The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
教室を出るとすぐ、ハリーはヘドウィグを肩に戻し、急いで廊下を歩き、ビンズの教室のドアが見えなくなったとき、初めて立ち止まって考えた。
誰かにヘドウィグを治してもらうとしたら、ハリーはもちろん、まずハグリッドを選んだろう。
しかし、ハグリッドの居場所はまったくわからない。
残るはグラブリー-プランク先生だけだ。助けてくれればいいが。
ハリーは窓から校庭を眺めた。荒れ模様の曇り空だった。
ハグリッドの小屋のあたりには、グラブリー-プランク先生の姿はなかった。
授業中でないとしたら、たぶん職員室だろう。
ハリーは階段を下りはじめた。
ヘドウィグはハリーの肩でぐらぐら揺れるたび、弱々しくホーと鳴いた。
職員室のドアの前に、ガーゴイルの石像が一対立っていた。
ハリーが近づくと、1つが嗄れ声を出した。
「そこの坊や、授業中のはずだぞ」
「緊急なんだ」
ハリーがぶっきらぼうに言った。
「おぉう、
緊急かね?」
もう1つの石像が甲高い声で言った。
「それじゃ、
俺たちなんかの出る幕じゃないってわけだな?」
ハリーはドアを叩いた。
足音がして、ドアが開き、マクゴナガル先生がハリーの真正面に現れた。
「まさか、また罰則を受けたのですか!」
ハリーを見るなり先生が言った。
四角い眼鏡がギラリと光った。
「違います、先生」
ハリーが急いで言った。
「それでは、どうして授業に出ていないのです?」
「
緊急らしいですぞ」
2番目の石像が嘲るように言った。
「グラブリー-プランク先生を探しています」
ハリーが説明した。
「僕のふくろうのことで。怪我してるんです」
「手負いのふくろう、そう言ったかね?」
グラブリー-プランク先生がマクゴナガル先生の脇に現れた。
パイプを吹かし、「日刊予言者新聞」を手にしている。
「はい」
ハリーはヘドウィグをそっと肩から下ろした。
「このふくろうは、ほかの配達ふくろうより遅れて到着して、翼がとってもおかしいんです。診てください――」
グラブリー-プランク先生はパイプをがっちり歯でくわえ、マクゴナガル先生の目の前でハリーからヘドウィグを受け取った。
「ふぅむ」
グラブリー-プランク先生がしゃべるとパイプがひょこひょこ動いた。
「どうやら何かに襲われたね。
ただ、何に襲われたのやら、わからんけどね。
セストラルはもちろん、ときどき鳥を狙うが、しかし、ホグワーツのセストラルは、ふくろうに手を出さんようにハグリッドがしっかり躾てある」
ハリーはセストラルが何だか知らなかったし、どうでもよかった。ヘドウィグが治るかどうかだけが知りたかった。
しかし、マクゴナガル先生は厳しい目でハリーを見て言った。
「ポッター、このふくろうがどのぐらい遠くから来たのか知っていますか?」
「えーと」
ハリーが言った。
「ロンドンからだと、たぶん」
ハリーがちらりと先生を見ると、眉毛が真ん中でくっついていた。
「ロンドン」が「グリモールド・プレイス12番地」だと見抜かれたことが、ハリーにはわかった。
グラブリー-プランク先生はローブの中から片眼鏡を取り出し、片目に嵌め、ヘドウィグの翼を念入りに調べた。
「ポッター、この子を預けてくれたら、何とかできると思うがね。
なんにせよ、数日は長い距離を飛ばせちゃいけないね」
「あ――ええ――どうも」
ハリーがそう言ったとき、ちょうど終業ベルが鳴った。
「任しときな」
グラブリー-プランク先生はぶっきらぼうにそう言うと、背を向けて職員室に戻ろうとした。
「ちょっと待って、ウィルヘルミーナ!」
マクゴナガル先生が呼び止めた。
「ポッターの手紙を!」
「ああ、そうだ!」
ハリーはヘドウィグの脚に結ばれていた巻紙のことを、一瞬忘れていた。
グラブリー-プランク先生は手紙を渡し、ヘドウィグを抱えて職員室へと消えた。
ヘドウィグは、こんなふうに私を見放すなんて信じられないという目でハリーを見つめていた。
ちょっと気が咎めながら、ハリーは帰りかけた。すると、マクゴナガル先生が呼び戻した。
「ポッター!」
「はい、先生?」
マクゴナガル先生は廊下の端から端まで目を走らせた。
両方向から生徒がやって来る。
「注意しなさい」
先生はハリーの手にした巻紙に目を止めながら、声をひそめて早口に言った。
「ホグワーツを出入りするその通信網は、見張られている可能性があります。わかりましたね?」
「僕――」
ハリーが言いかけたが、廊下を流れてくる生徒の波が、ほとんどハリーのところまで来ていた。
マクゴナガル先生はハリーに向かって小さく頷き、職員室に引っ込んでしまった。
残されたハリーは、群れに流されて中庭へと押し出された。
サクヤとロン、ハーマイオニーが風の当たらない隅のほうに立っているのが見えた。マントの襟を立てて風を避けている。
急いで3人のそばに行きながら、ハリーは巻紙の封を切った。
シリウスの筆跡で5つの言葉が書かれているだけだった。
「ヘドウィグは大丈夫なのか?」
ハリーが声の届くところまで近づくとすぐ、サクヤが心配そうに聞いた。
「どこに連れていったんだい?」
ロンが聞いた。
「グラブリー-プランクのところだ」
ハリーが答えた。
「そしたら、マクゴナガルに会った……それでね……」
そして、ハリーはマクゴナガル先生に言われたことを3人に話した。
驚いたことに、3人ともショックを受けた様子はなかった。
むしろ、意味ありげな目つきで顔を見合わせた。
「なんだよ?」
ハリーはサクヤからロン、そしてハーマイオニーへと目を巡らせた。
「あのね、ちょうどサクヤとロンに言ってたところなの……もしかしたら誰かがヘドウィグの手紙を奪おうとしたんじゃないかしら?
だって、ヘドウィグはこれまで一度も、飛行中に怪我したことなんかなかったでしょ?」
「それにしても、誰からの手紙だったんだ?」
ロンが手紙をハリーから取った。
「スナッフルズから」
ハリーがこっそり言った。
「同じ時間、同じ場所?談話室の暖炉のことか?」
「決まってるじゃない」
ハーマイオニーもメモ書きを読みながら言った。
「誰もこれを読んでないよな……?」
サクヤが慎重に声を潜めた。
「大丈夫だと思う。封もしてあるし」
ハリーはサクヤというより自分を安心させようとしていた。
「それに、誰かが読んだって、僕たちがこの前どこで話したかを知らなければ、この意味がわからないだろ?」
「それはどうかしら」
始業のベルが鳴ったので、鞄を肩に掛け直しながら、ハーマイオニーが心配そうに言った。
「魔法で巻紙の封をし直すのは、そんなに難しいことじゃないはずよ……それに、誰かが煙突飛行ネットワークを見張っていたら……でも、来るなって警告のしようがないわ。だって、それも途中で奪われるかもしれない!」
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