The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ついに、ハリーは見つけた。
小さな金色のスニッチが、スリザリン側のピッチの端で、地面から数十cmのところに浮かんで、パタパタしている。

ハリーは急降下した……。

たちまち、マルフォイが矢のように飛び、ハリーの左手につけた。
箒の上で身を伏せている緑と銀色の姿が影のようにぼやけて見えた。

スニッチはゴールポストの1本の足元を回り込み、ピッチの反対側に向かって滑るように飛び出した。
この方向変換はマルフォイに有利だ。マルフォイのほうがスニッチに近い。
ハリーはファイアボルトを引いて向きを変えた。
マルフォイと並んだ。抜きつ抜かれつ……。

地面から数十cmで、ハリーは右手をファイアボルトから離し、スニッチに向かって手を伸ばした……ハリーの右側で、マルフォイの腕も伸びた。その指が伸び、探り……。

2秒間。
息詰まる、死に物狂いの、風を切る2秒間で、勝負は終わった。
――ハリーの指が、バタバタもがく小さなボールをしっかりと包んだ。
――マルフォイの爪が、ハリーの手の甲を虚しく引っ掻いた。
――ハリーはもがくスニッチを手に、箒の先を引き上げた。
グリフィンドール応援団が絶叫した……よーし!よくやった!

これで助かった。
ロンが何度かゴールを抜かれたことはどうでもいい。
グリフィンドールが勝ちさえすれば、誰も覚えてはいないだろう――。

「ハリー!」

ガッツーン。

サクヤの叫びが聞えたのと、ブラッジャーがハリーの腰にまともに当たったのはほとんど同時だった。
ハリーは箒から前のめりに放り出された。
幸い、スニッチを追って深く急降下していたおかげで、地上から2mと離れていなかった。
それでも、凍てついた地面に背中を打ちつけられ、ハリーは一瞬息が止まった。
マダム・フーチのホイッスルが鋭く鳴るのが聞こえた。
スタンドからの非難、怒鳴り声、野次、そしてドスンという音。それから、アンジェリーナの取り乱した声がした。
サクヤが箒ですっ飛んできて、ハリーの肩を両腕で支えて助け起こした。

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫」

ハリーは心配そうに覗き込むアンジェリーナにも無事を伝えられるよう、しかし硬い表情で言った。
マダム・フーチが、ハリーの頭上にいるスリザリン選手の誰かのところに矢のように飛んでいった。
ハリーの角度からは、誰なのかは見えなかった。

「あの悪党、クラッブだ」

アンジェリーナは逆上していた。

「君がスニッチを取ったのを見たとたん、あいつ、君を狙ってブラッジャーを強打したんだ。
――だけど、ハリー、勝ったよ。勝ったのよ!」

ハリーの背後で誰かがフンと鼻を鳴らした。スニッチをしっかり握り締めたまま、ハリーは振り返った。
ドラコ・マルフォイがそばに着地していた。
怒りで血の気のない顔だったが、それでもまだ嘲る余裕があった。

「ウィーズリーの首を救ったわけだねぇ?」

ハリーに向かっての言葉だった。

「あんな最低のキーパーは見たことがない……だけど、なにしろゴミ箱生まれだものなあ……僕の歌詞は気に入ったかい、ポッター?」

ハリーは答えなかった。サクヤもだ。
マルフォイに背を向け、降りてくるチームの選手を迎えた。
1人、また1人と叫んだり、勝ち誇って拳を突き上げたりしながら降りてきた。
ロンだけが、ゴールポストのそばで箒を降り、たった独りで、のろのろと更衣室に向かう様子だ。

「もう少し歌詞を増やしたかったんだけどねえ」

ケイティとアリシアがハリーを抱き締めたとき、マルフォイが追い討ちをかけた。

「韻を踏ませる言葉が見つからなかったんだ。
『でぶっちょ』と『おかめ』に――あいつの母親のことを歌いたかったんだけどねえ――」

「負け犬の遠吠えよ」

アンジェリーナが、軽蔑しきった目でマルフォイを見た。

『役立たずのひょっとこ』っていうのも、うまく韻を踏まなかったんだ――ほら、父親のことだけどね」

フレッドとジョージが、マルフォイの言っていることに気がついた。
ハリーと握手をしている最中、2人の身体が強張り、さっとマルフォイを見た。

「放っときなさい!」

アンジェリーナがフレッドの腕を押さえ、すかさず言った。

「フレッド、放っておくのよ。
勝手に喚けばいいのよ。負けて悔しいだけなんだから。あの思い上がりのチビ――」

「ハリー、行こう――ロンが心配だ。ね、フレッドも、ジョージも――」

サクヤが更衣室に目を向けたまま静かに言った。

「なんだい、フェリックスもウィーズリーのゴミ箱一家が大好きなのか。え?」

マルフォイが矛先にサクヤも加えてせせら笑った。

「君たち、休暇をあの家で過ごしたりするんだろう?よくゴミ箱に我慢できるねぇ。
だけど、まあ、ポッターはマグルなんかに育てられたから、ウィーズリー小屋の悪臭もオーケーってわけだ――」

ハリーとサクヤはマルフォイを無視するように努め、ジョージをつかんで押さえた。
一方で、あからさまに嘲笑うマルフォイに飛びかろうとするフレッドを抑えるのに、アンジェリーナ、アリシア、ケイティの3人がかりだった。
ハリーはマダム・フーチを目で探したが、ルール違反のブラッジャー攻撃のことで、まだクラッブを叱りつけていた。

「それとも、何かい」

マルフォイが後退りしながら意地の悪い目つきをした。

「ポッター、君の母親の家の臭いを思い出すのかな。ウィーズリーのゴミ箱小屋が、思い出させて――」

「いい加減に黙ったらどうだ」

ジョージを押さえていたハリーまでもが、いよいよ飛び出そうとするのを、サクヤが威圧感で止めてマルフォイを一蹴した。
瞬間的に沸騰したハリーの怒りが、その制止でなんとか臨界点直下まで抑え込まれた。

「ハリー、ジョージ。
しょうもない挑発にも、おもしろくもない歌に乗せられるのもナシだ。
試合は終わって、オレたちは勝ったんだ。それよりも、早くロンのフォローを――」

「逃げるなよフェリックス」

サクヤがハリーとジョージの背中を押し、更衣室に向かわせようとしたところで、マルフォイは唯一顔色を変えないサクヤに的を絞った。

「ああ、でも、あのときから逃げ癖がついたんだったね――『移動キー』はいるかい?」

そのひと言で、マルフォイがいつのことを言っているのか、ハリーにも分かった。

やめろ

そう叫んだのは、サクヤなのかハリーなのか、双子だったかもしれない。
もがくハリーとジョージを両手でそれぞれ、半ば抱きしめるように押さえながら、しかしサクヤはマルフォイの方を向くことはなく、息を詰まらせるだけだった。

「……いい機会だから、ついでに聞かせてくれよ」

マルフォイはことさら意地の曲がりきった声で、さらに後退りして3人から距離をとるようにしながら、とどめのひと言を放った。

「ディゴリーを殺したのはお前なんだろ?死喰い人」

ハリーはサクヤの腕をどうやって逃れたのか分からなかった。
ただ、その直後に、ジョージと2人でマルフォイめがけて疾走したことだけは覚えている。
教師全員が見ていることもすっかり忘れていた。
ただマルフォイをできるだけ痛い目に遭わせてやりたい、それ以外何も考えられなかった
杖を引き出すのももどかしく、ハリーはスニッチを握ったままの拳をぐっと後ろに引き、思いっきりマルフォイの腹に打ち込んだ――。

「ハリー!ハリー!ジョージ!やめて!

女生徒の悲鳴が聞こえた。
マルフォイの叫び、ジョージが罵る声、ホイッスルが鳴り、ハリーの周囲の観衆が大声をあげている。かまうものか。
近くの誰かが、「インペディメンタ!」と叫ぶまで、そして呪文の力で仰向けに倒されるまで、ハリーは殴るのをやめなかった。
マルフォイの身体のどこそこかまわず、当たるところを全部殴った。

「何の真似です!」

ハリーが飛び起きると、マダム・フーチが叫んだ。「妨害の呪い」でハリーを吹き飛ばしたのは、フーチ先生らしい。
片手にホイッスル、もう片方の手に杖を持っていた。箒は少し離れたところに乗り捨ててある。
マルフォイが身体を丸めて地上に転がり、唸ったり、ヒンヒン泣いたりしていた。鼻血が出ている。
ジョージは唇が腫れ上がっていた。フレッドは3人のチェイサーにがっちり抑えられたままだった。
サクヤは先ほどの場所から微動だにせず、独りぽつんと、こちらに背中を向けたまま立っていた――どんな表情をしているか、ハリーには分からなかった。
クラッブが背後でケタケタ笑っている。

「こんな不始末は初めてです――城に戻りなさい。2人ともです。
まっすぐ寮監の部屋に行きなさい!さあ!いますぐ!



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