The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
2時限続きの「薬草学」に向かうのに、水浸しの野菜畑をピチャピチャ渡る生徒たちのローブが風に煽られてはためき、翻った。
雨音はまるで雹のように温室の屋根を打ち、スプラウト先生が何を言っているのかほとんど聞き取れない。
午後の「魔法生物飼育学」は嵐が吹きすさぶ校庭ではなく、1階の空いている教室に移されたし、アンジェリーナが昼食時に、チームの選手を探して回り、クィディッチの練習は取りやめだと伝えたので、選手たちは大いにほっとした。
「よかった」
アンジェリーナにそれを聞かされたとき、ハリーが小声で言った。
「場所を見つけたんだ。
最初の『防衛術』の会合は今夜20時、8階の『バカのバーナバス』がトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側。ケイティとアリシアに伝えてくれる?」
アンジェリーナはちょっとどきりとしたようだったが、伝えると約束した。
ハリーは食べかけのソーセージとマッシュポテトに戻って貪った。
かぼちゃジュースを飲もうと顔を上げると、ハーマイオニーが見つめているのに気づいた。
「なに?」
ハリーがモゴモゴ聞いた。
「うーん……ちょっとね。
ドビーの計画って、いつも安全だとはかぎらないし。
覚えていない?ドビーのせいで、あなた、腕の骨が全部なくなっちゃったこと」
「この部屋はドビーの突拍子もない考えじゃないんだ。
サクヤだって使ってたみたいだし」
ハリーがそう言うと、サクヤは本日もう何度目か分からないため息を吐いた。
「ほんと……なんで思い出さなかったんだ……なんで……」
朝食のときに「必要の部屋」についてサクヤと話して以来、この話題が出るたびに背を丸めてブツブツと繰り返していた。
今年度だけで山積みになっている問題の解決に手一杯で、2年生のときに「必要の部屋」を使ったことをすっかり忘れてしまっていたようだった。
「それに、ダンブルドアもこの部屋のことは知ってる。クリスマス・パーティーのとき、話してくれたんだ」
ハリーが続けると、ハーマイオニーの顔がぱっと晴れた。
「ダンブルドアが、そのことをあなたに話したのね?」
「ちょっとついでにだったけど」
ハリーは肩をすくめた。
「ああ、そうなの。なら大丈夫」
ハーマイオニーはきびきびそう言うと、あとは何も反対しなかった。
「ホッグズ・ヘッド」でリストにサインした仲間たちを探し出し、その晩どこで会合するかを伝えるのに、ロンも含めた4人で、その日の大半を費やした。
チョウ・チャンとその友達の女子学生を探し出すのは、ジニーのほうが早かったので、ハリーはちょっとがっかりした。
とにかく、夕食が終わるころまでには、この知らせがホッグズ・ヘッドに集まった25人全員に伝わったと、ハリーは確信を持った。
19時半、ハリー、サクヤ、ロン、ハーマイオニーはグリフィンドールの談話室を出た。
ハリーは古ぼけた羊皮紙を握り締めていた。5年生は、21時まで外の廊下に出ていてもよいことになってはいたが、4人とも、神経質にあたりを見回しながら8階に向かった。
「ストップ」
最後の階段の上で羊皮紙を広げながら、ハリーは警告を発し、杖で羊皮紙を軽く叩いて呪文を唱えた。
「我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり」
羊皮紙にホグワーツの地図が現れた。
小さな黒い点が動き回り、それぞれに名前がついていて、誰がどこにいるかが示されている。
「フィルチは3階だ」
ハリーが地図を目に近づけながら言った。
「それと、ミセス・ノリスは5階だ」
「アンブリッジは?」
サクヤが前髪をかき上げながら地図上を注意深く探った。
「自分の部屋だ」
ハリーが指で示した。
「オッケー、行こう」
「こっちだ」
4人は、サクヤを先頭に、ドビーがハリーに教えてくれた場所へと廊下を急いだ。
大きな壁掛けタペストリーに「バカのバーナバス」が、愚かにもトロールにバレエを教えようとしている絵が描いてある。
その向かい側の、何の変哲もない石壁がその場所だ。
「オーケー」
ハリーが小声で言った。
虫食いだらけのトロールの絵が、バレエの先生になるはずだったバーナバスを、容赦なく棍棒で打ち据えていたが、その手を休めてハリーたちを見た。
「ドビーは、気持ちを必要なことに集中させながら、壁のここの部分を3回往ったり来たりしろって言った」
4人で実行に取りかかった。
石壁の前を通り過ぎ、窓のところできっちり折り返して逆方向に歩き、反対側にある等身大の花瓶のところでまた折り返した。
ロンは集中するのに眉間に皺を寄せ、ハーマイオニーは低い声で何かブツブツ言い、サクヤは2年生のときのことを思い出しながら、そしてハリーはまっすぐ前を見つめて両手の拳を握り締めた。
戦いを学ぶ場所が必要です……ハリーは思いを込めた……
……どこか練習するところをください……どこか連中に見つからないところを……。「ハリー!」
3回目に石壁を通り過ぎて振り返ったとき、ハーマイオニーが鋭い声をあげた。
石壁にピカピカに磨き上げられた扉が現れていた。ロンは少し警戒するような目で扉を見つめていた。
「そうそう、こんな感じの扉だった!」
サクヤが嬉しそうに言うと、3人とも緊張した顔に少しの安心の色が浮かんだ。
ハリーは真鍮の取っ手に手を伸ばし、扉を引いて開け、先に中に入った。
広々とした部屋は、8階下の地下牢教室のように、揺らめく松明に照らされていた。
壁際には木の本棚が並び、椅子の代わりに大きな絹のクッションが床に置かれている。
一番奥の棚には、いろいろな道具が収められていた。
「かくれん防止器」、「秘密発見器」、それに、先学期、偽ムーディの部屋に掛かっていたものに違いないと思われるひびの入った大きな「敵鏡」。
「本当に『必要の部屋』だ……前に1人で使ってたときとは全然違うや」
サクヤがくるくる見渡しながら部屋を歩き回った。
「これ、『失神術』を練習するときにいいよ」
ロンが足先でクッションを1枚つつきながら、夢中になって言った。
「それに、見て!この本!」
ハーマイオニーは興奮して、大きな革張りの学術書の背表紙に次々と指を走らせた。
「『通常の呪いとその逆呪い概論』……『闇の魔術の裏をかく』……『自己防衛呪文学』……わぁ……」
ハーマイオニーは顔を輝かせてハリーを見た。
何百冊という本があるおかげで、ついにハーマイオニーが自分は正しいことをしていると確信したと、ハリーにはわかった。
「ハリー、すばらしいわ。ここにはほしいものが全部ある!」
それ以上よけいなことはいっさい言わず、ハーマイオニーは棚から「呪われた人のための呪い」を引き抜き、手近なクッションに腰を下ろし、読みはじめた。
扉を軽く叩く音がした。
ハリーが振り返ると、ジニー、ネビル、ラベンダー、パーバティ、ディーンが到着したところだった。
「うわぁ……」
ディーンが感服して見回した。
「ここはいったい何だい?」
ハリーが説明しはじめたが、途中でまた人が入ってきて、また最初からやり直しだった。
20時までには、全部のクッションが埋まっていた。ハリーは扉に近づき、鍵穴から突き出している鍵を回した。
カシャッと小気味よい大きな音とともに鍵が掛かり、みんながハリーを見て静かになった。
ハーマイオニーは読みかけの「呪われた人のための呪い」のページに栞を挟み、本を脇に置いた。
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