The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
寮の部屋に帰って濡れたコートを暖炉の前に干すと、ハーマイオニーはサクヤに早速買ってきた服を着て見せてほしいと言ってきた。
散々見ただろと茶化しながら、なんだかむず痒くなりつつ着替える。
久々に着る真新しい服と靴、マフラー。その感触が落ち着かなくて、サクヤはハーマイオニーに向かって気弱な声を出した。
「似合う?」
「もちろんよ」
ハーマイオニーは嬉しそうだった。
「あなたならこれが似合うだろうなって、これでも少しはわかってるのよ。ラベンダーたちには及ばないかもしれないけど」
「うーん、ハルが言うなら間違いない、かな…?」
落ち着かなくて、くるりと一回転してみる。赤と茶色を控えめな基調とした、模様の入ったシンプルな衣服。そもそも新しいものを買うのが久しぶりで、そして似合うと言われたのが嬉しくて、自然とサクヤの頬が緩む。
そんなサクヤを見てか、ハーマイオニーはねぇ、とそばに寄った。
「明後日、まだ休みじゃない?このお祭り行ってみましょうよ」
サクヤの右手をとって、ハーマイオニーは控えめに微笑みかけてきた。
「その服や靴を着て…少し早めに出て、お店を回りましょう。きっと賑やかよ。他にお店も出るでしょうし、晴れたら花火もやるかもしれない。ハニーデュークスでお菓子を買って、あったかいバタービールも買っておいて、丘の上で花火があがるのを待つの。そうだわ、きっといろんなイベントもあるから、ちゃんと下調べしておきましょうか」
「は…ハル、でも、オレはいろいろやんなきゃいけないこともあるし…それに、周りも…」
「サクヤ」
おどおどと口上を並べていると、ぎゅ、と手を握りしめられた。
「…私ね。あなたと思い出を作りたい」
顔をあげると、褐色の優しい瞳と目が合った。
「魔法族の創始者の末裔としてのあなたでもない、闇の印が刻まれた渦中の女の子でもない。ただの普通のサクヤと、なんでもない思い出をたくさん作りたい。いつでも…どんなときでも」
細い指先がサクヤの手の甲を撫でた。
「確かに、あなたの…いえ、魔法界のこの先のことを考えたら、頭がパンクしそうになるわ。ただのマグル生まれの、一般人の私だってそう思うんだから、当のあなたはどれだけ苦しいか…。だけど、これまでだって、あなたはそうだったんだと思うの」
ハーマイオニーは続けた。
「たくさんのことを乗り越えてきたわ。辛いことも…たくさんあった。でも、あなたは一人じゃなかった。ハリーやロン、私や…皆があなたを支えたとか、そういう意味だけじゃない。あなたの中にあるひとつひとつの思い出も、あなたをずっと生かしてきたのよ」
口が微かに開いている。何か言いたいのに、言葉が出ない。胸の奥が詰まったようになって、声が出ない。
「そばにはもういないけれど…あなたを愛した人たちが、あなたの心の中に生きてる。きっと永遠に。…私もそうなりたいなって、そう思うの」
そう言って、ハーマイオニーは遠慮がちに、でも顔を赤くしながらサクヤの胸元に額をつけた。
「私との思い出も、あなたの中に残して」
自然と腕が伸びた。言葉が出なくて、サクヤは精一杯の力で彼女を抱き締めた。ゆっくりと自身の背中に回った腕に、閉じたサクヤの目から涙が溢れた。
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