The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




シーズン最初のクィディッチ試合、グリフィンドール対スリザリン戦が近づいてくると、DA集会は棚上げになった。
アンジェリーナがほとんど毎日練習すると主張したからだ。
クィディッチ杯を賭けた試合がここしばらくなかったという事実が、来るべき試合への周囲の関心と興奮をこれ以上なく高めていた。
レイブンクローもハッフルパフもこの試合の勝敗に積極的な関心を抱いていた。
シーズン中にいずれ両方のチームと対戦することになるのだから当然だ。
今回対戦するチームの寮監たちも、上品なスポーツマンシップの名の下にごまかそうとしてはいたが、是が非でも自分の寮を勝たせて見せると決意していた。
試合の1週間前に、マクゴナガル先生が宿題を出すのをやめてしまったことで、どんなに打倒スリザリンに燃えているか、ハリーにはよくわかった。

「あなた方には、いま、やるべきことがほかにたくさんあることと思います」

マクゴナガル先生が毅然としてそう言ったときには、みんなが耳を疑ったが、先生がハリー、サクヤ、ロンをまっすぐ見つめて深刻な調子でこう言ったので、初めて納得できた。

「私はクィディッチ優勝杯が自分の部屋にあることにすっかり慣れてしまいました。
スネイプ先生にこれをお渡ししたくはありません。
ですから、時間に余裕ができたぶんは、練習にお使いなさい。3人とも、いいですね?」

スネイプも負けずに露骨な依枯贔屓だった。
スリザリンの練習のためにクィディッチ競技場を頻繁に予約し、グリフィンドールは練習もままならない状態だった。
その上、スリザリン生がグリフィンドールの選手に廊下で呪いをかけようとしたという報告がたくさん上がったのに、知らんふりだった。
アリシア・スピネットは、どんどん眉が伸び茂って視界を遮り、口まで塞ぐありさまで医務室に行ったが、スネイプは、自分で「毛生え呪文」をかけたのに違いないと言い張った。
14人もの証人が、アリシアが図書館で勉強しているとき、スリザリンのキーパーのマイルズ・ブレッチリーが後ろから呪いをかけたと証言しても、聞く耳持たずだった。

ハリーはグリフィンドールの勝利を楽観視していた。
結局マルフォイのチームには、一度も敗れたことはなかった。
ロンの技量はまだウッドの域に達していないことは認めるが、上達しようと猛練習していた。
一番の弱点は、へまをやると自信喪失する傾向があることで、一度でもゴールを抜かれると、慌てふためいてミスを重ねがちになる。
その反面、絶好調のときは、ものの見事にゴールを守るのをハリーは目撃している。
その記念すべき練習で、ロンは箒から片手でぶら下がり、クアッフルを味方のゴールポストから蹴り返し、ピッチの反対側まで飛んで、相手の中央ゴールポストをすっぽり抜くという強打を見せた。
チーム全員が、これこそ、アイルランド選抜チームのキーパー、バーリー・ライアンが、ポーランドの花形チェイサー、ラディスロフ・ザモフスキーに対して見せた技にも匹敵する好守備だと感心した。
フレッドでさえ、ロンがフレッドとジョージの鼻を高くしてくれるかもしれない、そして、これまでの4年間、ロンを親戚と認めるのを拒否してきたのだが(とロンに念を押した)、いよいよ本気で認めようかと考えている、と言った。

ハリーが1つだけ本当に心配だったのは、競技場に入る前からロンを動揺させようというスリザリン・チームの作戦に、ロンがどれだけ耐えられるかということだった。
ハリーはもちろん、この4年間、スリザリンのいやがらせに耐えなければならなかった。
だからこそ、「おい、ポッティ、ワリントンがこの土曜日には、必ずお前を箒から叩き落とすって言ってるぞ」と囁かれても、血が凍るどころか笑い飛ばした。

「ワリントンは、どうにもならない的外れさ。
僕の隣の誰かに的を絞ってるなら、もっと心配だけどね」

ハリーがそう言い返すと、ロンとハーマイオニーは笑い、パンジー・パーキンソンの顔からはニヤニヤ笑いが消えた。
そしてサクヤにも似たようないやがらせ文句を言うのだが、4年間同じように耐えてきた彼女ももちろん、ハリー以上に易々といなしていた。

しかし、ロンは容赦なく浴びせられる侮辱、からかい、脅しに耐えた経験がなかった。
スリザリン生が――中には7年生もいて、ロンよりずっと身体も大きい生徒もいたが――廊下ですれ違いざま、「ウィーズリー、医務室のベッドは予約したか?」と呟いたりすると、ロンは笑うどころか顔が微妙に青くなった。
ドラコ・マルフォイが、ロンがクアッフルを取り落とす真似をすると(互いに姿が見えるとそのたびに、マルフォイはその真似をした)、ロンは、耳が真っ赤に燃え、両手がぶるぶる震え、そのとき持っているものが何であれ、それを落としそうになった。


10月は風の唸りと土砂降りの雨の中に消え、11月がやって来た。
凍てついた鋼のような寒さ、毎朝びっしりと降りる霜、剥き出しの手と顔に食い込むような氷の風を連れてきた。
空も大広間の天井も、真珠のような淡い灰色になり、ホグワーツを囲む山々は雪をいただいた。
城の中の温度が急激に下がり、生徒の多くは教室を移動する途中の廊下で、防寒用の分厚いドラゴン革の手袋をしていた。

試合の日は、寒い眩しい夜明けだった。
ハリーは目を覚ますとロンのベッドを見た。
ロンは上半身を直立させ、両腕で膝を抱え、くうを見つめていた。

「大丈夫か?」

ハリーが聞いた。
ロンは頷いたが、何も答えなかった。
ロンが誤って自分に「ナメクジげっぷの呪い」をかけてしまったときのことを、ハリーは思い出さざるをえなかった。
ちょうどあのときと同じように、ロンは青ざめて冷汗をかいている。口を開きたがらないところまでそっくりだ。

「朝食を少し食べれば大丈夫さ」

ハリーが元気づけた。

「さあ」

2人が到着したとき、大広間にはどんどん人が入ってきていた。いつもより大きな声で話し、活気に溢れている。
スリザリンのテーブルを通り過ぎるとき、ワーッとどよめきがあがった。
ハリーが振り返って見ると、いつもの緑と銀色のスカーフや帽子の他に、みんなが銀色のバッジをつけていた。王冠のような形のバッジだ。
どういうわけか、みんながどっと笑いながらロンに手を振っている。
通り過ぎながら、ハリーはバッジに何が書いてあるか読もうとしたが、ロンがテーブルを早く通り過ぎるように気を使うほうが忙しく、立ち止まって読んではいられなかった。

グリフィンドールのテーブルでは、熱狂的な大歓迎を受けた。みんなが赤と金色で装っていた。
しかし、ロンの意気は上がるどころか、大歓声がロンの士気を最後の1滴まで搾り取ってしまったかのようだった。
ロンは、人生最後の食事をするかのように、一番近くのベンチに崩れ込んだ。

「僕、よっぽどどうかしてた。こんなことするなんて」

ロンは嗄れ声で呟いた。

どうかしてる

「バカ言うな」

ハリーは、コーンフレークを何種類か取り合わせてロンに渡しながら、きっぱりと言った。

「君は大丈夫。神経質になるのはあたりまえのことだ」

「僕、最低だ」

ロンが嗄れ声で言った。

「僕、下手くそだ。絶対できっこない。
僕、いったい何を考えてたんだろう?」

「しっかりしろ」

ハリーが厳しく言った。

「この間、足でゴールを守ったときのことを考えてみろよ。フレッドとジョージでさえ、すごいって言ってたぞ」

ロンは苦痛に歪んだ顔でハリーを見た。

「偶然だったんだ」

ロンが惨めそうに呟いた。

「意図的にやったんじゃない――誰も見ていないときに、僕、箒から滑って、なんとか元の位置に戻ろうとしたときに、クアッフルをたまたま蹴ったんだ」

「そりゃ」

ハリーは一瞬がっくりきたが、すぐ立ち直った。

「もう2,3回そういう偶然があれば、試合はいただきだ。そうだろ?」

ハーマイオニーとサクヤ、ジニーが2人の向かい側に腰掛けた。
サクヤは普段着を、ハーマイオニーとジニーは赤と金色のスカーフ、手袋、バラの花飾りを身につけている。

「調子はどうだ?」

サクヤがロンに声をかけた。
ロンは、空になったコーンフレークの底に少しだけ残った牛乳を見つめ、本気でその中に飛び込んで溺死したいような顔をしていた。

「ちょっと神経質になってるだけさ」

ハリーが言った。

「あら、それはいい兆候だわ。
試験だって、ちょっとは神経質にならないとうまくいかないものよ」

ハーマイオニーが屈託なく言った。



_

( 117/190 )
[prev] [next]
[back]
[しおりを挟む]



- ナノ -