The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーとジョージは息を荒らげたまま、互いにひと言も交わさず競技場を出た。
観衆の野次も叫びも、だんだん遠退き、玄関ホールに着くころには、何も聞こえなくなっていた。
ただ、2人の足音だけが聞こえた。
ハリーは右手の中で何かがまだもがいているのに気づいた。
握り拳の指関節が、マルフォイの顎を殴って擦り剥けていた。
手を見ると、スニッチの銀の翼が、指の間から突き出し、逃れようと羽ばたいているのが見えた。
マクゴナガル先生の部屋のドアに着くか着かないうちに、先生が後ろから廊下を闊歩してくるのが見えた。
恐ろしく怒った顔で、大股で2人に近づきながら、首に巻いていたグリフィンドールのスカーフを、震える手で引きちぎるように剥ぎ取った。

「中へ!」

先生は怒り狂ってドアを指差した。ハリーとジョージが中に入った。
先生は足音も高く机の向こう側に行き、怒りに震えながらスカーフを床に叩きつけ、2人と向き合った。

「さて?」

先生が口を開いた。

「人前であんな恥さらしな行為は、見たことがありません。
1人に2人がかりで!申し開きできますか!」

「マルフォイが挑発したんです」

ハリーが突っ張った。

「挑発?」

マクゴナガル先生は怒鳴りながら机を拳でドンと叩いた。
その拍子にタータン柄の缶が机から滑り落ち、蓋がパックリ開いて、生姜ビスケットが床に散らばった。

「あの子は負けたばかりだったでしょう。違いますか?当然、挑発したかったでしょうよ!
しかしいったい何を言ったというんです?2人がかりを正当化するような――」

「僕の両親を侮辱しました」

ジョージが唸り声をあげた。

「ハリーのお母さんもです」

「それに、サクヤを――サクヤを死喰い人と呼んで、彼女が、セドリックを殺したんじゃないかって言うんですよ」

ハリーは、それを自分の口で言うのすら、心の底から嫌だった。
マクゴナガル先生は一瞬唇を結んだが、またすぐに大声を響き渡らせた。

「しかし、フーチ先生にその場を仕切っていただかずに、あなたたち2人は、マグルの決闘ショーをやって見せようと決めたわけですか?
自分たちがやったことの意味がわかって――?」

ェヘン、ェヘン

ハリーもジョージもさっと振り返った。
ドローレス・アンブリッジが戸口に立っていた。
巻きつけている緑色のツイードのマントが、その姿をますます巨大なガマガエルそっくりに見せていた。
ぞっとするような、胸糞悪くなるような、不吉な笑みを浮かべている。
このにっこり笑いこそ、ハリーには迫りくる悲劇を連想させるものになっていた。

「マクゴナガル先生、お手伝いしてよろしいかしら?」

アンブリッジ先生が、毒をたっぷり含んだ独特の甘い声で言った。
マクゴナガル先生の顔に血が上った。

「手伝いを?」

先生が締めつけられたような声で繰り返した。

「どういう意味ですか?手伝い?

アンブリッジ先生が部屋に入ってきた。胸糞悪い笑みを続けている。

「あらまあ、先生にもう少し権威をつけて差し上げたら、お喜びになるかと思いましたのよ」

マクゴナガル先生の鼻の穴から火花が散っても不思議はない、とハリーは思った。

「何か誤解なさっているようですわ」

マクゴナガル先生はアンブリッジに背を向けた。

「さあ、2人とも、よく聞くのです。
マルフォイがどんな挑発をしようと、そんなことはどうでもよろしい。
たとえ、あなた方の家族や友人全員を侮辱しようとも、関係ありません。2人の行動は言語道断です。
それぞれ1週間の罰則を命じます。
ポッター、そんな目で見てもだめです。あなたは、それに値することをしたのです!
そして、あなた方が二度とこのような――」

ェヘン、ェヘン

マクゴナガル先生が「我に忍耐を与えよ」と祈るかのように目を閉じ、再びアンブリッジ先生のほうに顔を向けた。

何か?

「わたくし、この2人は罰則以上のものに値すると思いますわ」

アンブリッジのにっこりがますます広がった。
マクゴナガル先生がパッと目を開けた。

「残念ではございますが」

笑みを返そうと努力した結果、マクゴナガル先生の口元が不自然に引き攣った。

「この2人は私の寮生ですから、ドローレス、私がどう思うかが重要なのです」

「さて、実は、ミネルバ」

アンブリッジ先生がニタニタ笑った。

「わたくしがどう思うかがまさに重要だということが、あなたにもおわかりになると思いますわ。
えー、どこだったかしら?コーネリウスが先ほど送ってきて……つまり」

アンブリッジ先生はハンドバッグをゴソゴソ探しながら小さく声をあげて作り笑いした。

大臣が先ほど送ってきたのよ……ああ、これ、これ……」

アンブリッジは羊皮紙を1枚引っ張り出し、広げて、読み上げる前にことさら念入りに咳払いした。

ェヘン、ェヘン……『教育令第25号』」

「まさか、またですか!」

マクゴナガル先生が絶叫した。

「ええ、そうよ」

アンブリッジはまだにっこりしている。

「実は、ミネルバ、あなたのおかげで、わたくしは教育令を追加することが必要だと悟りましたのよ……憶えているかしら。
わたくしがグリフィンドールのクィディッチ・チームの再編成許可を渋っていたとき、あなたがわたくしの決定を覆したわね?
あなたはダンブルドアにこの件を持ち込み、ダンブルドアがチームの活動を許すようにと主張しました。
さて、それはわたくしとしては承服できませんでしたわ。
早速、大臣に連絡しましたら、大臣はわたくしとまったく同意見で、高等尋問官は生徒の特権を剥奪する権利を持つべきだ、さもなくば彼女は――わたくしのことですが――ただの教師より低い権限しか持たないことになる!とまあ。
そこで、いまとなってみればわかるでしょうが、ミネルバ、グリフィンドールの再編成を阻止しようとしたわたくしがどんなに正しかったか。恐ろしい癇癪持ちだこと。
……とにかく、教育令を読み上げるところでしたわね……ェヘン、ェヘン……。
『高等尋問官は、ここに、ホグワーツの生徒に関するすべての処罰、制裁、特権の剥奪に最高の権限を持ち、他の教職員が命じた処罰、制裁、特権の剥奪を変更する権限を持つものとする。署名、コーネリウス・ファッジ、魔法大臣、マーリン勲章勲一等、以下省略』」

アンブリッジは羊皮紙を丸め直し、ハンドバッグに戻した。
相変わらずにっこりだ。

「さて……わたくしの考えでは、この2人が以後二度とクィディッチをしないよう禁止しなければなりませんわ」

アンブリッジはハリーを、ジョージを、そしてまたハリーを見た。
ハリーは、手の中でスニッチが狂ったようにバタバタするのを感じた。

「禁止?」

ハリーは自分の声が遠くから聞こえてくるような気がした。

「クィディッチを……以後二度と?」

「そうよ、ミスター・ポッター。終身禁止なら、身に滲みるでしょうね」

アンブリッジのにっこりが、ハリーが理解に苦しんでいるのを見て、ますます広がった。

「あなたと、それから、ここにいるミスター・ウィーズリーもです。
それに、安全を期すため、このお若い双子のもう1人も禁止するべきですわ――チームのほかの選手が押さえていなかったら、きっと、もうお1人もミスター・マルフォイ坊ちゃんを攻撃していたに違いありません。
この人たちの箒も当然没収です。わたくしの禁止令に決して違反しないよう、わたくしの部屋に安全に保管しましょう。
でも、マクゴナガル先生、わたくしはわからず屋ではありませんよ」

アンブリッジ先生がマクゴナガル先生のほうに向き直った。
マクゴナガル先生は、いまや、氷の彫像のように不動の姿勢でアンブリッジ先生を見つめていた。

「ほかの選手はクィディッチを続けてよろしい。
ほかの生徒には別に暴力的な兆候は見られませんからね。では……ごきげんよう」

そして、アンブリッジは、すっかり満足した様子で部屋を出ていった。
あとに残されたのは絶句した3人の沈黙だった。




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