The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
アンジェリーナはほぼ1時間みんなをがんばらせたが、ついに敗北を認めた。
ぐしょ濡れで不平たらたらのチームを率いて更衣室に戻ったアンジェリーナは、練習は時間のむだではなかったと言い張ったが、自分でも自信がなさそうな声だった。
1時間ぶりにサクヤとも合流した。同じポジションで、同じメニューを練習していたはずだったが、あの大雨と風の中ではついぞ姿を見ることすらなかった。
フレッドとジョージはことさら苦しんでいる様子だった。
2人ともガニ股で歩き、ちょっと動くたびに顔をしかめた。
タオルで頭を拭きながら、2人がこぼしているのがハリーの耳に入った。
「俺のは2,3個潰れたな」
フレッドが虚ろな声で言った。
「俺のは潰れてない」
ジョージが顔をしかめながら言った。
「ズキズキ痛みやがる……むしろ前より大きくなったな」
双子がそう話している向こうで、サクヤがパッと、弾かれたように左手を押さえるのをハリーは見た。
ハリーが何事かと声をかけようとした矢先――
「痛ッ!」
眼鏡の鼻あてが食い込むのも気にせず、ハリーはタオルをしっかり顔に押しつけ、痛みで目をぎゅっと閉じた。
額の傷痕がまた焼けるように痛んだのだ。ここ数週間、こんな激痛はなかった。
「どうした?」
何人かの声がした。
ハリーはタオルを顔から離した。
目を強くつぶりすぎて、視界がぼやけている。
それでも、みんなの顔がハリーを見ているのがわかった。
その向こうで、サクヤがロッカーにもたれかかり、手で顔を半分覆っているのがぼんやりと見えた。
「何でもない」
ハリーがボソッと言った。
「僕――自分で自分の目を突いちゃった。それだけ」
しかし、ハリーはサクヤとロンに目配せし、みんなが外に出ていくとき、3人だけあとに残った。
選手たちはマントに包まり、帽子を耳の下まで深く被って出ていった。
「どうしたの?」
最後にアリシアが出ていくとすぐ、ロンが聞いた。
「傷?」
ハリーが頷き、ロッカーに背を預けているサクヤに振り返った。
「サクヤも痛んだ?」
「ああ、最初に腕、それからハリーと同時に目だ」
サクヤが顔を険しくして答えた。
「でも……」
ロンが恐々と窓際に歩いていき、雨を見つめた。
「あの人――『あの人』がいま、そばにいるわけないだろ?」
「ああ」
ハリーは額を擦り、ベンチに座り込みながら呟いた。
「たぶん、ずーっと遠くにいる。
でも、サクヤの腕の印が痛んで、それから僕たちの傷が痛んだのは……あいつが……仲間を呼び出して、怒っているからだ」
そんなことを言うつもりはなかった。
別の人間がしゃべるのを聞いたかのようだった――しかし、ハリーは直感的に、そうに違いないと思った。
どうしてなのかはわからないが、そう思ったのだ。
ヴォルデモートがどこにいるのかも、何をしているのかも知らないが、たしかに激怒してる。
「腕の印が熱く痛むっていうのは、ヴォルデモートが『死喰い人』を呼び寄せる合図なんだ」
ロンが分かっていないようだったので、サクヤが説明を付け加えた。
ロンは、そうか、という顔をした。
「呼び寄せて――それから、怒った?あの人が見えたの?」
ロンが恐ろしそうに聞いた。
「君たち……幻覚か何かあったの?」
ハリーは足下を見つめたまま、痛みが治まり、気持ちも記憶も落ち着くのを待ってじっと座っていた。
縺れ合ういくつかの影。怒鳴りつける声の響き……。
「やつは死喰い人たちに何かをさせたがっている。
それなのに、なかなかうまくいかない――だよね?サクヤ」
ハリーが言った。
またしても言葉が口をついて出てくるのが聞こえ、ハリー自身が驚いた。
しかも、それが本当のことだという確信があった。サクヤも同意見のようで、こっくりと頷きが返ってきた。
「でも……どうしてわかるんだ?」
ロンが聞いた。
ハリーは首を横に振り、両手で目を覆って、手のひらでぐっと押した。
目の中に小さな星が飛び散った。
ロンがベンチの隣に座り、ハリーを見つめているのを感じた。
「前のときもそうだった」
サクヤがふと思い出したような声でぽつりと言った。
「アンブリッジの部屋で傷が痛んだとき――でも、あのときは、あいつは怒ってたんじゃなくて――」
ハリーもサクヤと同じように記憶を辿った。
アンブリッジの顔を見つめていた……傷が痛んだ……そして、胃袋におかしな感覚が……なんだか奇妙な、飛び跳ねるような感覚……
幸福な感覚だった……。
しかし、そうだ、あのときは気づかなかったが、あのときの自分はとても惨めな気持ちだったのだから、だから奇妙だったんだ……。
「この前は、やつが喜んでいた」
ハリーが言った。
「本当に喜んでいた。やつは思ったんだ……何かいいことが起こるって。
それに、ホグワーツに僕たちが帰る前の晩……」
ハリーは、グリモールド・プレイスのロンと一緒の寝室で、傷痕が痛んだあの瞬間を思い出していた……。
今度はサクヤが、ハリーの言葉を続けた。
「やつは怒り狂ってた……そうだよな?」
ほとんど確信しているような声のサクヤに、ハリーもまた頷きを返した。
ロンを見ると、口をあんぐり開けてハリーとサクヤを交互に見ていた。
「君たち、おい、トレローニーに取って代われるぜ」
ロンが恐れと尊敬の入り交じった声で言った。
「僕たち、予言してるんじゃないよ」
ハリーが言った。
「違うさ。何をしているかわかるかい?」
ロンが恐ろしいような感心したような声で言った。
「君たち、
『例のあの人』の心を読んでる!」
「違う」
ハリーが首を振った。
「むしろ……気分を読んでるんだと思う。どんな気分でいるのかがチラッとわかるんだ。
ダンブルドアが先学期に、そんなようなことが起こっているって言った。
ヴォルデモートが近くにいるとか、憎しみを感じていると、僕にそれがわかるって、そう言ったんだ。
でも、いまは、やつが喜んでいるときも感じるんだ……」
一瞬の沈黙があった。
雨風が激しく建物に叩きつけていた。
「誰かに言わなくちゃ」
ロンが言った。
「この前はシリウスに言った」
「今度のことも言えよ!」
「できないよ」
ハリーが暗い顔で言った。
「アンブリッジがふくろうも暖炉も見張ってる。そうだろ?」
「じゃ、ダンブルドアだ」
「いま、言ったろう。ダンブルドアはもう知ってる」
ハリーは気短に答えて立ち上がり、マントを壁の釘から外して肩に引っ掛けた。
「また言ったって意味ないよ」
ロンはマントのボタンを掛け、考え深げにハリーを見た。
「ダンブルドアは知りたいだろうと思うけど」
ロンが言った。ハリーは肩をすくめた。
サクヤは黙って何かを考えている。
「さあ……これから『黙らせ呪文』の練習をしなくちゃ」
泥んこの芝生を滑ったり躓いたりしながら、3人は話をせずに、急いで暗い校庭を戻った。
ハリーは必死で考えた。
いったいヴォルデモートがさせたがっていること、そして思うように進まないこととは何だろう?
「
……ほかにも求めているものがある……やつがまったく極秘で進めることができる計画だ……。
極秘にしか手に入らないものだ……武器のようなものというかな。前の時には持っていなかったものだ」
この言葉を何週間も忘れていた。
ホグワーツでのいろいろな出来事にすっかり気を取られ、アンブリッジとの目下の戦いや、魔法省のさまざまな不当な干渉のことを考えるのに忙殺されていた……。
しかし、いま、この言葉が蘇り、ハリーはもしやと思った……ヴォルデモートが怒っているのも、何だかわからないその
武器にまったく近づくことができないからと考えれば辻褄が合う。
騎士団はあいつの目論見を挫き、それが手に入らないように阻止してきたのだろうか?
それはどこに保管されているのだろう?いま、誰が持っているのだろう?
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