The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「禁止」
アンジェリーナが虚ろな声をあげた。
その夜の、談話室でのことだ。
「
禁止。
ビーターなしで、いったいどうやってブラッジャーを処理しろって?」
まるで試合に勝ったような気分ではなかった。
せめてもの救いは、グリフィンドール・チームがシーカーを2人抱えていて、片方は禁止令をくらわなかったことだ。
ビーターに加え、シーカーまでいなくなったら、本当に途方に暮れるところだった。サクヤが誰にも押さえられることなく、自分1人でこらえてくれたことには感謝の気持ちが湧いた。
だが、ハリーにとって飛ぶことを奪われるのは、それを上回るほどかなりつらいものがあった。まるで、今年の夏休みに戻ったような最悪の気分だ。
どちらを向いても、ハリーの目に入るのは、落胆した、怒りの表情ばかりだった。選手は暖炉の周りにがっくりと腰を下ろしていた。
しかし、サクヤとロンを除く全員だ。2人は試合のあとから姿が見えなかった。
「絶対不公平よ」
アリシアが放心したように言った。
「クラッブはどうなの?
ホイッスルが鳴ってからブラッジャーを打ったのはどうなの?アンブリッジはあいつを禁止にした?」
「ううん」
ジニーが情けなさそうに言った。
ハリーを挟んで、ジニーとハーマイオニーが座っていた。
「書き取りの罰則だけ。
モンタギューが夕食のときにそのことで笑っていたのを聞いたわ」
「それに、フレッドを禁止にするなんて。なんにもやってないのに!」
アリシアが拳で膝を叩きながら怒りをぶつけた。
「俺がやってないのは、俺のせいじゃない」
フレッドが悔しげに顔を歪めた。
「君たち3人に押さえられていなけりゃ、あのクズ野郎、打ちのめしてグニャグニャにしてやったのに」
ハリーは惨めな思いで暗い窓を見つめた。雪が降っていた。
つかんでいたスニッチが、談話室をブンブン飛び回っている。
みんなが催眠術にかかったようにその行方を目で追っていた。
クルックシャンクスが、スニッチを捕まえようと、椅子から椅子へと跳び移っていた。
「私、寝るわ」
アンジェリーナがゆっくり立ち上がった。
「全部悪い夢だったってことになるかもしれない……明日目が覚めたら、まだ試合をしていなかったってことに……」
アリシアとケイティがそのすぐあとに続いた。
フレッドとジョージもそれからしばらくして、周囲を誰彼なしに睨みつけながら寝室へと去っていった。
ジニーもそれから間もなくいなくなった。
ハリーとハーマイオニーだけが暖炉のそばに取り残された。
「サクヤとロンはまだ戻らないのかしら」
ハーマイオニーが低い声で言った。
サクヤが試合後に、チームメンバーへ「ロンのそばにいる」と言い残して、それっきりだった。
「たぶん、ロンが私たちを避けて、戻りたがらないんだと思うわ」
ハーマイオニーが言った。
「探しに行こうかしら。ね?どこにいると思――?」
ちょうどそのとき、背後でギーッと、「太った婦人」が開く音がして、サクヤとロンが肖像画の穴を這い上がってきた。2人の髪には雪がついている。
ハリーとハーマイオニーを見ると、ロンは真っ青な顔をして、はっとその場で動かなくなった。
「どこにいたの?」
ハーマイオニーが勢いよく立ち上がり、心配そうに言った。
「歩いてた。一緒に」
サクヤが静かに言った。ロンは押し黙ったままだ。
2人とも、まだクィディッチのユニフォームを着たままだった。
ハリーはサクヤの様子が気にかかっていたが、冷えきり、硬くなった表情からはよく読み取れなかった。
「凍えてるじゃない」
ハーマイオニーが言った。
「こっちに来て、座って!2人とも!」
ロンは暖炉のところに歩いてきて、ハリーから一番離れた椅子に身を沈めた。ハリーの目を避けていた。
サクヤは2人の間の椅子に、その隣にハーマイオニーが座った。
囚われの身となったスニッチが、4人の頭上をブンブン飛んでいた。
「ごめん」
ロンが足下を見つめながらやっと口を開き、ボソボソと言った。
「何が?」
ハリーが言った。
「僕がクィディッチができるなんて考えたから――」
「それはもういいって、何回も言ったろ。またたくさん練習すればいいんだよ」
何度もこのやりとりをしたのだろう。
しかしサクヤは辛抱強く、うんざりした言い方をすることなく、優しく繰り返した。
「ううん……僕、明日の朝一番でチームを辞めるよ」
「君が辞めたら」
ハリーがイライラと言った。
「チームには4人しか選手がいなくなる」
サクヤとロンが怪訝な顔をしたので、ハリーが言った。
「僕は終身クィディッチ禁止になった。フレッドもジョージもだ」
「え?」
2人が叫んだ。
ハーマイオニーがすべての経緯を話した。ハリーはもう一度話すことさえ耐えられなかった。
話を聞き終えると、ロンはますます苦悶した。サクヤは唖然としたままの表情で動かなかった。
「みんな僕のせいだ――」
「僕がマルフォイを打ちのめしたのは、君が
やらせたわけじゃない」
ハリーが怒ったように言った。
「――僕が試合であんなにひどくなければ――」
「――それとは何の関係もないよ」
「――あの歌で上がっちゃって――」
「――あの歌じゃ、誰だって上がったさ」
ハーマイオニーは立ち上がって言い争いから離れ、窓際に歩いていって、窓ガラスに逆巻く雪を見つめていた。
サクヤは押し黙ったまま、ハリーとロンのやりとりをどこかぼーっと眺めている。
「おい、いい加減にやめてくれ!」
ハリーが爆発した。
「もう十分に悪いことずくめなんだ。
君が何でもかんでも自分のせいにしなくたって!」
ロンは何も言わなかった。
ただしょんぼりと、濡れた自分のローブの裾を見つめて座っていた。
しばらくして、ロンがどんよりと言った。
「生涯で、最悪の気分だ」
「仲間が増えたよ」
ハリーが苦々しく言った。
「……サクヤは大丈夫なの?あんなことを言われて、僕だったら――」
「――なんとか、大丈夫だ」
サクヤが静かに言った。
その声色を聞いたハーマイオニーは、点々と雪片のついた真っ暗な窓からパッと目を離し、元いた椅子に戻ってきた。
「本当に大丈夫なの?」
「……ぎりぎりね。
だから、自分のことに必死で、ハリーたちにまでとっさに気が回らなくて……ごめん」
「『ごめん』は勘弁してくれ」
ハリーはロンのせいで、謝られることにうんざりしていた。
「サクヤのためだけに殴ったんじゃない。もうとっくに頭にきてたんだ」
「ねえ」
ハーマイオニーの声が微かに震えていた。
「1つだけ、この場にいる全員を元気づけることがあるかもしれないわ」
「へー、そうかい?」
ハリーはあるわけがないと思った。
「ええ、そうよ」
ハーマイオニーは、顔中で笑っていた。
「ハグリッドが帰ってきたわ」
>>To be continued
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