The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「えーと」
ハリーは少し緊張していた。
「ここが練習用に僕たちが見つけた場所です。
それで、みんなは――えー――ここでいいと思ったみたいだし」
「素敵だわ!」
チョウがそう言うと、他の何人かも、そうだそうだと呟いた。
「変だなあ」
フレッドがしかめっ面で部屋を眺め回した。
「俺たち、一度ここで、フィルチから隠れたことがある。ジョージ、憶えてるか?
だけど、そのときは単なる箒置き場だったぞ」
「おい、ハリー、これは何だ?」
ディーンが部屋の奥のほうで「かくれん防止器」と「敵鏡」を指していた。
「闇の検知器だよ」
ハリーはクッションの間を歩いて道具のほうに行った。
「基本的には、闇の魔法使いとか敵が近づくと、それを示してくれるんだけど、あまり頼っちゃいけない。道具が騙されることがある……」
ハリーはひび割れた「敵鏡」をちょっと見つめた。
中に影のような姿が蠢いていた。どの姿もはっきり何かはわからない。ハリーは鏡に背を向けた。
「えーと、僕、最初に僕たちがやらなければならないのは何かを、ずっと考えていたんだけど、それで――あ――」
「会合が始まる前に、オレからちょっといいかな」
サクヤがクッションから立ち上がった。
「えっと、まず、みんなに謝りたくて。
『ホッグズ・ヘッド』に行けなくてごめん。みんなに声をかけて回っておいて、その日までに外出許可が間に合わなかった」
「まあでも、今日が"第1回目"だろ?」
フレッドが陽気に言った。
いくつもの顔がこちらを向いているなか、ジョージも頷いてくれたのがサクヤから見えた。
「練習場所もこうやってホグワーツのなかで見つけられたんだし、何の問題もないよな?」
ジョージからリーへ、それからジニーにルーナと、頷きが広がった。
緊張で縮こまっていたサクヤの胃が、ゆっくりと弛緩するのを感じた。
「ありがとう――少しでも何か、不信感みたいなものを抱かれたまま始めたくなかったから、そう言ってもらえると嬉しい……」
サクヤは少しだけ居心地が悪そうに、自分の二の腕のあたりをさすっていた。
「繰り返しになるけど、オレも、この集まりを通じて、一緒に『闇の魔術に対する防衛術』をしっかり学んでいきたいと思っています。よろしくお願いします!」
パラパラと拍手が鳴り響いた。
グリフィンドール生を中心に、ルーナやチョウも拍手をしてくれている。
チョウの友人の巻き毛の女の子や、ザカリアス・スミスなど、サクヤと関わるのは今回が初めての生徒は、探るような目でお辞儀をするサクヤを見ていた。
「はじめまして、だね。
オレはサクヤ・フェリックス。改めて、よろしくね」
サクヤの名前など、この場にいる誰もが知っているだろうに、とハリーは思った。
しかしあくまで礼儀を重んじるところがサクヤらしい。
チョウの友人や――マリエッタ・エッジコムと名乗った――、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナー、テリー・ブートなどのレイブンクロー生に、ザカリアス・スミスとスーザン・ボーンズのハッフルパフ生がそれぞれ名乗っていた。
握手に応じ、はじめから友好的な笑顔を向けた面々のなかで、マリエッタ・エッジコムとザカリアス・スミスだけは懐疑的な目を向けたままだった。
そこで、サクヤはふと気がついた。
以前より、人目に晒されたときに感じる胃の不快感が減っている。
夏休み中は、好意的な視線であったとしても、「見られている」というだけで嫌な感じがしたものだった。
それが今では、握りつぶされそうな縮こまりはないし、ムカムカとする感じも前より減っている。
「閉心術」の特訓の成果が出てきている証拠なのだろうか、とサクヤが内心で考えていると、ザカリアス・スミスが口を開いた。
「それで、外出許可が下りないほどの特訓って
具体的に何をやってるんだ?」
食ってかかるような言い方だ。
気になっているのは彼だけではないようで、うんうんと頷いて身を乗り出すメンバーも何人かいる。
サクヤはその詰問も想定していたが、答えづらいことには変わりなかった。
「それは――申し訳ないんだけど、言えないんだ。ごめん。ハリーたちも知らないことなんだ」
そこにハーマイオニーを含まないことは、当然ながら本人以外誰も気づかない。サクヤはそういう言い方をチョイスした。
嘘をつかず、正直に答えつつ、守るべき秘密はきちんと守りたかった。
「そんな答えで僕たちが納得するとでも――」
「僕は納得した」
スミスの抗議を、ロンが遮った。
ハリーが同じように続き、さらにフレッドとジョージが声を揃えた。最後にジニーが「私も」と言って、伝播は止まった。
サクヤは感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「サクヤは1人強くなろうと抜けがけしてるわけじゃないわ。
私たちと同じように、休みの日にホグズミードに出かけたり、休暇には家に帰ったり、ただ、そういうことをするために、特訓をしているだけ。肩を並べるために頑張っているだけ。
……そう聞いているわ」
ハーマイオニーのこの言葉が決定打だった。
スミスはもぞもぞと腕組をしただけで、それ以上なにも言わなかった。
「同調圧力で黙らせたいんじゃないんだ。今は納得できなくてもいい。
これから一緒に学んでいくなかで、本当にオレが信用できる人間かどうか、自分の目で見てしっかり見定めてくれ」
サクヤはそう笑って頷いた。
「誰にだって秘密はあるもンだよ」
ルーナが声をひそめて言った。
「あたしにだって、みんなには言えないナーグルの秘密、あるんだから」
その場に沈黙が流れた。
ナーグルとはいったい何なのか、知りたいような知りたくないような……しかし、誰も聞こうとはしない。
それでもルーナは気にしないようで、してやったり顔で満足していた。
「……それじゃあ、えーと――はじめようか――?」
ハリーが気を取り直してそう言ったとき、手が挙がっているのに気づいた。
「なんだい、ハーマイオニー?」
「リーダーを選出すべきだと思います」
ハーマイオニーが言った。
「ハリーがリーダーよ」
チョウがすかさず言った。
ハーマイオニーを、どうかしているんじゃないのという目で見ている。
ハリーはまたまた胃袋がとんぼ返りした。
「そうよ。でも、ちゃんと投票すべきだと思うの」
ハーマイオニーが怯まず言った。
「それで正式になるし、ハリーに権限が与えられるもの。
じゃ――ハリーが私たちのリーダーになるべきだと思う人?」
みんなが挙手した。
スミスでさえ、しぶしぶだったが手を挙げた。
「えー――うん、ありがとう」
ハリーは顔が熱くなるのを感じた。
「それじゃ――
なんだよ、ハーマイオニー?」
「それと、名前をつけるべきだと思います」
手を挙げたままで、ハーマイオニーが生き生きと答えた。
「そうすれば、チームの団結精神も揚がるし、一体感が高まると思わない?」
「反アンブリッジ連盟ってつけられない?」
アンジェリーナが期待を込めて発言した。
「じゃなきゃ、『魔法省はみんな間抜け』、MMMはどうだ?」
フレッドが言った。
「私、考えてたんだけど」
ハーマイオニーがフレッドを睨みながら言った。
「どっちかっていうと、私たちの目的が誰にもわからないような名前よ。この集会の外でも安全に名前を呼べるように」
「防衛協会(ディフェンス・アソシエーション)は?」
チョウが言った。
「英語の頭文字を取ってDA。
それなら、私たちが何を話しているか、誰にもわからないでしょう?」
「うん、DAっていうのはいいわね」
ジニーが言った。
「でも、ダンブルドア・アーミーの頭文字、DAね。
だって、魔法省が一番恐いのはダンブルドア軍団でしょ?」
あちこちから、いいぞ、いいぞと呟く声や笑い声があがった。
「DAに賛成の人?」
ハーマイオニーが取り仕切り、クッションに膝立ちになって数を数えた。
「大多数です――動議は可決!」
ハーマイオニーはみんなが署名した羊皮紙を壁にピンで止め、その一番上に大きな字で「ダンブルドア軍団」と書き加えた。
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