The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「『占い学』をサボろうかな」

昼食後、中庭で、ハリーはふて腐れて言った。
風がローブの裾やフードに叩きつけるように吹いていた。

「仮病を使って、その間にスネイプのレポートをやる。そうすれば、真夜中過ぎまで起きていなくてすむ」

「『占い学』をサボるのはだめよ」

ハーマイオニーが厳しく言った。

「何言ってんだい。
『占い学』を蹴ったのはどなたさんでしたかね?トレローニーが大嫌いなくせに!」

ロンが憤慨した。

「私は別に大嫌いなわけではありませんよ」

ハーマイオニーがつんとして言った。

「ただ、あの人は先生としてまったくなってないし、ほんとにインチキ婆さんだと思うだけです。
でも、ハリーはさっき『魔法史』も抜かしてるし、今日はもうほかの授業を抜かしてはいけないと思います!」

まさに正論だった。とても無視できない。
そして30分後、ハリーは暑苦しい、むんむん香りのする「占い学」の教室に座り、むかっ腹を立てていた。
トレローニー先生はまたしても「夢のお告げ」の本を配っていた。
こんなところに座って、でっち上げの夢の意味を解き明かす努力をしているより、スネイプの罰則レポートを書いているほうが、ずっと有益なのに、とハリーは思った。

しかし、「占い学」のクラスで癇癪を起こしているのは、ハリーだけではなかった。
トレローニー先生が「お告げ」の本を1冊、ハリーとロンのいるテーブルに叩きつけ、唇をぎゅっと結んで通り過ぎた。
次の1冊はシェーマスとディーンに放り投げ、危うくシェーマスの頭にぶつかりそうになった。
最後の1冊はネビルの胸にぐいと押しつけ、あまりの勢いに、ネビルは座っていたクッションから滑り落ちた。

「さあ、おやりなさい!」

トレローニー先生が大きな声を出した。甲高い、少しヒステリー気味の声だった。

「やることはおわかりでございましょ!
それとも、なにかしら、あたくしはそんなにだめ教師で、みなさまに本の開き方もお教えしなかったのでございますの?」

全生徒が唖然として先生を見つめ、それから互いに顔を見合わせた。
しかし、ハリーは、事の次第が読めたと思った。
トレローニー先生が熱り立って背もたれの高い自分の椅子に戻り、拡大された両目に悔し涙を溜めているのを見て、ハリーはロンのほうに顔を近づけてこっそり言った。

「査察の結果を受け取ったんだと思うよ」

「先生?」

パーバティ・パチルが声をひそめて聞いた(パーバティとラベンダーは、これまでトレローニー先生をかなり崇拝していた)。

「先生、何か――あの――どうかなさいましたか?」

「どうかしたかですって!」

トレローニー先生の声は激情にわなないていた。

「そんなことはございません!
たしかに、辱めを受けましたわ……あたくしに対する誹謗中傷……いわれのない非難……でも、いいえ、どうかしてはいませんことよ。絶対に!」

先生は身震いしながら大きく息を吸い込み、パーバティから眼を逸らし、眼鏡の下からボロボロと悔し涙をこぼした。

「あたくし、何も申しませんわ」

先生が声を詰まらせた。

「16年のあたくしの献身的な仕事のことは……それが、気づかれることなしに過ぎ去ってしまったのですわ……でも、あたくし、辱めを受けるべきではありませんわ……ええ、そうですとも!」

「でも、先生、誰が先生を辱めているのですか?」

パーバティがおずおず尋ねた。

「体制でございます!」

トレローニー先生は、芝居がかった、深い、波打つような声で言った。

「そうでございますとも。
心眼で『視る』あたくしのようには見えない、あたくしが『る』ようには知ることのできない、目の曇った俗人たち……。
もちろん『予見者』はいつの世にも恐れられ、迫害されてきましたわ……それが――鳴呼――あたくしたちの運命」

先生がゴクッと唾を飲み込み、濡れた頬にショールの端を押し当てた。
そして袖の中から、刺繍で縁取りされた小さなハンカチを取り出し鼻をかんだが、その音の大きいこと、ピーブズがベロベロバーと悪態をつくときの音のようだった。
ロンが冷やかし笑いをした。ラベンダーが、最低!という目でロンを見た。

「先生」

パーバティが声をかけた。

「それは……つまり、アンブリッジ先生と何か――?」

「あたくしの前で、あの女のことは口にしないでくださいまし!」

トレローニー先生はそう叫ぶと急に立ち上がった。
ビーズがジャラジャラ鳴り、眼鏡がピカリと光った。

「勉強をどうぞお続けあそばせ!」

その後トレローニー先生は、眼鏡の奥からポロリポロリと涙をこぼし、なにやら脅し文句のような言葉を呟きながら、生徒の間をカッカッと歩き回った。

「……むしろ辞めたほうが……この屈辱……停職……どうしてやろう……あの女よくも……」


「君とアンブリッジは共通点があるよ」

「闇の魔術に対する防衛術」でサクヤと一緒のハーマイオニーに会ったとき、ハリーがこっそり言った。

「アンブリッジも、トレローニーがインチキ婆さんだと考えてるのは間違いない。
……どうやらトレローニーは停職になるらしい」

ハリーがそう言っているうちに、アンブリッジが教室に入ってきた。
髪に黒いビロードのリボンを蝶結びにして、ひどく満足そうな表情だ。

「みなさん、こんにちは」

「こんにちは、アンブリッジ先生」

みんなが気のない挨拶を唱えた。

「杖をしまってください」

しかし、今日は慌ててガタガタする気配もなかった。わざわざ杖を出している生徒は誰もいなかった。

「『防衛術の理論』の34ページを開いて、第3章『魔法攻撃に対する非攻撃的対応のすすめ』を読んでください。それで――」

「――おしゃべりはしないこと」

ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが声をひそめて同時に口まねした。

「クィディッチの練習はなし

その夜、ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーが夕食のあとで談話室に戻ると、アンジェリーナが虚ろな声で言った。

「僕、僕たち、何も問題を起こさなかったのに」

ハリーが驚愕した。

「僕もサクヤも、あいつに何にも言わなかったよ、アンジェリーナ。嘘じゃない、僕たち――」

「わかってる。わかってるわよ」

アンジェリーナが萎れきって言った。

「先生は、少し考える時間が必要だって言っただけ」

「考えるって、何をだよ?」

サクヤが呆れ切った声を出した。
続けてロンが怒った。

「スリザリンには許可したくせに、どうして僕たちはだめなんだ?」

しかし、ハリーには想像がついた。
アンブリッジは、グリフィンドールのクィディッチ・チームを潰すという脅しをちらつかせて楽しんでいる。
その武器をそうたやすく手放しはしないと容易に想像できる。

「まあね」

ハーマイオニーが言った。

「明るい面もあるわよ――少なくとも、あなた、これでスネイプのレポートを書く時間ができたじゃない!」

「それが明るい面だって?」

ハリーが噛みついた。
ロンは、よく言うよという顔でハーマイオニーを見つめた。

「クィディッチの練習がない上に、魔法薬の宿題のおまけまでついて?」

ハリーは鞄からしぶしぶ魔法薬のレポートを引っ張り出し、椅子にドサッと座って宿題に取りかかった。
サクヤが「手伝うよ」と隣に座って、参考になりそうな教科書をパラパラと捲ってくれることには感謝の気持ちが湧いたが、このあと――まだずっとあとの時間だが――シリウスがそこの暖炉に現れると思うと、宿題に集中するのはとても難しかった。
数分ごとに、もしかしてと暖炉の火に目が行くのをどうしようもなかった。
それに、談話室はとてつもなくやかましかった。
フレッドとジョージがついに「ずる休みスナックボックス」の1つを完成させたらしい。
2人で交互にデモをやり、見物人をワーッと沸かせて、やんやの喝采を浴びていた。
ハリーの注意散漫が伝染ったサクヤも、教科書を捲る手が止まり、興味津々に双子のほうを見ていた。

最初にフレッドが、砂糖菓子のようなもののオレンジ色の端を噛み、前に置いたバケツに派手にゲーゲー吐く。
それから同じ菓子の紫色の端を無理やり飲み込むと、たちまち嘔吐が止まる。
リー・ジョーダンがデモの助手を務めていて、吐いた汚物を時々のらりくらりと「消失」させていた。
スネイプがハリーの魔法薬を消し去ったのと同じ呪文だ。

吐く音やら歓声やらが絶え間なく続き、フレッドとジョージがみんなから予約を取る声も聞こえる中で、「強化薬」の正しい調合に集中するなどとてもできたものではない。
歓声とフレッド、ジョージのゲーゲーがバケツの底に当たる音だけでも十分邪魔なのに、その上ハーマイオニーのやることも足しにならない。
許せないとばかりに、ハーマイオニーが時々フンと大きく鼻を鳴らすのは、かえって迷惑だった。

「行って止めればいいじゃないか!」

ハリーが我慢できずに言った。
グリフィンの鉤爪の粉末の重量を4回も間違えて消したときだった。

「できないの。
あの人たち、規則から言うとなんら悪いことをしていないもの」

ハーマイオニーが歯軋りした。

「自分が変なものを食べるのは、あの人たちの権利の範囲内だわ。
それに、ほかのおバカさんたちが、そういう物を買う権利がないっていう規則は見当たらない。
何か危険だということが証明されなければね。それに、危険そうには見えないし」

「上手いよな、立ち回りが。
規則もルールもきちんと守って、それでいてスリル満点の発明をしちゃうんだから。しかも需要が大いにあるものを」

サクヤが心底感心したような声を漏らした。
ジョージが勢いよくバケツに吐き出し、菓子の一方の端を噛んですっくと立ち、両手を大きく広げてにっこり笑いながら、いつまでもやまない拍手に応えるのを、4人はじっと眺めていた。

「ねえ、フレッドもジョージも、OWLで3科目しか合格しなかったのはどうしてかなあ」

フレッド、ジョージ、リーの3人が、集まった生徒が我先にと差し出す金貨を集めるのを見ながら、ハリーが言った。

「あの2人、本当にできるよ」

「あら、あの人たちにできるのは、役にも立たない派手なことだけよ」

ハーマイオニーが厭味ったらしく言った。

「役に立たないだって?」

ロンの声が引き攣った。

「ハーマイオニー、あの連中、もう26ガリオンは稼いだぜ」



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