The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
窓から外を眺めて、ロンの笑顔がちょっと翳った。
外は叩きつけるような雨で、ほとんど不透明だった。
「やめばいいけど。
ハーマイオニー、どうかしたのか?」
ハーマイオニーも窓を見つめていたが、何かを見ている様子ではなかった。
焦点は合っていないし、顔をしかめている。
「ちょっと考えてるの……」
雨が流れ落ちる窓に向かってしかめっ面をしたまま、ハーマイオニーが答えた。
「シリ――スナッフルズのことを?」
ハリーが聞いた。
「ううん……ちょっと違う……」
ハーマイオニーがひと言ひと言噛み締めるように言った。
「むしろ……もしかして……私たちのやってることは正しいんだし……考えると……そうよね?」
ハリーとロンが顔を見合わせた。
サクヤもじっとハーマイオニーを見つめている。思考の区切りがつくのを待っているようだ。
「なるほど、明確なご説明だったよ」
ロンが言った。
「君の考えをこれほどきちんと説明してくれなかったら、僕たち気になってしょうがなかったろうけど」
ハーマイオニーは、たったいまロンがそこにいることに気づいたような目でロンを見た。
「私がちょっと考えていたのは」
ハーマイオニーの声が、今度はしっかりしていた。
それから、サクヤへと目線を移して言葉を続けた。
「私たちのやっている、『闇の魔術に対する防衛術』のグループを始めるということが、果たして正しいかどうかってことなの」
「えーっ?」
ハリーとロンが同時に言った。
「ハーマイオニー、君が言いだしっぺじゃないか!」
ロンが憤慨した。
「どうしてそう思ったの?」
サクヤが片眉を上げて訊ねた。
ハーマイオニーが両手を組んでもじもじさせながら言った。
「スナッフルズと話したあとで……」
「でも、スナッフルズは大賛成だったよ」
すかさずハリーが言った。
「そう」
ハーマイオニーがまた窓の外を見つめた。
「そうなの。だからかえって、この考えが結局間違っていたのかもしれないって思って……」
サクヤは腕を組んで、「うーん」と唸って上を見上げた。
ちょうどピーブズが、4人の頭上に腹這いになって浮かび、豆鉄砲を構えるところだった。
4人は反射的に鞄を頭の上に持ち上げ、ピーブズが通り過ぎるのを待った。
「はっきりさせようか」
鞄を床の上に戻しながら、ハリーが怒ったように言った。
「シリウスが賛成した。
だから君は、もうあれはやらないほうがいいと思ったのか?」
ハーマイオニーは緊張した情けなさそうな顔をしていた。
今度は両手をじっと見つめながら、ハーマイオニーが言った。
「本気でシリウスの判断力を信用してるの?」
「ああ、信用してる!」
ハリーは即座に答えた。
「いつでも僕たちにすばらしいアドバイスをしてくれた!」
インクのつぶてが4人をシュッと掠めて、ケイティ・ベルの耳を直撃した。
ハーマイオニーは、ケイティが勢いよく立ち上がって、ピーブズにいろいろなものを投げつけるのを眺め、しばらく黙っていたが、言葉を慎重に選びながら話しはじめた。
「グリモールド・プレイスに閉じ込められてから……シリウスがちょっと無謀になった……そう思わない?
ある意味で……こう考えられないかしら……私たちを通して生きているんじゃないかって?」
「どういうことなんだ?『僕たちを通して生きている』って?」
ハリーが言い返した。
「それはつまり、魔法省直属の誰かの鼻先で、シリウス自身が秘密の防衛結社を作りたいんだろうと思うの……。
いまの境遇では、ほとんど何もできなくて、シリウスは本当に嫌気がさしているんだと思うわ……それで、なんと言うか……私たちをけしかけるのに熱心になっているような気がするの」
ロンは当惑しきった顔をした。
「シリウスの言うとおりだ」
ロンが言った。
「君って、
ほんとにママみたいな言い方をする」
ハーマイオニーは唇を噛み、何も言わなかった。
サクヤは天井を見つめたまま、黙って考え続けていた。
シリウスの気持ちも、ハーマイオニーの言わんとしていることも、どちらの立場も身をもって体験しているからこそ、どっちともよく分かる……自分だってそうだったのだ。
ハーマイオニーたちが騎士団本部で掃除をして手伝っていると聞いたとき、一緒にやりたかった。
もし未だに自分だけが何もさせてもらえていなかったら、ハリー、ロン、ハーマイオニーからいろんな話を聞くことしかできなかったら、どれだけもどかしい思いをしたか計り知れない。
彼女たちを危険に晒すようなことこそしないが、もし自衛組織を作ると聞いたら、心の底から応援するだろう。今のシリウスのように。
ピーブズがケイティに襲いかかり、インクの中身をそっくり全部その頭にぶちまけたとき、始業のベルが鳴った。
天気はそのあともよくならなかった。
19時に、ハリー、サクヤ、ロンが練習のためにクィディッチ競技場に出かけたが、あっという間にずぶ濡れになり、ぐしょ濡れの芝生に足を取られ、滑った。
空は雷が来そうな鉛色で、更衣室の明かりと暖かさは、ほんの束の間のことだとわかっていても、ほっとさせられた。
ジョージとフレッドは、自分たちの作った「ずる休みスナックボックス」を何か1つ使って、飛ぶのをやめようかと話し合っていた。
「……だけど、俺たちの仕掛けを、彼女が見破ると思うぜ」
フレッドが、唇を動かさないようにして言った。
「『ゲーゲー・トローチ』を昨日彼女に売り込まなきゃよかったなあ」
「『発熱ヌガー』を試してみてもいいぜ」
ジョージが呟いた。
「あれなら、まだ、誰も見たことがないし――」
「それ、効くの?」
屋根を打つ雨音が激しくなり、建物の周りで風が唸る中で、ロンが縋るように聞いた。
「まあ、うん」
フレッドが言った。
「体温はすぐ上がるぜ」
「だけど、膿の入ったでっかいでき物もできるな」
ジョージが言った。
「しかも、それを取り除く方法は未解決だ」
「でき物なんて、見えないけど」
ロンが双子をじろじろ見た。
「ああ、まあ、見えないだろう」
フレッドが暗い顔で言った。
「普通、公衆の面前に曝すところにはない」
「しかし、箒に座ると、これがなんとも痛い。なにしろ――」
「よーし、みんな。よく聞いて」
キャプテン室から現れたアンジェリーナが大声で言った。
「たしかに理想的な天候ではないけど、スリザリンとの試合が、こんな天候だということもありうる。
だから、どう対処するか、策を練っておくのはいいことだ」
「ハリーって、たしか3年生のときに嵐の中での試合で、雨で眼鏡が曇らないように、ハルに何かやってもらってたよね?」
サクヤが振り返って訊ねた。
「ああ」
ハリーは思い出したようにそう言うと、杖を取り出して自分の眼鏡を叩き、呪文を唱えた。
「インパービアス!防水せよ!」
「全員それをやるべきだな」
アンジェリーナが言った。
「雨が顔にさえかからなきゃ、視界はぐっとよくなる――じゃ、みんな一緒に、それ――『インパービアス』!
オッケー、行こうか」
杖をユニフォームのポケットに戻し、箒を肩に、みんなアンジェリーナのあとに従いて更衣室を出た。
1歩1歩ぬかるみが深くなる中を、みんなグチョグチョと競技場の中心部まで歩いた。
「防水呪文」をかけていても、視界は最悪だった。
周りはたちまち暗くなり、滝のような雨が競技場を洗い流していた。
「よし、笛の合図で」
アンジェリーナが叫んだ。
ハリーとサクヤは泥を四方八方に撒き散らして地面を蹴り、並んで上昇した。風で少し押し流された拍子に、すぐにお互いを見失った。
こんな天気でどうやってスニッチを見つけるのか、見当もつかない。
練習に使っている大きなブラッジャーでさえ見えないのだ。
練習を始めるとすぐ、ブラッジャーに危うくから叩き落とされそうになり、ハリーは、それを避けるのに「ナマケモノ型グリップ・ロール」をやる羽目になった。
残念ながら、アンジェリーナは見ていてくれなかった。
それどころか、アンジェリーナは何も見えていないようだった。
選手は互いに何をやっているやら、さっぱりわかっていなかった。
風はますます激しさを増した。
下の湖の面に、雨が打ちつけ、ビシビシ音を立てるのが、こんな遠くにいるハリーにさえ聞こえた。
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