The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「じゃ……とにかく、そういう計画です」
ハーマイオニーが言った。
「みなさんが一緒にやりたければ、どうやってやるかを決めなければなりません――」
「『例のあの人』が戻ってきたっていう証拠がどこにあるんだ?」
ブロンドのハッフルパフの選手が、食ってかかるような声で言った。
「まず、ダンブルドアがそう信じていますし――」
ハーマイオニーが言いかけた。
「ダンブルドアがその人を信じてるって意味だろ?」
ブロンドの男子生徒がハリーのほうを顎でしゃくった。
「それと、もう1人はどこだ?いつも一緒にいる、『死喰い人』になった――」
「
君、いったい誰?」
ロンが少しぶっきらぼうに聞いた。
「ザカリアス・スミス」
男子生徒が答えた。
「それに、僕たちは、その人たちがなぜ『例のあの人』が戻ってきたなんて言うのか、正確に知る権利があると思うな」
「ちょっと待って」
ハーマイオニーが素早く割って入った。
「この会合の目的は、そういうことじゃないはずよ――」
「サクヤがいないのは、私も気になるなぁ」
ルーナが夢見心地の声で言ったが、驚いたような――ルーナにとっては普通サイズの――目はハリーをしっかりと見つめていた。
「……オッケー。
かまわないよ、ハーマイオニー」
また何かを言おうとするハーマイオニーを手で制して、ハリーが言った。
なぜこんなに多くの生徒が集まったのか、ハリーはいま気がついた。
ハーマイオニーはこういう成り行きを予想すべきだったと、ハリーは思った。
このうちの何人かは――もしかしたらほとんど全員が―――ハリーから直に話が聞けると期待してやって来たのだ。
「僕たちがなぜ『例のあの人』が戻ってきたと言うのかって?」
ハリーはザカリアスを正面きって見つめながら言った。
「僕とサクヤはやつを見たんだ。
だけど、先学期ダンブルドアが、何が起きたのかを全校生に話した。
だから、君がそのときダンブルドアを信じなかったのなら、僕たちのことも信じないだろう。
僕は誰かを信用させるために、午後いっぱいを無駄にするつもりはない」
ハリーが話すあいだ、全員が息を殺しているようだった。
ハリーは、バーテンまでも聞き耳を立てているような気がした。
バーテンはあの汚いボロ布で、同じコップを拭き続け、汚れをますますひどくしていた。
ザカリアスがそれでは納得できないとばかり言った。
「ダンブルドアが先学期話したのは、セドリック・ディゴリーが『例のあの人』に殺されたことと、サクヤ・フェリックスが『死喰い人』になったこと、そして君たちがホグワーツまでディゴリーの亡骸を運んできたことだ。
詳しいことは話さなかった。ディゴリーがどんなふうに殺されたのかは話してくれなかった。
僕たち、みんなそれが知りたいんだと思うな」
「ヴォルデモートがどんなふうに人を殺すのかをはっきり聞きたいからここに来たのなら、生憎だったな」
ハリーの癇癪はこのごろいつも爆発寸前だったが、いまもだんだん沸騰してきた。
ハリーはザカリアス・スミスの挑戦的な顔から目を離さなかったし、絶対にチョウのほうを見るまいと心を決めていた。
「僕は、セドリック・ディゴリーのことを話したくない。わかったか!
だから、もしみんながそのためにここに来たなら、すぐ出ていったほうがいい」
ハリーはハーマイオニーのほうに怒りの眼差しを向けた。
ハーマイオニーのせいだ。ハーマイオニーがハリーを見世物にしようとしたんだ。
当然、みんなは、ハリーの話がどんなにとんでもないものか聞いてやろうと思ってやって来たんだ。
しかし、席を立つ者はいなかった。
ザカリアス・スミスさえ、ハリーをじっと見つめたままだった。
「それから、サクヤのことだけど」
間をおいて、ハーマイオニーが静かに口を開いた。
「今はちょっと、訳あって、ホグワーツから出られない状態になってるの。
それもこれも、ヴォ、ヴォルデモートの仕業で……敷地を出た瞬間、サクヤに危害を加えようとするの。
だから、今はまだ、ここには来られない。
それでも私たちはサクヤを
信じてる。彼女はいまも対策の訓練を受けていて、たった1人で戦ってるのよ」
「ハーマイオニーとサクヤが君たちに『防衛術を学ばないか』と声をかけて回ったみたいだけど」
ロンが言った。
「もしハリーだけじゃなく、彼女からも何かを学びたいのなら、君たちもサクヤを信じる必要がある。
どんな『印』がついていようが、サクヤは『死喰い人』なんかじゃ
ない。分かったか」
ロンの目はザカリアス・スミスをじっと見据えていた。
彼の先ほどの発言がよほど気に食わなかったのだろう。
誰も何も言わず、それからまた少しの沈黙が流れた。
「それじゃ」
ハーマイオニーの声がまた上ずった。
「それじゃ……さっきも言ったようにみんなが防衛術を習いたいのなら、やり方を決める必要があるわ。会合の頻度とか――」
「ほんとなの?」
長い三つ編みを1本背中に垂らした女生徒が、ハリーを見ながら口を挟んだ。
「守護霊を創り出せるって、ほんと?」
集まった生徒が関心を示してざわめいた。
「うん」
ハリーは少し身構えるように言った。
「有体の守護霊を?」
その言葉でハリーの記憶が蘇った。
「あ――君、マダム・ボーンズを知ってるかい?」
ハリーが聞いた。
女生徒がにっこりした。
「私の叔母さんよ」
女生徒が答えた。
「私、スーザン・ボーンズ。
叔母さんがあなたの尋問のことを話してくれたわ。
それで――ほんとにほんとなの?牡鹿の守護霊を創るって?」
「ああ。
僕のは牡鹿で、サクヤは鷹だ」
ハリーが答えた。
「2人とも!すげえぞ!」
リーが心底感心したように言った。
「全然知らなかった!」
「お袋がロンに、吹聴するなって言ったのさ」
フレッドがハリーに向かってにやりとした。
「ただでさえ君は注意を引きすぎるからって、お袋が言ったんだ」
「それ、間違っちゃいないよ」
ハリーが口ごもり、何人かが笑った。
ぽつんと座っていたベールの魔女が、座ったままほんの少し体をもぞもぞさせた。
「それに、君はダンブルドアの校長室にある剣でバジリスクを殺したのかい?」
テリー・ブートが聞いた。
「先学期あの部屋に行ったとき、壁の肖像画の1つが僕にそう言ったんだ……」
「あ――まあ、そうだ、うん。あれもサクヤと一緒だったけど」
ハリーが言った。
ジャスティン・フィンチ-フレッチリーがヒューッと口笛を吹いた。
クリービー兄弟は尊敬で打ちのめされたように目を見交わし、ラベンダー・ブラウンは「うわぁ!」と小さく叫んだ。
ハリーは少し首筋が熱くなるのを感じ、絶対にチョウを見ないように目を逸らした。
「それに、1年のとき」
ネビルがみんなに向かって言った。
「ハリーはサクヤと『
言者の石』を救ったよ――」
「『
賢者の』」
ハーマイオニーが急いでひそひそ言った。
「そう、それ――『例のあの人』からだよ」
ネビルが言い終えた。
ハンナ・アボットの両眼が、ガリオン金貨ぐらいにまん丸になった。
「それに、まだあるわ」
チョウが言った(ハリーの目がバチンとチョウに引きつけられた。チョウがハリーを見て微笑んでいた。ハリーの胃袋がまたでんぐり返った)。
「先学期、三校対抗試合で、ハリーとサクヤがどんなにいろんな課題をやり遂げたか――ドラゴンや水中人、大蜘蛛なんかをいろいろ切り抜けて……」
「そのとき分かったのは、サクヤが『動物もどき』だってこと」
ルーナが――自分のことでもないのになぜか――自慢げに言った。
テーブルの周りで、そうだそうだとみんなが感心してざわめいた。
ハリーは内臓がじたばたしていた。
あまり得意気な顔に見えないように取り繕うのがひと苦労だった。
チョウが褒めてくれたことで、みんなに絶対に言おうと心に決めていたことが、ずっと言い出しにくくなってしまった。
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