The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




必要の部屋からグリフィンドール談話室への道のりの安全を確認したのち、上の空ぎみなハリーをロンがしっかり引っ張って2人は部屋を出ていった。
そんなハリーの背中を指さして首をひねるサクヤに、ハーマイオニーは「またチョウといいことでもあったんでしょう」とばっちり言い当てて、部屋の隅の、クッションが集められたあたりを見回していた。

「えっと、杖の振り方だっけ?」

ハーマイオニーのあとについて、ローブのポケットから杖を取り出しながらサクヤが言った。

「ええ……まあ、それも気になるんだけど――」

歯切れの悪そうなハーマイオニーの声に、サクヤは杖を取り出す手を止めた。

「もしかして、図らずも当たっちゃってた?2人きりになりたいって?」

目を見つめてくるハーマイオニーに、サクヤはどきりとした。
2人だけのときにのみハーマイオニーが発する、特有の雰囲気というものがある――それも感じられた。

「どうしても気になって――」

ハーマイオニーがサクヤの顔に手を伸ばした。

「……前髪が」

サクヤは目をぱちくりした。
てっきり、頬に手を添えられキスされるか、引き寄せられハグが先か――そういったことを期待していた。
しかしハーマイオニーの手は、サクヤの伸びた前髪をひと束つまむだけだった。

「『忍びの地図』を見るときも、『武装解除』の練習中も、なんだかうっとうしそうにしてたじゃない?」

ハーマイオニーがまたあたりをキョロキョロと見渡しはじめた。

「前髪だけでも整えたらどうかしら、って部屋を探してみてるの――ほら、ホイッスルだって都合よくあったんだし、鋏が必要になったなら、それも出てきそうじゃない?――ほら、ね!」

ばつの悪くなっているサクヤとは裏腹に、ハーマイオニーは嬉々として、本が並ぶ棚に場違いに置かれていた散髪用の鋏を見つけ出した。

「じゃあ、ハルが切って!」

「えっ」

思いついたサクヤは、仕返しとばかりに、差し出された鋏を持ち直して、ハーマイオニーに柄を向けた。

「じゃないと切ーらない」

まるでそっぽを向く子供のような言い方に、ハーマイオニーは困惑顔のまま、ふふっと笑った。
のろのろと鋏を受け取ってはみるものの、人の前髪を切ったことのないハーマイオニーは、やはり困惑していた。

「ごめんなさい、初めてで、うまくできないかも――」

「平気平気!
はいどうぞ、よろしくお願いします!」

サクヤはクッションに座り込み、身を乗り出して顔を差し出した。
ハーマイオニーもサクヤの前に座り、左手で前髪をひと束つまみ、右手で鋏を構え――その姿勢のまま、しばらく固まった。

「好きに切っていいよ?」

ハーマイオニーの困惑を楽しんでいるサクヤが再度促すと、ハーマイオニーは「うーん」と小さく唸り声をあげた。
それから何やら考え、ひらめいた表情になったので、何か考えついたようだ。

「少しずつ切れば、そこまでの大事故にならないはずだわ――」

それはもう、精密な調合と混合が求められる高度な魔法薬でも煎じているような顔つきだった。
ここで笑わせては、それこそ大事故になりかねない――サクヤは大人しく目を閉じて待つことにした。

ちょきん、ちょきん、と遠慮がちな音だけが必要の部屋に響いている。
そんな時間が暫し続き、ハーマイオニーはだんだんと調子を掴んできた。
前髪を切る、という大役にいっぱいいっぱいだった心に余裕ができてくると、もう少しだけ視野が広がった。
切ってもらっているあいだ、瞼を閉じてこちらに顔を向けたままのサクヤが目の前でじっとしている。
当たり前のことだ。
しかし、髪にしか目がいっていなかったハーマイオニーには、その意識が急激に膨れ上がってきたように感じられた。
寝顔を見ることこそあれど、普段こんな間近で、目を閉じたサクヤをまじまじと見つめる機会なんてそうそうないことだ。
ハーマイオニーは、見られていないことをいいことに、「キス待ち顔みたいだ」なんて思いながらサクヤを見つめていた。
その間も、不審に思われないように手を動かして、前髪をほんの少しずつ切っていく。

前髪を指先で軽く払って、長さの具合を確認しようとしたとき、ハーマイオニーは「あっ」と小さく声を上げた。
サクヤが目を開けてみると、そこにはとても気まずそうな顔をしたハーマイオニーが、どうにかごまかせないかと下唇を噛み、前髪を整える姿があった。
しかし切ってしまったものは戻らない――少々、切りすぎてしまったようだった。

「ああ、ごめんなさいサクヤ……そうならないようにしていたのに……レパロで直るかしら……」

ハーマイオニーはサクヤの頬や鼻の頭に乗った短い髪を払いながら囁くように言った。

「ううん、気にしないで。髪なんてまたすぐ伸びるんだし。
切ってくれてありがとな。さすが、ハルは期待を裏切らない」

サクヤがにっこりと笑った。
自分でも髪をいつもの感じに整えてみると、やはり一部が少し短く――視界良好だった。

「よそ見でもしてた?」

嫌味に聞こえないようにだけ気をつけつつ、うな垂れる顔を覗き込むようにして尋ねると、ハーマイオニーはちらりとサクヤを見た。

「……顔を、見てたの」

ハーマイオニーが正直に呟いた。

「そういう機会ってあんまりないでしょ――目を閉じてずっとこっちを向いてるなんて」

サクヤの目元に、まだ短い髪がついていた。
ハーマイオニーはおずおずと指先を伸ばしてそれを払って――正直ついでに全て素直に言ってしまおうと思った。

「あの……キスしても、いい?」

ハーマイオニーのその言葉に、一瞬目を丸くしたサクヤだったが、すぐにふっと笑って、「いいよ」という返事の代わりに、サクヤから顔を近づけた。
いつもは自然と流れに任せてすることが多く、わざわざ言うなんて珍しいことだった。
しかし、ハーマイオニーは頬に添えたままだった手に軽く力を込めて、サクヤを止めた。

「だめ、私からするの」

そう言うなり、今度はハーマイオニーから顔を近づけて、少しの不慣れさを感じるキスをした。
彼女から、というのは滅多にないことなので、サクヤは悶々としながらも、されるがままに、柔らかな唇や、両頬に伝わってくる緊張で少し冷えた指先を感じていた。
ぎゅっと目を閉じるハーマイオニーを、サクヤが見つめる番だ。
至近距離でぼやけながらも、その頬が赤くなっているのが見え、サクヤもまた彼女の頬を優しく包み込んだ。ぽかぽかとして気持ちがいい。

ようやく唇が離れ、ハーマイオニーは目を開けた。

「今日はじめてサクヤに杖を……今までにないタイプの、真剣な目を向けられたから……」

だからキスがしたくなったのかも、とハーマイオニーは続けた。
サクヤはこのとき、心の底からDAを始めて良かったと、不謹慎にも思っていた。

彼女の武装解除呪文やとっさの対抗手段の選び方も、もちろんそうなのだが、ハーマイオニーからのキスや言葉――気持ちが、サクヤにとって今日の最大の収穫だった。




>>To be continued

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