The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-





僕はさっき吸魂鬼に襲われた。それに、ホグワーツを退学させられるかもしれない。
何が起こっているのか、いったい僕はいつここから出られるのか知りたい。



暗い寝室に戻るや否や、ハリーは同じ文面を4枚の羊皮紙に書いた。
最初のはシリウス宛、2番目はサクヤ、3番目はロン、4番目はハーマイオニー宛だ。手当たり次第に送って、情報が1つでも得られれば上出来だ。
ハリーのふくろう、ヘドウィグは狩りに出かけていて、机の上の鳥籠は空っぽだ。
ハリーはヘドウィグの帰りを待ちながら、部屋を往ったり来たりした。
目がちくちく痛むほど疲れてはいたが、頭がガンガンし、次々といろいろな思いが浮かんで眠れそうになかった。
ダドリーを家まで背負ってきたので、背中が痛み、窓にぶつかったときとダドリーに殴られたときの瘤がズキズキ痛んだ。

歯噛みし、拳を握り締め、部屋を往ったり来たりしながら、ハリーは怒りと焦燥感で疲れ果てていた。
窓際を通るたびに、何の姿も見えない星ばかりの夜空を、怒りを込めて見上げた。
ハリーを始末するのに吸魂鬼が送られた。フィッグばあさんとマンダンガス・フレッチャーがこっそりハリーの跡を追けていた。
その上、ホグワーツの停学処分に加えて魔法省での尋問――それなのに、まだ誰も何にも教えてくれない。

それに、あの「吼えメール」は何だ。いったい何だったんだ?
キッチン中に響いた、あの恐ろしい、脅すような声は誰の声だったんだ?
どうして僕は、何にも知らされずに閉じ込められたままなんだ?
どうしてみんなは僕のことを聞き分けのない小僧扱いするんだ?

これ以上魔法を使ってはいけない。家を離れるな……

通りがかりざま、ハリーは学校のトランクを蹴飛ばした。
しかし、怒りが収まるどころか、かえって気が滅入った。身体中が痛い上に、今度は爪先の鋭い痛みまで加わった。
片足を引きずりながら窓際を通り過ぎたとき、柔らかく羽を擦り合わせ、ヘドウィグが小さなゴーストのようにスイーッと入ってきた。

「遅かったじゃないか!」

ヘドウィグが籠のてっぺんにふわりと降り立ったとたん、ハリーが唸るように言った。

「それは置いとけよ。僕の仕事をしてもらうんだから!」

ヘドウィグは、死んだカエルを嘴にくわえたまま、大きな丸い琥珀色の目で恨めしげにハリーを見つめた。

「こっちに来るんだ」

ハリーは小さく丸めた4枚の羊皮紙と革紐を取り上げ、ヘドウィグの鱗状の脚に括りつけた。

「シリウス、サクヤ、ロン、ハーマイオニーにまっすぐに届けるんだ。
相当長い返事をもらうまでは帰ってくるなよ。
いざとなったら、みんながちゃんとした手紙を書くまで、ずっと突っついてやれ。わかったかい?」

ヘドウィグはまだ嘴がカエルで塞がっていて、くぐもった声でホーと鳴いた。

「それじゃ、行け」

ハリーが言った。
ヘドウィグはすぐさま出発した。
その後すぐ、ハリーは着替えもせずベッドに寝転び、暗い天井を見つめた。
惨めな気持ちに、今度はヘドウィグにイライラをぶつけた後悔が加わった。
プリベット通り4番地で、ヘドウィグは唯一の友達なのに。
シリウス、サクヤ、ロン、ハーマイオニーから返事をもらって帰ってきたらやさしくしてやろう。

4人とも、すぐに返事を書くはずだ。吸魂鬼の襲撃を無視できるはずがない。
明日の朝、目が覚めたら、ハリーをすぐさま「隠れ穴」に連れ去る計画を書いた、同情に満ちた分厚い手紙が4通来ていることだろう。
そう思うと気が休まり、眠気がさまざまな想いを包み込んでいった。

しかし、ヘドウィグは次の朝戻ってはこなかった。
ハリーはトイレに行く以外は1日中部屋に閉じこもっていた。
ペチュニア叔母さんが、その日三度、叔父さんが3年前の夏に取りつけた猫用のくぐり戸から食事を入れてよこした。
叔母さんが部屋に近づくたびに、ハリーは「吼えメール」のことを聞き出そうとしたが、叔母さんの答えときたら、石に聞いたほうがまだましだった。
ダーズリー一家は、それ以外ハリーの部屋には近づかないようにしていた。
無理やりみんなと一緒にいて何になるとハリーは思った。
また言い争いをして、結局ハリーが腹を立て、違法な魔法を使うのが落ちじゃないか。

そんなふうに丸3日が過ぎた。
あるときは、イライラと気が昂り、何も手につかず、部屋をうろつきながら、自分がわけのわからない状況に悶々としているのに、放ったらかしにしているみんなに腹を立てた。
そうでないときは、まったくの無気力に襲われ、1時間もベッドに横になったままぼんやり空を見つめ、魔法省の尋問を思い、恐怖に苛まれていた。

不利な判決が出たらどうしよう?
本当に学校を追われ、杖を真っ二つに折られたら?
何をしたら、どこに行ったらいいんだろう?
ここに帰ってずっとダーズリー一家と暮らすことなんてできない。
自分が本当に属している別な世界を知ってしまったいま、それはできない。
シリウスの家に引っ越すことができるだろうか?
1年前、やむなく魔法省の手から逃亡する前シリウスが誘ってくれた。
まだ未成年のハリーが、そこに1人で住むことを許されるだろうか?
それとも、どこに住むということも判決で決まるのだろうか?
国際機密保持法に違反したのは、アズカバンの独房行きになるほどの重罪なのだろうか?

ここまで考えると、
ハリーはいつもベッドから滑り降り、また部屋をうろうろしはじめるのだった。

ヘドウィグが出発してから4日目の夜、ハリーは何度目かの無気力のサイクルに入り、疲れきって何も考えられず、天井を見つめて横たわっていた。
そのとき、バーノン叔父さんがハリーの部屋に入ってきた。
ハリーはゆっくりと首を回して叔父さんを見た。
叔父さんは一張羅の背広を着込み、ご満悦の表情だ。

「わしらは出かける」

叔父さんが言った。

「え?」

「わしら――つまりおまえの叔母さんとダドリーとわしは――出かける」

「いいよ」

ハリーは気のない返事をして、また天井を見上げた。

「わしらの留守に、自分の部屋から出てはならん」

「オーケー」

「テレビや、ステレオ、そのほかわしらの持ち物に触ってはならん」

「ああ」

「冷蔵庫から食べ物を盗んではならん」

「オーケー」

「この部屋に鍵を掛けるぞ」

「そうすればいいさ」

バーノン叔父さんはハリーをじろじろ見た。
さっぱり言い返してこないのを怪しんだらしい。
それから足を踏み鳴らして部屋を出ていき、ドアを閉めた。
鍵を回す音と、バーノン叔父さんがドスンドスンと階段を降りてゆく音が聞こえた。
数分後にバタンという車のドアの音、エンジンのブルンブルンという音、そして紛れもなく車寄せから車が滑り出す音が聞こえた。

ダーズリー一家が出かけても、ハリーには何ら特別な感情も起こらなかった。
連中が家にいようがいまいが、ハリーには何の違いもない。
起き上がって部屋の電気を点ける気力もなかった。ハリーを包むように、部屋がだんだん暗くなっていった。
横になったまま、ハリーは窓から入る夜の物音を聞いていた。
ヘドウィグが帰ってくる幸せな瞬間を待って、窓はいつも開け放しにしてあった。

空っぽの家がミシミシ軋んだ。水道管がゴボゴボ言った。
ハリーは何も考えず、ただ茫然と惨めさの中に横たわっていた。

やおら、階下のキッチンで、はっきりと、何かが壊れる音がした。
ハリーは飛び起きて、耳を澄ませた。
ダーズリー親子のはずはない。帰ってくるには早すぎる。
それにまだ車の音を聞いていない。

一瞬しーんとなった。そして人声が聞こえた。

泥棒だ。
ベッドからそっと滑り降りて立ち上がった。
しかし、次の瞬間、泥棒なら声をひそめているはずだと気づいた。
キッチンを動き回っているのが誰であれ、声をひそめようとしていないことだけは確かだ。

ハリーはベッド脇の杖を引っつかみ、部屋のドアの前に立って全神経を耳にした。
次の瞬間、鍵がガチャッと大きな音を立てドアがパッと開き、ハリーは飛び上がった。

ハリーは身動きせず、開いたドアから2階の暗い踊り場を見つめ、何か聞こえはしないかと、さらに耳を澄ませた。
何の物音もしない。
ハリーは一瞬ためらったが、素早く、音を立てずに部屋を出て、階段の踊り場に立った。



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