The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
双子のウィーズリーを囲んでいた人垣が解散するまでにしばらくかかった。
それから、フレッド、ジョージ、リーが座り込んで稼ぎを数えるのにもっと長くかかった。
そして、談話室にハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーの4人だけになったのは、とうに真夜中を過ぎてからだった。
ハーマイオニーのしかめっ面を尻目に、ガリオン金貨の箱をこれみよがしにジャラジャラさせながら、フレッドがようやっと男子寮へのドアを閉めて中に消えた。
ハリーの魔法薬のレポートはほとんど進んでいなかったが、今夜は諦めることにした。
サクヤにお礼を言って参考書を片づけていると、肘掛椅子でうとうとしていたロンが、寝呆け声を出して目を覚まし、ぼんやり暖炉の火を見た。
「シリウス!」
ロンが声をあげた。
ハリーがさっと振り向いた。ぼさぼさの黒髪の頭が、再び暖炉の炎に座っていた。
「やあ。
ああ、サクヤがいる。久しぶりだね」
シリウスの顔が笑いかけた。
「やあ」
「久しぶり、シリウス」
ハリー、ロン、ハーマイオニーが声を揃えて挨拶し、サクヤもにっこり笑った。
4人とも暖炉マットに膝をついてぐるりとシリウスの頭の周りに集まった。
クルックシャンクスはゴロゴロと大きく喉を鳴らしながら火に近づき、熱いのもかまわず、シリウスの頭に顔を近づけようとした。
「どうだね?」
シリウスが聞いた。
「まあまあ」
ハリーが答えた。
ハーマイオニーはクルックシャンクスを引き戻し、ヒゲが焦げそうになるのを救った。
「魔法省がまた強引に法律を作って、僕たちのクィディッチ・チームが許可されなくなって――」
「または、秘密の『闇の魔術防衛』グループがかい?」
シリウスが言った。
一瞬、みんな沈黙した。
「どうしてそのことを知ってるの?」
ハリーが詰問した。
「会合の場所は、もっと慎重に選ばないとね」
シリウスがますますにやりとした。
「よりによって『ホッグズ・ヘッド』とはね」
「だって、『3本の箒』よりはましだったわ!」
ハーマイオニーが弁解がましく言った。
「あそこはいつも人がいっぱいだもの――」
「ということは、そのほうが盗み聞きするのも難しいはずなんだがね」
シリウスが言った。
「ハーマイオニー、君もまだまだ勉強しなきゃならないな」
「誰か盗み聞きをしそうな怪しいやつはあの場にいたの?」
サクヤがハリー、ロン、ハーマイオニーに振り返った。
「むしろ、見てくれはみんな怪しかったけど」
ロンが肩をすくめた。
「誰がこのことをシリウスに教えたの?」
ハリーが問い質した。
「マンダンガスさ、もちろん」
シリウスはそう言い、みんながきょとんとしているのを笑った。
「ベールを被った魔女があいつだったのさ」
「あれがマンダンガス?」
ハリーはびっくりした。
「『ホッグズ・ヘッド』で、いったい何をしていたの?」
「何をしていたと思うかね?」
シリウスがもどかしげに言った。
「君を見張っていたのさ、当然」
「僕、まだ追けられているの?」
ハリーが怒ったように聞いた。
「ああ、そうだ」
シリウスが言った。
「そうしておいてよかったというわけだ。
週末に暇ができたとたん、真っ先に君がやったことが、違法な防衛グループの組織だったんだから」
しかし、シリウスは怒った様子も心配する様子もなかった。
むしろ、ハリーをことさら誇らしげな目で見ていた。
「ダングはどうして僕たちから隠れていたの?」
ロンが不満そうに言った。
「会えたらよかったのに」
「あいつは20年前に『ホッグズ・ヘッド』を出入り禁止になった」
シリウスが言った。
「それに、あのバーテンは記憶力がいい。
スタージスが捕まったとき、ムーディの2枚目の『透明マント』もなくなってしまったので、ダングは近ごろ魔女に変装することが多くなってね……。
それはともかく……まず、ロン――君の母さんからの伝言を必ず伝えると約束したんだ」
「へえ、そう?」
ロンが不安そうな声を出した。
「伝言は、『どんなことがあっても違法な"闇の魔術防衛"グループには加わらないこと。
きっと退学処分になります。あなたの将来がめちゃめちゃになります。
もっとあとになれば、自己防衛を学ぶ時間は十分あるのだから、いまそんなことを心配するのはまだ若すぎます』ということだ。それから――」
シリウスは他の3人に目を向けた。
「ハリーとサクヤ、ハーマイオニーへの忠告だ。
グループをこれ以上進めないように。
もっとも、この3人に関しては、指図する権限がないことは認めている。
ただ、お願いだから、自分は3人のためによかれと思って言っているのだということを忘れないように、とのことだ。
手紙が書ければ全部書くのだが、もしふくろうが途中で捕まったら、みんながとても困ることになるだろうし、今夜は当番なので自分で言いにくることができない」
「何の当番?」
ロンがすかさず聞いた。
「気にするな。騎士団の何かだ」
シリウスが言った。
「そこでわたしが伝令になったというわけだ。
わたしがちゃんと伝言したと、母さんに言ってくれ。どうもわたしは信用されていないのでね」
またしばらくみんな沈黙した。
クルックシャンクスがニャアと鳴いて、シリウスの頭を引っ掻こうとした。
ロンは暖炉マットの穴をいじっていた。
「それじゃ、僕が防衛グループには入らないって、シリウスはそう言わせたいの?」
しばらくしてロンがボソボソ言った。
「わたしが?とんでもない!」
シリウスが驚いたように言った。
「わたしは、すばらしい考えだと思っている」
「ほんと?」
ハリーは気持ちが浮き立った。
「もちろん、そう思う」
シリウスが言った。
「君の父さんやわたしが、あのアンブリッジ鬼ばばぁに降参して言いなりになると思うのか?」
「でも――先学期、おじさんは、僕に慎重にしろ、危険を冒すなってばっかり」
「先学年は、ハリー、誰かホグワーツの内部の者が、君やサクヤを殺そうとしてたんだ!」
シリウスが苛立ったように言った。
「今学期は、ホグワーツの外の者が、わたしたちを皆殺しにしたがっていることはわかっている。
だから、しっかり自分の身を護る方法を学ぶのは、わたしはとてもいい考えだと思う!」
「そして、もし私たちが退学になったら?」
ハーマイオニーが訝しげな表情をした。
「ハーマイオニー、すべては君の考えだったじゃないか?」
ハリーはハーマイオニーを見据えた。
「そうよ。ただ、シリウスの考えはどうかなと思っただけ」
ハーマイオニーが肩をすくめた。
サクヤも興味ありげに頷いて、シリウスの言葉を待った。
「そうだな、学校にいて、何も知らずに安穏としているより、退学になっても身を護ることができるほうがいい」
「そうだ、そうだ」
ハリーとロンが熱狂した。
「それで」
シリウスが言った。
「グループはどんなふうに組織するんだ?どこに集まる?」
「うん、それがいまちょっと問題なんだ」
ハリーが言った。
「オレが人数に見合ったちょうどいいところを見つけられなくて……」
サクヤが首を振った。
しかしハリーやハーマイオニーが探したって、サクヤと同じ結果になるのは目に見えていた。
「ねえ、僕、いいところを思いついたかもしれない!」
ロンが急に言った。
「『叫びの屋敷』なら人も寄り付かない!」
「いい考えだが――それにはいくつか問題があるな」
シリウスが首を横に振った。
ハーマイオニーも否定的な声を出したので、ハリーとロンはハーマイオニーを見た。シリウスの首が炎の中で向きを変え、彼女の意見を聞く姿勢をとった。
「あのね、ロン。
あそこは学校の敷地外なの。サクヤは行けないわ。少なくとも特訓を終えるまでは」
ハーマイオニーが言った。
それから、サクヤが言葉を続けた。
「それに、特訓がうまくいってオレも『叫びの屋敷』に行けるようになったとして、そこまでどうやって行く?
メンバーは全員で29人なんだろ?オレの他に誰も『動物もどき』じゃないし、人数分の『透明マント』もない。むしろ『透明テント』が必要なくらいだ――」
「もっともだ」
ロンはひどくがっくりしたようだった。
シリウスが思いついたように口を開いた。
「5階の大きな鏡の裏に、昔はかなり広い秘密の抜け道があったんだが、そこなら呪いの練習をするのに十分な広さがあるだろう――」
「フレッドとジョージが、そこは塞がってるって言ってた」
ハリーが首を振った。
「陥没したかなんかで」
「そうか……」
シリウスは顔をしかめた。
「それじゃ、よく考えてまた知らせる。
まあ、君たちで、必ずどこか見つけるだろうが――」
シリウスが突然言葉を切った。顔が急にぎくりとしたように緊張した。
横を向き、明らかに暖炉の固いレンガ壁の向こうを見ている。
「シリウスおじさん?」
ハリーが心配そうに聞いた。
しかし、シリウスは消えていた。
ハリーは一瞬唖然として炎を見つめた。
それからサクヤとロン、ハーマイオニーを見た。
「どうして、いなく――?」
ハーマイオニーはぎょっと息を呑み、ほとんど同時に気がついたサクヤに身体ごと引かれて急に立ち上がった。
炎の中に手が現れた。
何かをつかもうとまさぐっている。
ずんぐりした短い指に、醜悪な流行後れの指輪をごてごてと嵌めている。
4人は一目散にその場を離れた。
男子寮のドアのところで、ハリーが振り返ると、アンブリッジの手がまだ、炎の中で何かをつかむ動きを繰り返していた。
まるで、さっきまでシリウスの髪の毛があった場所をはっきり知っているかのように。
そして、絶対に捕まえてみせるとでもいうように。
>>To be continued
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