The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「おはよう」
3人の後ろで、夢見るようなぼーっとした声がした。ハリーが目を上げた。
ルーナ・ラブグッドが、レイブンクローのテーブルからふらりと移動してきていた。
大勢の生徒がルーナをじろじろ見ているし、何人かは指差してあけすけに笑っていた。
どこでどう手に入れたのか、ルーナは実物大の獅子の頭の形をした帽子を、ぐらぐらさせながら頭の上に載っけていた。
「あたし、グリフィンドールを応援してる」
ルーナは、わざわざ獅子頭を指しながら言った。
「これ、よく見てて……」
ルーナが帽子に手を伸ばし、杖で軽く叩くと、獅子頭がカッと口を開け、本物顔負けに吠えた。
周りのみんなが飛び上がった。
「いいでしょう?」
ルーナがうれしそうに言った。
「スリザリンを表す蛇を、ほら、こいつに噛み砕かせたかったんだぁ。でも、時間がなかったの。
まあいいか……がんばれぇ、ロナルド!」
ルーナはふらりと行ってしまった。
みんながまだルーナ・ショックに当てられているうちに、アンジェリーナが急いでやって来た。
ケイティとアリシアが一緒だったが、アリシアの眉毛は、ありがたいことに、マダム・ポンフリーの手で普通に戻っていた。
「スターティングメンバーは作戦通りだ」
アンジェリーナが気を引き締めた表情で言うと、ハリーはこっくり頷いた。
ハリーとサクヤ、2人をシーカーとして抱えているグリフィンドール・チームは、対戦相手や当日の天候、作戦によって彼らを使い分けていた。
そして、どちらがまず出場するかは、他のチームには完全に秘密にしていて、少しでも対策をとられにくいようにしていた。
今日のスリザリン戦は、ハリーがスターティングメンバーに志願した。
ハリーは打倒スリザリンの闘志が強く、マルフォイにも競り負けたことがないのを論拠として、サクヤも同意した。
「準備ができたら」
アンジェリーナが言った。
「みんな競技場に直行だよ。コンディションを確認して、着替えをするんだ」
「すぐ行くよ」
ハリーが約束した。
「ロンがもう少し食べないと」
しかし、10分経っても、ロンはこれ以上何も食べられないことがはっきりした。
ハリーはサクヤと目で相談して、ロンを更衣室に連れていくのが一番いいと結論づけた。
サクヤと同時にテーブルから立ち上がると、ハーマイオニーも立ち上がり、ハリーの腕を引っ張って脇に連れてきた。
「スリザリンのバッジに書いてあることをロンに見せないでね」
ハーマイオニーが切羽詰まった様子で囁いた。
ハリーは目でどうして?と聞いたが、ハーマイオニーが用心してと言いたげに首を振った。
ちょうどサクヤに促されたロンが、よろよろと2人のほうにやって来るところだった。
絶望し、身の置きどころもない様子だ。
「がんばってね、ロン」
ハーマイオニーは爪先立ちになって、ロンの頬にキスした。
「あなたもね、ハリー。
もちろんサクヤも」
ハリーの頬にもキスが贈られ、サクヤにはさらにハグ付きだった。
出口に向かって大広間を戻りながら、ロンはわずかに意識を取り戻した様子だった。
ハーマイオニーがさっきキスしたところを触り、不思議そうな顔をした。たったいま何が起こったのか、よくわからない様子だ。
心ここにあらずのロンは――サクヤがロンをうまいことエスコートして、スリザリン生に近づけないこともあり――周りで何が起こっているかに気がつかないが、ハリーはスリザリンのテーブルを通り過ぎるとき、王冠形のバッジが気になって、ちらりと見た。
今度は刻んである文字が読めた。
これがよい意味であるはずがないと、いやな予感がして、ハリーもロンを急かすのに参加し、玄関ホールを出口へと向かった。
石段を下りると、氷のような外気だった。
競技場へと急ぐ下り坂は、足下の凍りついた芝生が踏みしだかれ、パリパリと音を立てた。
風はなく、空一面が真珠のような白さだった。
これなら、太陽光が直接目に当たらず、視界はいいはずだ。
道々、こういう励みになりそうなことをサクヤと一緒にロンに話してみたが、彼が聞いているかどうか定かではなかった。
3人が更衣室に入ると、アンジェリーナはもう着替えをすませ、他の選手に話をしていた。
ハリー、サクヤ、ロンはユニフォームを着た(ロンは前後を逆に着ようとして数分間じたばたしていたので、哀れに思ったのか、アリシアがロンを手伝いにいった)。
それから座って、アンジェリーナの激励演説を聴いた。
その間、城から溢れ出した人の群れが競技場へと押し寄せ、外のガヤガヤ声が、確実に大きくなってきた。
「オーケー、たったいま、スリザリンの最終的なラインナップがわかった」
アンジェリーナが羊皮紙を見ながら言った。
「去年ビーターだったデリックとボールはいなくなった。
しかし、モンタギューのやつ、その後釜に飛び方がうまい選手じゃなく、いつものゴリラ族を持ってきた。
クラッブとゴイルとかいうやつらだ。私はこの2人をよく知らないけど――」
「僕たち、知ってるよ」
ハリーとロンが同時に言った。
「ドラコといつも一緒にいる2人だ」
サクヤが言った。
「まあね、この2人、箒の前後もわからないほどの頭じゃないかな」
アンジェリーナが羊皮紙をポケットにしまいながら言った。
「もっとも、デリックとボールだって、道路標識なしでどうやって競技場に辿り着けるのか、いつも不思議に思ってたんだけどね」
「クラッブとゴイルもそのタイプだ」
ハリーが請け合った。
何百という足音が観客席を登っていく音が聞こえた。
歌詞までは聞き取れなかったが、ハリーには何人かが歌っている声も聞こえた。
ハリーはドキドキしはじめたが、ロンの舞い上がり方に比べればなんでもないことが明らかだ。
サクヤが両肩を何度もバシバシと叩き、「大丈夫だ、落ち着いて、周りの観客はみんなジャガイモだ、気にするな」と繰り返すあいだ、ロンは胃袋のあたりを押さえ、こくこくと頷きながらも、目はサクヤを通り越してまっすぐ前の宙を見つめていた。歯を食いしばり、顔は鉛色だ。
「時間だ」
アンジェリーナが腕時計を見て、感情を抑えた声で言った。
「さあ、みんな……がんばろう」
選手が一斉に立ち上がり、箒を肩に、一列行進で、更衣室から輝かしい空の下に出ていった。
ワーッという歓声が選手を迎えた。
応援と口笛に呑まれてはいたが、その中にまだ歌声が混じっているのをハリーは聞いた。
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