The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ぐぐっと背筋を伸ばしてのびをして、サクヤはくあっと欠伸をした。新鮮な酸素を取り込んで、頭がすっきりすると、周りの景色が見えてくる。


ホグワーツ、グリフィンドールの女子寮の一室。赤い古風な壁紙、天蓋付きのベッドが二つ。その片方にサクヤと、ルームメイトであり恋人の彼女はいた。


同じベッドと布団、すぐ隣の少女。白く柔らかいシーツと毛布に包まれた、自分より少しだけ小柄で華奢な容姿。起こさないよう、息を潜めてシーツをめくると、無防備な肌が露わになった。


生まれた姿のまま、横向きのまま、ハーマイオニーは熟睡していた。


昨日、いつもの戯れの延長で彼女を愛した。今日は休みだからと少し無理もさせたような気がしないでもない。それなのに、口許が自然と緩んで、息をするごとに体が渇く。


安心しきったゆったりとした呼吸。湿気でいつもよりふんわりとした彼女の髪にも愛おしさを感じながら、サクヤはそっとその体を仰向けにした。


覆いかぶさるとひどく暖かい体温に胸が震える。ゆっくりと口づけると、疲れて寝ている人間にちょっかいを出すという罪悪感は急速に薄れていった。


何度もキスを繰り返すと、やがて瞼がぴくりと動く。そして、うっすらと目が開いた。




「……サクヤ?」



名前を呼ばれて、ぐっと胸が熱くなる。皆が呼ぶ自分の名前。聞きなれている名前。それなのに、こんなに胸が、目頭が熱くなる。



「…おはよ、ハーマイオニー」



声が震えていたかわからない。


返事がある前に唇を塞いだ。少し強くなる抵抗も可愛いものだと、サクヤはその細い体を抱き締めた。






***






ホグワーツの五年生にあがったサクヤだったが、ここ最近の出来事を省みると、今ここにいるのがなんだか不思議な心地さえした。


思えばホグワーツに入学が決まったあの頃は、幸せいっぱい、楽しい未来ばかりを想像していた。
伝統ある魔法族創始者の一族である両親は記憶にすらない頃に死んでしまったが、自分が愛されていたことを事あるごとにサクヤを引き取った老夫婦や、周りの人々が教えてくれた。


寂しさこそあれ、自分には誇りある両親がいた。愛して育ててくれた老夫婦がいた。ホグワーツに入学してからはハリー、ロン、ハーマイオニーをはじめとしたかけがえのない友人たちができ、正しく導き、守る先生たちがいてくれた。


でも、一年を経るごとに、サクヤはそれを少しずつ失ってきた。


二年生の終わりに、育ての親のザンカン夫婦が何者かに殺された。そしてその死から立ち直りつつあった去年、親友だったセドリックを失った。すべてが闇の魔法使い、ヴォルデモートのせいだった。さらに悪いことに、創始者の一族に目をつけた彼によって、サクヤは半ば無理やり「死喰い人」の紋章を刻まれた。今まで味方だった人たちが手のひらを返し、守ってくれる人は理不尽な攻撃を受ける。


頼るべき教員の中にすら潜り込んできた敵に、やっとどう立ち向かうかを考えられるようにはなったが、それでも輝かしい未来を想像するには、サクヤは悲しみを抱えすぎていた。


そのままだったら到底立ち上がれなかったサクヤの支えになったのが、ハーマイオニーだった。


一年生の頃から想い合い、支え合ってきた。そしていつも何度でも、サクヤの本当に辛い時期からも目を逸らさず、向き合ってくれた。


サクヤは元々人が好きだ。人の善性を信じている。これまでも、老夫婦、友人、教師――いろんな人を信じて、愛してきた。それでも、こんなに人を好きになって、そばにいて安心するのだということを教えてくれたのはハーマイオニーであるように思う。


どんなに傷ついて、心が隙間だらけになって折れてしまいそうになっても、彼女がいるというだけで、彼女に愛されているというだけで、溢れるように満たされるから。



「ねぇハル、ハルってば。そろそろ起きようよ」



ウールの上着を羽織り、ベッドでぐったりしている恋人を小突く。すると、キッと鋭い目がこちらを睨んだ。



「起きたかったわよ!なのに、朝から…」



ぷい、と向こうを向くと、ふくらんだくせ毛でほとんど顔が見えなくなる。


申し訳ないのに可愛さが上回って、サクヤは思わずにやついてしまう。でも、ここはこちらが悪いので申し訳なさは出さなければいけない。



「悪かったよ。でも、あんまり可愛かったから」


「理由になってないわ」



ぶすくれた声に、案外怒ってるな、と内心肩をすくめる。趣向を変えてみるとしよう。



「……もうすぐお昼になっちゃうよ、ハル。今日はホグズミードまで散歩するんだろ?」


「だったら、なおさら……昼!?」



バッ、と慌てたようにハーマイオニーが振り返る。


反射的に腰を押さえて、サイドテーブルに置かれた時計を見て…ハーマイオニーはじっとりとサクヤを睨んだ。当のサクヤはクスクスと笑っている。



「ちょっと…」


「ほらほら、早く起きなきゃ。せっかくの休日なんだからさ」



時計の針は朝の八時。まだ朝と呼べる時間で、ハーマイオニーはくだらない悪戯にため息をついた。



「もう、くだらないことやめてよ。元はといえばサクヤが悪いんだから…仮に私が動けなくても仕方ないんだからね」


「その時はその時で、ちゃんと新しい予定を考えるよ」



ほら、とハーマイオニーにタオルと着替えを差し出す。下着を身に着け、むっつりとしながら、ハーマイオニーは窓の外を見て、小さくあ、と声を洩らした。



「雨降ってるのね」


「うん。占いでは晴れだったんだけどなあ」



戯れにやってみた、占い学の知識を使っての天気予報。自分の占いの精度が悪いのか、占い学自体のあやふやさが原因なのかと腕を組むと、やっぱりそんなのは当てにならないとばかりにハーマイオニーはフンと鼻を鳴らした。



「天気を当てるのにはれっきとした情報と知識がいるのよ。湿度だとか風だとか、そういう知識を使ってるの。マグルの職業で、気象予報士というのがあるんだけど、こっちの方がちゃんと当たる確率は高いと思うわ」


「えー、でも、結構難しいんだろ?」



床に落ちていた下着を拾い、新しい服をタンスから引き出しながらサクヤが返す。



「まぁ、そうなんだけどね。それでも、そんな曖昧な天気をさらに曖昧なもので当てられるはずがないわ」



体を拭き、テキパキと衣服を身に着ける。五年生、十五歳。体は子供から大人の女性に成長しつつある。一年生の頃から同部屋なので、着替えの様子は意識せずとも目に入る。


成長したなぁと漠然と思っていると、何?と首を傾げられてちょっとばつが悪くなる。誤魔化し笑ってみせると、ハーマイオニーは窓の外を見て、ふんわりとした自身の髪を撫でた。



「あぁ、雨って嫌だわ。身支度が大変」



顔をしかめたハーマイオニーの顔が鏡に映る。湿気で爆発したといってもいい髪の毛に、サクヤはくすりと笑いながら「手伝うよ」と言った。






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