The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「しょうがねえ」
ハグリッドがぶすっと言った。
「そうだ」
「見つけたの?」
ハーマイオニーが声をひそめた。
「まあ、正直言って、連中を見つけるのはそう難しくはねぇ」
ハグリッドが言った。
「でっけえからな」
「どこにいるの?」
ロンが聞いた。
「山だ」
ハグリッドは答えにならない答え方をした。
「だったら、どうしてマグルに出――?」
「出くわしとる」
ハグリッドが暗い声を出した。
「ただ、そいつらが死ぬと、山での遭難事故っちゅうことになるわけだ」
ハグリッドは生肉をずらして、傷の一番ひどいところに当てた。
「ねえ、ハグリッド。
何をしていたのか、話してくれよ!」
ロンが言った。
「巨人に襲われた話を聞かせてよ。
そしたらハリーが、吸魂鬼に襲われた話をしてくれるよ」
ハグリッドは飲みかけの紅茶に咽せ、生肉を取り落とした。
ハグリッドがしゃべろうとして咳き込むし、生肉が
ペチャッと軽い音を立てて床に落ちるしで、大量の唾と紅茶とドラゴンの血がテーブルに飛び散った。
「なんだって?吸魂鬼に襲われた?」
ハグリッドが唸った。
「知らなかったの?」
ハーマイオニーが目を丸くした。
「ここを出てから起こったことは、なんも知らん。秘密の使命だったんだぞ。
ふくろうがどこまでもついて来るようじゃ困るだろうが――吸魂鬼のやつが!冗談だろうが?」
「本当なんだ。リトル・ウィンジングに現れて、僕といとこを襲ったんだ。
それから魔法省が僕を退学にして――」
「
なにぃ?」
「――それから尋問に呼び出されてとか、いろいろ。だけど、最初に巨人の話をしてよ」
「
退学になった?」
「ハグリッドがこの夏のことを話してくれたら、僕のことも話すよ」
ハグリッドは開いているほうの目でハリーをギロリと見た。
ハリーは、一途に思いつめた顔でまっすぐその目を見返した。
サクヤは無意識に口数が減っていた。夏休み中の出来事なら、ハリーと同じくらい"いろいろ"あった。
しかし、それをここで話すわけにはいかないし、サクヤが断ったとなると、ハグリッドも自分の使命のことを教えてくれなくなるかもしれない。
自分に話題を振られませんように、とひっそり祈っていると、「しかたがねえ」とハグリッドが観念したような声を出したので、サクヤはほっと密かに息を吐いた。
ハグリッドは屈んで、ドラゴンの生肉をファングの口からぐいともぎ取った。
「まあ、ハグリッド。だめよ。不潔じゃな――」
ハーマイオニーが言いかけたときには、ハグリッドはもう腫れた目に生肉をべたりと貼りつけていた。
元気づけに紅茶をもうひと口がぶりと飲み、ハグリッドが話しだした。
「さて、俺たちは、学期が終わるとすぐ出発した――」
「それじゃ、マダム・マクシームが、一緒だったのね?」
ハーマイオニーが口を挟んだ。
「ああ、そうだ」
ハグリッドの顔に――ひげと緑の生肉に覆われていない部分はわずかだったが――和らいだ表情が浮かんだ。
「そうだ。2人だけだ。
言っとくが、ええか、あの
女は、どんな厳しい条件もものともせんかった。オリンペはな。
ほれ、あの女は身なりのええ、きれいな女だし、俺たちがどんなところに行くのかを考えると、『野に伏し、岩を枕にする』のはどんなもんかと、俺は訝っとった。
ところが、あの女は、ただの一度も弱音を吐かんかった」
「行き先はわかってたの?」
サクヤが聞いた。
「つまり、巨人がどこにいるのか、知っていたの?」
「いや、ダンブルドアが知っていなさった。で、俺たちに教えてくれた」
ハグリッドが言った。
「巨人て、隠れてるの?」
ロンが聞いた。
「秘密なの?居場所は?」
「そうでもねえ」
ハグリッドがもじゃもじゃ頭を振った。
「たいていの魔法使いは、連中が遠くに離れてさえいりゃあ、どこにいるかなんて気にしねえだけだ。
ただ、連中のいる場所は簡単には行けねえとこだ。少なくともヒトにとってはな。
そこで、ダンブルドアに教えてもらう必要があった。1ヵ月かかったぞ。そこに着くまでに――」
「
1ヵ月?」
ロンはそんなにバカげた時間がかかる旅なんて、聞いたことがないという声を出した。
「だって――移動キーとか何か使えばよかったんじゃないの?」
ハグリッドは隠れていないほうの目を細め、妙な表情を浮かべてロンを見た。ほとんど哀れんでいるような目だった。
「俺たちは見張られているんだ、ロン」
ハグリッドがぶっきらぼうに言った。
「どういう意味?」
「おまえさんにはわかってねえ」
ハグリッドが言った。
「魔法省はダンブルドアを見張っとる。それに、魔法省が、あの方と組んでるとみなした者全部をだ。そんで――」
「そのことは知ってるよ」
話の先が聞きたくてうずうずし、ハリーが急いで言った。
「魔法省がダンブルドアを見張ってることは、僕たち知ってるよ」
「それで、そこに行くのに魔法が使えなかったんだね?」
ロンが雷に打たれたような顔をした。
「マグルみたいに行動しなきゃならなかったの?
ずーっと?」
「いいや、ずーっとちゅうわけではねえ」
ハグリッドは言いたくなさそうだった。
「ただ、気をつけにゃあならんかった。なんせ、オリンペと俺はちいっと目立つし――」
ロンは鼻から息を吸うのか吐くのか決めかねたような押し殺した音を出した。そして慌てて紅茶をごくりと飲んだ。
「――そんで、俺たちは追跡されやすい。俺たちは一緒に休暇を過ごすふりをした。
で、フランスに行った。魔法省の誰かに追けられとるのはわかっとったんで、オリンペの学校のあたりを目指しているように見せかけた。
ゆっくり行かにゃならんかった。なんせ俺は魔法を使っちゃいけねえことになっとるし、魔法省は俺たちを捕まえる口実を探していたからな。
だが、追けてるやつを、ディー・ジョンのあたりでなんとか撒いた――」
「わぁぁー、ディジョン?」
ハーマイオニーが興奮した。
「バケーションで行ったことがあるわ。それじゃ、あれ見た――?」
ロンの顔を見て、ハーマイオニーが黙った。
「そのあとは、俺たちも少しは魔法を使った。そんで、なかなかいい旅だった。
ポーランドの国境で、狂ったトロール2匹に出っくわしたな。
それからミンスクのパブで、俺は吸血鬼とちょいと言い争いをしたが、それ以外は、まったくすいすいだった」
「で、その場所に到着して、そんで、連中の姿を探して山ん中を歩き回った」
「連中の近くに着いてからは、魔法は一時お預けにした。
1つには、連中は魔法使いが嫌いなんで、あんまり早くから下手に刺激するのはよくねえからな。
もう1つには、ダンブルドアが、『例のあの人』もきっと巨人を探していると、俺たちに警告しなすったからだ。
もうすでに巨人に使者を送っている可能性が高いと言いなすった。
巨人の近くに行ったら、死喰い人がどこかにいるかもしれんから、俺たちのほうに注意を引かねえよう、くれぐれも気をつけろとおっしゃった」
ハグリッドは話を止め、ぐーっとひと息紅茶を飲んだ。
_
( 124/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]