The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




4人とも考え込みながら、足取りも重く「魔法薬」の地下牢教室への石段を下りた。
しかし、石段を下りきったとき、ドラコ・マルフォイの声で我に返った。
ドラコはスネイプの教室の前に立ち、公文書のようなものをひらひらさせて、みんながひと言も聞き漏らさないように必要以上に大声で話していた。

「ああ、アンブリッジがスリザリンのクィディッチ・チームに、プレイを続けてよいという許可をすぐに出してくれたよ。
今朝一番で先生に申請に行ったんだ。ああ、ほとんど右から左さ。
つまり、先生は僕の父上をよく知っているし、父上は魔法省に出入り自由なんだ……グリフィンドールがプレイを続ける許可がもらえるかどうか、見物だねえ」

「抑えて」

ハーマイオニーがハリーとロンに哀願するように囁いた。
2人はマルフォイを睨みつけ、拳を握り締め、顔を強張らせていた。
サクヤは表情を少し険しくしながらも、ハーマイオニーと同様に2人をなだめる側に回った。

「ドラコの思惑に乗っかるな」

「つまり、」

マルフォイが、灰色の眼を意地悪くギラギラさせながらハリーとロンのほうを見てまた少し声を張りあげた。

「魔法省への影響力で決まるなら、あいつらはあまり望みがないだろうねえ……父上がおっしゃるには、魔法省は、アーサー・ウィーズリーをクビにする口実を長年探しているし……。
それに、ポッターだが、父上は、魔法省があいつを聖マンゴ病院に送り込むのはもう時間の問題だっておっしゃるんだ……どうやら、魔法で頭がいかれちゃった人の特別病棟があるらしいよ――」

マルフォイは、顎をだらんと下げ、白目を剥き、醜悪な顔をして見せた。
クラッブとゴイルがいつもの豚のような声で笑い、パンジー・パーキンソンははしゃいでキャーキャー笑った。
サクヤのことも挑発しようとマルフォイの口が開かれたとき、何かが肩に衝突し、ハリーはよろけた。
次の瞬間、それがネビルだとわかった。
ハリーの脇を駆け抜け、マルフォイに向かって突進していくところだった。
止めようとしたサクヤが腕にしがみついているが、ずいぶんと背が伸びていたネビルの勢いは少しも劣らなかった。

「ネビル、やめろ!

ハリーも飛び出してネビルのローブの背中をつかんだ。
ネビルは拳を振り回し、もがきにもがいて、必死にマルフォイに殴りかかろうとした。
マルフォイは、一瞬、かなりぎくりとしたようだった。

「手伝ってくれ!」

ロンに向かって鋭く叫びながら、ハリーはやっとのことで腕をネビルの首に回し、引きずってネビルをスリザリン生から遠ざけた。
クラッブとゴイルが腕を屈伸させながら、いつでもかかってこいとばかり、マルフォイの前に進み出た。
ロンがネビルの両腕をつかみ、サクヤが肩をぐっと押して、ハリーと3人がかりでようやくグリフィンドールの列まで引き戻した。ネビルの顔は真っ赤だった。
ハリーに首を押さえつけられて、言うことがさっぱりわからなかったが、切れぎれの言葉を口走っていた。

「おかしく……ない……マンゴ……やっつける……あいつめ……」

地下牢の戸が開き、スネイプが姿を現した。
暗い目がずいっとグリフィンドール生を見渡し、ハリーとサクヤ、ロンがネビルと揉み合っているところで止まった。

「ポッター、フェリックス、ウィーズリー、ロングボトム。喧嘩か?」

スネイプは冷たい、嘲るような声で言った。

「グリフィンドール、10点減点。
ポッター、ロングボトムを放せ。さもないと罰則だ。全員、中へ」

ハリーはネビルを放した。
ネビルは息を弾ませ、3人を睨んだ。

「止めないわけにはいかないだろ」

息を切らせたサクヤが呼吸を整えながら言った。

「クラッブとゴイルが、君を八つ裂きにしてたかもしれない」

鞄を拾い上げながらハリーもそう続けたが、ネビルは何にも言わなかった。
パッと鞄をつかみ、肩を怒らせて地下牢教室に入っていった。

「驚きだ」

ネビルの後ろを歩きながら、ロンが呆れたように言った。

「いったい、あれは、なんだったんだ?」

ハリーもサクヤも答えなかった。
魔法で頭をやられて聖マンゴ病院にいる患者の話が、なぜネビルをそんなに苦しめるのか、2人にはよくわかっていた。
しかし、ネビルの秘密は誰にも漏らさないとダンブルドアに約束した。
ネビルでさえ、ハリーとサクヤが知っていることを知らない。

ハリー、ロン、サクヤ、ハーマイオニーはいつものように後ろの席に座り、羊皮紙、羽根ペン、「薬草ときのこ1000種」を取り出した。
周りの生徒たちが、いましがたのネビルの行動をひそひそ話していた。
しかし、スネイプが、バターンという音を響かせて地下牢の戸を閉めると、たちまちクラスが静かになった。

「気づいたであろうが」

スネイプが低い、嘲るような声で言った。

「今日は客人が見えている」

スネイプが地下牢の薄暗い片隅を身振りで示した。
ハリーが見ると、アンブリッジ先生が膝にクリップボードを載せて、そこに座っていた。
ハリーはロンとサクヤ、ハーマイオニーを横目で見て、眉をちょっと上げて見せた。
スネイプとアンブリッジ――ハリーの一番嫌いな先生が2人。どっちに勝ってほしいのか、判断が難しい。

「本日は『強化薬』を続ける。
前回の授業で諸君が作った混合液はそのままになっているが、正しく調合されていれば、この週末に熟成しているはずである。――説明は――」

スネイプが例によって杖を振った。

「――黒板にある。取りかかれ」

最初の30分、アンブリッジ先生は片隅でメモを取っていた。
ハリーはスネイプに何と質問するのかに気を取られるあまり、またしても魔法薬のほうが疎かになった。

「ハリー、サラマンダーの血液よ!」

ハーマイオニーがハリーの手首をつかんで、間違った材料を入れそうになるのを防いだ。もう三度目だった。

「ざくろ液じゃないでしょ!」

「なるほど」

ハリーは上の空で答え、瓶を下に置いて、隅のほうを観察し続けた。
アンブリッジが立ち上がったところだった。

「おっ」

ハリーが小さく声をあげた。
その声を聞いて、集中して自分の大鍋に取り組んでいたサクヤの手が止まった。
2列に並んだ机の間をスネイプに向かってずんずん歩いていくアンブリッジを一瞥してから、サクヤは再び手を動かし始めたが、聞き耳はしっかり立てるつもりらしく、首をひねって耳をそちら側に向けていた。
スネイプはディーン・トーマスの大鍋を覗き込んでいるところだった。

「まあ、このクラスは、この学年にしてはかなり進んでいますわね」

アンブリッジがスネイプの背中に向かってきびきびと話しかけた。

「でも、『強化薬』のような薬をこの子たちに教えるのは、いかがなものかしら。
魔法省は、この薬を教材から外したほうがよいと考えると思いますね」

スネイプがゆっくりと身体を起こし、アンブリッジと向き合った。

「さてと……あなたはホグワーツでどのぐらい教えていますか?」

アンブリッジが羽根ペンをクリップボードの上で構えながら聞いた。

「14年」

スネイプの表情からは何も読めなかった。
スネイプから眼を離さず、ハリーは、自分の液体に材料を数滴加えた。
シューシューと脅すような音を立て、溶液はトルコ石色からオレンジ色に変色した。

「最初は『闇の魔術に対する防衛術』の職に応募したのでしたわね?」

アンブリッジ先生がスネイプに聞いた。

「左様」

スネイプが低い声で答えた。

「でもうまくいかなかったのね?」

スネイプの唇が冷笑した。

「ご覧のとおり」

アンブリッジ先生がクリップボードに走り書きした。

「そして赴任して以来、あなたは毎年『闇の魔術に対する防衛術』に応募したんでしたわね?」

「左様」

スネイプが、ほとんど唇を動かさずに低い声で答えた。
相当怒っている様子だ。

「ダンブルドアが一貫してあなたの任命を拒否してきたのはなぜなのか、おわかりかしら?」

アンブリッジが聞いた。

「本人に聞きたまえ」

スネイプが邪険に言った。

「ええ、そうしましょう」

アンブリッジ先生がにっこり笑いながら言った。

「それが何か意味があるとでも?」

スネイプが暗い目を細めた。

「ええ、ありますとも」

アンブリッジ先生が言った。

「ええ、魔法省は先生方の――あー――背景を、完全に理解しておきたいのですわ」

アンブリッジ先生はスネイプに背を向けてパンジー・パーキンソンに近づき、授業について質問をしはじめた。
スネイプが振り向いてハリーを見た。一瞬2人の目が合った。
ハリーはすぐに自分の薬に目を落とした。
いまや薬は汚らしく固まり、ゴムの焼けるような強烈な悪臭を放っていた。

「さて、またしても0点だ。ポッター」

スネイプが憎々しげに言いながら、杖のひと振りでハリーの大鍋を空にした。

「レポートを書いてくるのだ。
この薬の正しい調合と、いかにして、また何故失敗したのか、次の授業に提出したまえ。わかったか?」

「はい」

ハリーは煮えくり返る思いで答えた。
スネイプはもう別の宿題を出しているし、今夜はクィディッチの練習がある。あと数日は寝不足の夜が続くということだ。
今朝あれほど幸せな気分で目が覚めたことが信じられない。
いまは、こんな1日は早く終ればいいと激しく願うばかりだ。




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