The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「ミンビュラス ミンブルトニア」

ロンの声がしてハリーは我に返り、肖像画の穴を通って談話室に入った。
ハーマイオニーは早めに寝室に行ってしまったらしい。
残っていたのは、近くの椅子に丸まっているクルックシャンクスと、暖炉のそばのテーブルに置かれた、さまざまな形の凸凹したしもべ妖精用毛糸帽子だけだった。
ハリーはハーマイオニーがいないのがかえってありがたかった。

サクヤがハリーとロンに手を振って、女子寮に戻っていった。
ハーマイオニーと合流したら、間違いなく今回のことを話すだろうが、傷の痛みを議論するのも、ダンブルドアのところへ行けとハーマイオニーに促される役割も、サクヤに任せてしまおう。
ロンはまだ心配そうな目でちらちらハリーを見ていたが、ハリーは呪文集を引っ張り出し、レポートを仕上げる作業に取りかかった。
もっとも、集中しているふりをしていただけで、ロンがもう寝室に行くと言ったときにも、ハリーはまだほとんど何も書いてはいなかった。


サクヤが駆け足で女子寮に戻ったとき、ハーマイオニーはベッドの端に腰かけ、基本呪文集を読み漁っていた。

「おかえり――しっかりずぶ濡れね、シャワー浴びるでしょう?」

呪文集から顔を上げたハーマイオニーが言った。
サクヤが頷きながらびしょ濡れのローブをハンガーにかけて乾かすと、もうすでにシャワーの支度ができていることに気がついた。タオルに、着替えの服まで用意してある。

「……できる恋人を持つとやっぱ違うな」

サクヤが感心したように言いながら、お礼のハグをしようとするも、ハーマイオニーは両腕を突っ張ってそれを阻止した。

「シャワーが、先!」

全身の泥んこを洗い流し、熱めのシャワーでしっかり体温を取り戻すと、サクヤは早々にシャワー室から出てきた。
まだ多少濡れていても、ハーマイオニーは今度は大人しくサクヤの腕の中に収まってくれた。

「さっきさ、また腕と目が痛んで」

隣に座りなおしたサクヤがそう言ったとき、ハーマイオニーはすぐに読んでいた本を閉じた。

「ヴォルデモートがすごく怒ってる、っていうのがなぜかはっきりと分かった。ハリーもだ。
それで、ダンブルドアに言うべきかって思ったんだけど、そこで気づいたことがあって」

「なにを?」

ハーマイオニーが促した。

「ダンブルドアは、たぶん間違いなくハリーとオレを避けてる。
どうしてだろうってずっと考えてた――それで、この奇妙な感覚をあいつに逆手に取られるかもしれない、……ダンブルドアがそう考えてるんじゃないかって気がついた」

「つまり、あなたたちがヴォ、ヴォルデモートの気持ちが分かるように、彼もあなたたちの気持ちを読み取るんじゃないか、ってこと?」

サクヤが頷いた。

「気持ちが分かるくらいならいいんだけど、ダンブルドアや騎士団についての情報をオレたちが知って、やつとの精神的な繋がりを通してあちら側に筒抜けになってしまった、なんて、万が一にもあっちゃいけない。
だからダンブルドアはわざとオレたちを遠ざけてるんじゃないかな。
そうだとしたら、絶対に何も知らないほうがいいし、ダンブルドアが遠ざけるのならその意図のままにしたほうがいいと思うんだ――少なくとも、閉心術を完全に習得して、繋がりをコントロールできるようになるまでは」

サクヤがそう言い終えても、ハーマイオニーは黙ったままだった。
その考えが正しいのかどうか、見落としている抜けはないか、精査しているようだ。

「そう――そうね――そうかもしれない……だって、今まではそんなことしなかったものね……」

「そうだと確信は持てないけど、あながち的外れな考えでもないと思ってる」

そう切り上げたあと、落とした目線でサクヤはようやく気がついた。
ハーマイオニーが読んでいるのは"7年生用"の基本呪文集だ。

「その本、どうしたの?」

「アンジェリーナに借りたの。ちょっと知りたいことがあって……」

ハーマイオニーが先ほどまで読んでいたページについて、夜遅くまでサクヤと話し込んでいるころ、ハリーはまだ談話室にいた。
トモシリソウ、ラビッジ、オオバナノコギリソウの使用法についての同じ文章を、ひと言も頭に入らないまま、何度も読み返している。
ダンブルドアの"武器"について、ヴォルデモートの望みについて、うまくいっていること、いかないこと……あれこれと考えが巡りすぎて、頭がぼーっとしてきていた。

――これらの薬草は、脳を火照らせるのに非常に効き目があり、そのため、性急さ、向こう見ずな状態を魔法使いが作り出したいと望むとき、『混乱・錯乱薬』用に多く使われる――。

……ハーマイオニーが、シリウスはグリモールド・プレイスに閉じ込められて向こう見ずになっていると言ったっけ……。

――脳を火照らせるのに非常に効き目があり、そのため、――。

……「日刊予言者新聞」は、僕にヴォルデモートの気分がわかると知ったら、僕の脳が火照っていると思うだろうな……。

――そのため、性急さ、向こう見ずな状態を魔法使いが作り出したいと望むとき、『混乱・錯乱薬』用に多く使われる――。

……混乱、まさにそうだ。
どうして僕やサクヤはヴォルデモートの気分がわかったのだろう?僕たちとやつとの、この薄気味の悪い絆は何なのだ?
ダンブルドアでも、これまで十分に満足のいく説明ができなかったこの絆は?

――魔法使いが作り出したいと望むとき、――。

……ああ、とても眠い……。

――性急さ……を作り出したいと――。

……肘掛椅子は暖炉のそばで、暖かく心地よい。
雨がまだ激しく窓ガラスに打ちつけている。
クルックシャンクスがゴロゴロと喉を鳴らし、暖炉の炎が爆ぜる……。
手が緩み、本が滑り、鈍いゴトッという音とともに暖炉マットに落ちた。
ハリーの頭がぐらりと傾いだ。

またしてもハリーは、窓のない廊下を歩いている。足音が静寂の中に反響している。
通路の突き当たりの扉がだんだん近くなり、心臓が興奮で高鳴る……あそこを開けることさえできれば……その向こう側に入れれば……。
手を伸ばした……もう数cmで指が触れる……。

「ハリー・ポッターさま!」

ハリーは驚いて目を覚ました。
談話室の蝋燭はもう全部消えていた。
しかし、何かがすぐそばにいる。

「だ……れ?」

ハリーは椅子にまっすぐ座り直した。談話室の暖炉の火はほとんど消え、部屋はとても暗かった。

「ドビーめが、あなたさまのふくろうを持っています!」

キーキー声が言った。

「ドビー?」

ハリーは、暗がりの中で声の聞こえた方向を見透かしながら、寝呆け声を出した。
ハーマイオニーが残していったニットの帽子が半ダースほど置いてあるテーブルの脇に、屋敷しもべ妖精のドビーが立っていた。
大きな尖った耳が、山のような帽子の下から突き出している。
ハーマイオニーがこれまで編んだ帽子を全部被っているのではないかと思うほどで、縦に積み重ねて被っているので、頭が1m近く伸びたように見えた。
一番てっぺんの毛糸玉の上に、たしかに傷の癒えたヘドウィグが止まり、ホーホーと落ち着いた鳴き声をあげていた。

「ドビーめはハリー・ポッターのふくろうを返す役目を、進んでお引き受けいたしました」

しもべ妖精は、うっとりと憧れの人を見る目つきで、キーキー言った。

「グラブリー-プランク先生が、ふくろうはもう大丈夫だとおっしゃいましたでございます」

ドビーが深々とお辞儀をしたので、鉛筆のような鼻先がボロボロの暖炉マットを擦り、ヘドウィグは怒ったようにホーと鳴いてハリーの椅子の肘掛けに飛び移った。

「ありがとう、ドビー!」

ヘドウィグの頭を撫でながら、夢の中の扉の残像を振り払おうと、ハリーは目を強く瞬いた……あまりに生々しい夢だった。
ドビーをもう一度見ると、スカーフを数枚巻きつけているし、数え切れないほどのソックスを履いているのに気づいた。
おかげで、身体と不釣合いに足がでかく見えた。

「あの……君は、ハーマイオニーの置いていった服を全部取っていたの?」

「いいえ、とんでもございません」

ドビーはうれしそうに言った。

「ドビーめはウィンキーにも少し取ってあげました。はい」

「そう。ウィンキーはどうしてるの?」

ハリーが聞いた。
ドビーの耳が少しうなだれた。

「ウィンキーはいまでもたくさん飲んでいます。はい」

ドビーは、テニスボールほどもある巨大な緑の丸い目を伏せて、悲しそうに言った。

「いまでも服が好きではありません、ハリー・ポッター。ほかの屋敷しもべ妖精も同じでございます。
もう誰もグリフィンドール塔をお掃除しようとしないのでございます。帽子や靴下があちこちに隠してあるからでございます。
侮辱されたと思っているのです。はい。
ドビーめが全部1人でやっておりますです。でも、ドビーめは気にしません。はい。
なぜなら、ドビーめはいつでもハリー・ポッターにお会いしたいと願っています。そして、今夜、はい、願いがかないました!」

ドビーはまた深々とお辞儀した。

「でも、ハリー・ポッターは幸せそうではありません」

ドビーは身体を起こし、おずおずとハリーを見た。

「ドビーめは、あなたさまが寝言を言うのを聞きました。
ハリー・ポッターは悪い夢を見ていたのですか?」

「それほど悪い夢っていうわけでもないんだ」

ハリーは欠伸をして目を擦った。

「もっと悪い夢を見たこともあるし」

しもべ妖精は大きな球のような目でハリーをしげしげと見た。
それから両耳をうなだれて、真剣な声で言った。

「ドビーめは、ハリー・ポッターをお助けしたいのです。サクヤ・フェリックスも同じです。
あなたさまがたがドビーを自由にしましたから。
そして、ドビーめはいま、ずっとずっと幸せですから。
サクヤ・フェリックスさまは幸せか、あなたさまはご存じで?」

ハリーは微笑んだ。

「どうかな……。
サクヤも、状況は悪いけど、笑顔の日が多いかな。
ドビー、君には僕たちを助けることはできない。でも、気持ちはありがたいよ」

ハリーは屈んで、「魔法薬」の教科書を拾った。
このレポートは結局、明日仕上げなければならない。ハリーは本を閉じた。
そのとき、暖炉の残り火が、手の甲の薄らとした傷痕を白く浮き上がらせた――アンブリッジの罰則の跡だ。

「ちょっと待って――ドビー、君に助けてもらいたいことがあるよ

ある考えが浮かび、ハリーはゆっくりと言った。
ドビーは向き直って、にっこりした。

「なんでもおっしゃってください。ハリー・ポッターさま!」

「場所を探しているんだ。
29人が『闇の魔術に対する防衛術』を練習できる場所で、先生方に見つからないところ。とくに」

ハリーは本の上で固く拳を握った。傷が蒼白く光った。

「アンブリッジ先生には」

ドビーの顔から笑いが消えて、両耳がうなだれるだろうとハリーは思った。
無理です、とか、どこか探してみるがあまり期待は持たないように、と言うだろうと思った。
まさか、ドビーが両耳をうれしそうにパタパタさせ、ピョンと小躍りするとは、まさか両手を打ち鳴らそうとは、思わなかった。

「ドビーめは、ぴったりな場所を知っております。はい!」

ドビーは嬉々として言った。

「ドビーめはホグワーツに来たとき、ほかの屋敷しもべ妖精が話しているのを聞きました。はい。
仲間内では『あったりなかったり部屋』とか、『必要の部屋』として知られております!」

「どうして?」

ハリーは好奇心に駆られた。

「なぜなら、その部屋に入れるのは」

ドビーは真剣な顔だ。

「本当に必要なときだけなのです。ときにはありますが、ときにはない部屋でございます。
それが現れるときには、いつでも求める人のほしいものが備わっています。ドビーめは、使ったことがございます」

しもべ妖精は声を落とし、悪いことをしたような顔をした。

「ウィンキーがとっても酔ったときに。ドビーはウィンキーを『必要の部屋』に隠しました。
そうしたら、ドビーは、バタービールの酔い覚まし薬をそこで見つけました。それに、眠って酔いを覚ますあいだ寝かせるのにちょうどよい、しもべ妖精サイズのベッドがあったのでございます……。
それに、フィルチさまは、お掃除用具が足りなくなったとき、そこで見つけたのを、はい、ドビーは存じています。そして――」

「そして、ほんとにトイレが必要なときは」

ハリーは急に、去年のクリスマス・パーティーで、ダンブルドアが言ったことを思い出した。

「その部屋はおまるでいっぱいになる?」

「ドビーめは、そうだと思います。はい」

ドビーは一生懸命頷いた。

「驚くような部屋でございます」

「そこを知っている人はどのぐらいいるのかな?」

ハリーは椅子に座り直した。

「ほとんどおりません。
でも、サクヤ・フェリックスは知っているはずです。はい。ドビーめは、あの方が『部屋』を使っているのを見かけたことがありますです。はい」

「えっ、サクヤが?」

ハリーは思わず聞き返した。

「3年ほど前でしょうか、使っておりました。はい。
だいたいは、必要なときにたまたまその部屋に出くわします。はい。
でも、二度と見つからないことが多いのです。なぜなら、その部屋がいつもそこにあって、お呼びがかかるのを待っているのを知らないからでございます。
ですが、サクヤ・フェリックスは何度も使っていらっしゃいましたです」

「すごいな」

ハリーは心臓がドキドキした。

「ドビー、ぴったりだよ。部屋がどこにあるのかは、サクヤに聞けばいいかな?ドビーが教えてくれる?」

「ドビーめでしたら、いつでも。ハリー・ポッターさま」

ハリーが夢中なので、ドビーはうれしくてたまらない様子だ。

「よろしければ、いますぐにでも!」

一瞬、ハリーはドビーと一緒に行きたいと思った。
上の階から急いで「透明マント」を取ってこようと、椅子から半分腰を浮かした。
そのとき、またしても、ちょうどハーマイオニーが囁くような声が耳元で聞こえた。向こう見ず。考えてみれば、もう遅いし、ハリーは疲れきっていた。

「ドビー、今夜はだめだ」

ハリーは椅子に沈み込みながら、しぶしぶ言った。

「これはとっても大切なことなんだ……しくじりたくない。ちゃんと計画する必要がある。
ねえ、『必要の部屋』の正確な場所と、どうやって入るのかだけ教えてくれないかな?サクヤにも確認して、慎重に行くことにするよ」




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