The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「……ふくろうがつっつき、もとい、ふくろうがつぎつぎ、わしの家を出たり入ったり。許さんぞ、小僧、わしは絶対――」
「僕はふくろうが来るのを止められない」
ハリーはシリウスの手紙を握り潰しながらぶっきらぼうに言った。
「今夜何が起こったのか、本当のことを言え!」
バーノン叔父さんが吠えた。
「キューコンダーとかがダドリーを傷つけたのなら、なんでおまえが退学になる?
おまえは『例のあれ』をやったのだ。自分で白状しただろうが!」
ハリーは深呼吸して気を落ち着かせた。また頭が痛みはじめていた。
何よりもまず、キッチンから出て、ダーズリーたちから離れたいと思った。
「僕は吸魂鬼を追い払うのに守護霊の呪文を使った」
ハリーは必死で平静さを保った。
「あいつらに対しては、それしか効かないんだ」
「しかし、キューコントイドとかは、
なんでまたリトル・ウィンジングにいた?」
バーノン叔父さんが憤激して言った。
「教えられないよ」
ハリーがうんざりしたように言った。
「知らないから」
今度はキッチンの照明のギラギラで、頭がズキズキした。
怒りはだんだん収まっていたが、ハリーは力が抜け、ひどく疲れていた。
ダーズリー親子はハリーをじっと見ていた。
「おまえだ」
バーノン叔父さんが力を込めて言った。
「おまえに関係があるんだ。小僧、わかっているぞ。
それ以外、ここに現れる理由があるか?それ以外、あの路地にいる理由があるか?
おまえだけがただ1人の――ただ1人の――」
叔父さんが、「魔法使い」という言葉をどうしても口にできないのは明らかだった。
「このあたり一帯でただ1人の、
『例のあれ』だ」
「あいつらがどうしてここにいたのか、僕は知らない」
しかし、バーノン叔父さんの言葉で、疲れきったハリーの脳みそが再び動き出した。
なぜ吸魂鬼がリトル・ウィンジングにやってきたのか?
ハリーが路地にいるとき、やつらがそこにやってきたのは
果たして偶然だろうか?誰かがやつらを送ってよこしたのか?
魔法省は吸魂鬼を制御できなくなったのか?
やつらはアズカバンを捨てて、ダンブルドアが予想したとおりヴォルデモートに与したのか?
フィッグばあさんが言っていた、僕の知らない
7月に起こったことって、これになにか関係があるんじゃないのか?
「そのキュウコンバーは、妙ちきりんな監獄とやらをガードしとるのか?」
バーノン叔父さんは、ハリーの考えている道筋に、ドシンドシンと踏み込んできた。
「ああ」
ハリーが答えた。
頭の痛みが止まってくれさえしたら。
キッチンから出て、暗い自分の部屋に戻り、
考えることさえできたら……。
「おッホー!やつらはおまえを捕まえにきたんだ!」
バーノン叔父さんは絶対間違いない結論に達したときのような、勝ち誇った口調で言った。
「そうだ。そうだろう、小僧?おまえは法を犯して逃亡中というわけだ!」
「もちろん、違う」
ハリーは蠅を追うように頭を振った。
いろいろな考えが目まぐるしく浮かんできた。
「それならなぜだ――?」
「『あの人』が送り込んだに違いない」
ハリーは叔父さんにというより自分に聞かせるように低い声で言った。
「なんだ、それは?誰が送り込んだと?」
「ヴォルデモート卿だ」
ハリーが言った。
ダーズリー一家は、「魔法使い」とか「魔法」、「杖」などという言葉を聞くと、後退ったり、ぎくりとしたり、ギャーギャー騒いだりするのに、歴史上最も極悪非道の魔法使いの名を聞いてもびくりともしないのは、なんて奇妙なんだろうとハリーはぼんやりそう思った。
「ヴォルデ――待てよ」
バーノン叔父さんが顔をしかめた。豚のような目に、突如わかったぞという色が浮かんだ。
「その名前は聞いたことがある……たしか、そいつは――」
「そう、僕の両親を殺した」
ハリーが言った。
「しかし、そやつは死んだ」
バーノン叔父さんが畳みかけるように言った。
ハリーの両親の殺害が、辛い話題だろうなどという気配は微塵も見せない。
「あの大男のやつが、そう言いおった。そやつが死んだと」
「戻ってきたんだ」
ハリーは重苦しく言った。
外科手術の部屋のように清潔なペチュニア叔母さんのキッチンに立って、最高級の冷蔵庫と大型テレビのそばで、バーノン叔父さんにヴォルデモート卿のことを冷静に話すなど、まったく不思議な気持ちだった。
吸魂鬼がリトル・ウィンジングに現れたことで、プリベット通りという徹底した反魔法世界と、その彼方に存在する魔法世界を分断していた、大きな目に見えない壁が破れたかのようだった。
ハリーの二重生活が、なぜか1つに融合し、すべてが引っくり返った。
ダーズリーたちは魔法界のことを細かく追及するし、フィッグばあさんはダンブルドアを知っている。
吸魂鬼はリトル・ウィンジング界隈を浮遊し、ハリーは二度とホグワーツに戻れないかもしれない。ハリーの頭がますます激しく痛んだ。
「戻ってきた?」
ペチュニア叔母さんが囁くように言った。
ペチュニア叔母さんはこれまでとはまったく違った眼差しでハリーを見ていた。
そして、突然、生まれて初めてハリーは、ペチュニア叔母さんが自分の母親の姉だということをはっきり感じた。
なぜその瞬間そんなにも強く感じたのか、言葉では説明できなかったろう。
ただ、ヴオルデモート卿が戻ってきたことの意味を少しでもわかる人間が、ハリーの他にもこの部屋にいる、ということだけがわかった。
ペチュニア叔母さんはこれまでの人生で、一度もそんなふうにハリーを見たことはなかった。
色の薄い大きな目を(妹とはまったく似ていない目を)、嫌悪感や怒りで細めるどころか、恐怖で大きく見開いていた。
ハリーが物心ついて以来、ペチュニア叔母さんは常に激しい否定の態度を取り続けてきた――魔法は存在しないし、バーノン叔父さんと一緒に暮らしているこの世界以外に、別の世界は存在しないと――それが崩れ去ったかのように見えた。
「そうなんだ」
今度は、ハリーはペチュニア叔母さんに直接に話しかけた。
「1ヵ月前に戻ってきた。僕は見たんだ」
叔母さんの両手が、ダドリーの革ジャンの上から巨大な肩に触れ、ぎゅっと握った。
「ちょっと待った」
バーノン叔父さんは、妻からハリーへ、そしてまた妻へと視線を移し、2人の間に前代未聞の理解が湧き起こったことに戸惑い、呆然としていた。
「待てよ。そのヴォルデなんとか卿が戻ったと、そう言うのだな」
「そうだよ」
「おまえの両親を殺したやつだな」
「そうだよ」
「そして、そいつが今度はおまえにキューコンバーを送ってよこしたと?」
「そうらしい」
ハリーが言った。
「なるほど」
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