに残っていた、どす黒くない部分が赤くなった。

「その、なんだ――場所が変われば、ほれ――」

「山の景色とか?」

アンブリッジが素早く言った。
知ってるんだ。ハリーは絶望的にそう思った。

「山?」

ハグリッドはすぐに悟ったらしく、オウム返しに言った。

「うんにゃ、俺の場合は南フランスだ。ちょいと太陽と……海だな」

「そう?」

アンブリッジが言った。

「あんまり日焼けしていないようね」

「ああ……まあ……皮膚が弱いんで」

ハグリッドはなんとか愛想笑いをして見せた。
ハリーは、ハグリッドの歯が2本折れているのに気づいた。
アンブリッジは冷たくハグリッドを見た。ハグリッドの笑いが萎んだ。
アンブリッジは、腕に掛けたハンドバッグを少し上にずり上げながら言った。

「もちろん、大臣には、あなたが遅れて戻ったことをご報告します」

「ああ」

ハグリッドが頷いた。

「それに、高等尋問官として、残念ながら、わたくしは同僚の先生方を査察するという義務があることを認識していただきましょう。
ですから、まもなくまたあなたにお目にかかることになると申し上げておきます」

アンブリッジはくるりと向きを変え、戸口に向かって闊歩した。

「おまえさんが俺たちを査察?」

ハグリッドは呆然とその後ろ姿を見ながら言った。

「ええ、そうですよ」

アンブリッジは戸の取っ手に手を掛けながら、振り返って静かに言った。

「魔法省はね、ハグリッド、教師として不適切な者を取り除く覚悟です。では、おやすみ」

アンブリッジは戸をバタンと閉めて立ち去った。
ハリーは透明マントを脱ぎかけたが、サクヤがその手首を押さえた。

「まだだ」

サクヤがハリーの耳元で囁いた。

「まだ完全に行ってないかもしれない」

ハグリッドも同じ考えだったようだ。
ドスンドスンと小屋を横切り、カーテンをわずかに開けた。

「城に帰っていきおる」

ハグリッドが小声で言った。

「なんと……査察だと?あいつが?」

「そうなんだ」

ハリーが透明マントを剥ぎ取りながら言った。

「もうトレローニーが停職になった……」

「あの……ハグリッド、授業でどんなものを教えるつもり?」

ハーマイオニーが聞いた。

「おう、心配するな。授業の計画はどっさりあるぞ」

ハグリッドは、ドラゴンの生肉をテーブルからすくい上げ、またしても目の上にビタッと押し当てながら、熱を込めて言った。

「OWL年用にいくつか取っておいた動物がいる。まあ、見てろ。特別の特別だぞ」

「えーと……どんなふうに特別なの?」

ハーマイオニーが恐る恐る聞いた。

「教えねえ」

ハグリッドがうれしそうに言った。

「びっくりさせてやりてえもんな」

「ねえ、ハグリッド」

ハーマイオニーは遠回しに言うのをやめて、切羽詰まったように言った。

「アンブリッジ先生は、あなたがあんまり危険なものを授業に連れてきたら、絶対気に入らないと思うわ」

「危険?」

ハグリッドは上機嫌で、怪訝な顔をした。

「バカ言え。おまえたちに危険なもんなぞ連れてこねえぞ!
そりゃ、なんだ、連中は自己防衛ぐれえはするが――」

「ハグリッド、アンブリッジの査察に合格しなきゃならないのよ。
そのためには、ポーロックの世話の仕方とか、ナールとハリネズミの見分け方とか、そういうのを教えているところを見せたほうが絶対いいの!」

ハーマイオニーが真剣に言った。

「だけんど、ハーマイオニー、それじゃぁおもしろくもなんともねえ」

ハグリッドが言った。

「俺の持ってるのは、もっとすごいぞ。
何年もかけて育ててきたんだ。俺のは、イギリスでただ1つっちゅう飼育種だな」

「ハグリッド、オレからも頼むよ」

しびれを切らすように言うサクヤの声には、必死の思いが込められていた。

「アンブリッジは、ダンブルドアに近い先生たちを追い出すための口実を探してるんだ。
そのきっかけをこっちから渡してたまるもんか――ハグリッド、お願いだ、OWLに必ず出てくるような、つまらないものを教えて――せめて査察のときだけでも――」

しかし、ハグリッドは大欠伸をして、小屋の隅の巨大なベッドに片目を向け、眠たそうな目つきをした。

「さあ、今日は長い1日だった。それに、もう遅い」

ハグリッドがやさしくハーマイオニーの肩を叩いた。
ハーマイオニーは膝ががくんと折れ、床にドサッと膝をついた。

「おっ――すまん――」

ハグリッドはローブの襟をつかんで、ハーマイオニーを立たせた。

「ええか、俺のことは心配すんな。
俺が帰ってきたからには、おまえさんたちの授業用に計画しとった、ほんにすんばらしいやつを持ってきてやる。
まかしとけ……さあ、もう城に帰ったほうがええ。足跡を残さねえように、消すのを忘れるなよ」


「ハグリッドに通じたかどうか怪しいな」

しばらくして、ロンが言った。
安全を確認し、ますます降り積もる雪の中を、ハーマイオニーの「消却呪文」のおかげで足跡も残さずに城に向かって歩いていく途中だった。

「だったら、私、明日も来るわ」

ハーマイオニーが決然と言った。

「いざとなれば、私がハグリッドの授業計画を作ってあげる。
トレローニーがアンブリッジに放り出されたってかまわないけど、ハグリッドは追放させやしない!」





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