The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




バーテンが裏の部屋から出てきて、3人にじわりと近づいてきた。
長い白髪に顎ひげをぼうぼうと伸ばした、不機嫌な顔の爺さんだった。
痩せて背が高く、ハリーはなんとなく見覚えがあるような気がした。

「注文は?」

爺さんが唸るように聞いた。

「バタービール3本お願い」

ハーマイオニーが言った。
爺さんはカウンターの下に手を入れ、埃を被った汚らしい瓶を3本引っ張り出し、カウンターにドンと置いた。

「6シックルだ」

「僕が払う」

ハリーが銀貨を渡しながら、急いで言った。
バーテンはハリーを眺め回し、ほんの一瞬傷痕に目を止めた。
それから目を背け、ハリーの銀貨を古臭い木製のレジの上に置いた。
木箱の引き出しが自動的に開いて銀貨を受け入れた。

ハリー、ロン、ハーマイオニーはバー・カウンターから一番離れたテーブルに引っ込み、腰掛けてあたりを見回した。
汚れた灰色の包帯男は、カウンターを拳でコツコツ叩き、バーテンからまた煙を上げた飲み物を受け取った。

「あのさあ」

うずうずとカウンターのほうを見ながらロンが呟いた。

「ここなら何でも好きなものを注文できるぞ。
あの爺さん、何でもおかまいなしに売ってくれるぜ。
ファイア・ウィスキーって、僕、一度試してみたかったんだ」

「あなたは、監――督――生です」

ハーマイオニーが唸った。

「あ――そうかあ……」

ロンの顔から笑いが消えた。

「じゃ、サクヤにもバタービールを買っていってやろうぜ。
ここのじゃないほうが――よさそうだけど――」

ロンはバタービールの錆びついた蓋をこじ開けるのに苦労していた。

「それで、誰が僕たちに会いにくるって言ったっけ?」

ハリーもなんとか蓋をこじ開け、ぐいっと飲みながら聞いた。

「ほんの数人よ」

ハーマイオニーは時計を確かめ、心配そうにドアのほうを見ながら、前と同じ答えを繰り返した。

「みんなに、だいたいこの時間にここに来るように言っておいたんだけど。
場所は知ってるはずだわ……あっ、ほら、いま来たかもよ」

パブのドアが開いた。
一瞬、埃っぽい陽の光が太い帯状に射し込み、部屋を2つに分断したが、次の瞬間、光の帯は、どやどやと入ってきた人影で遮られて消えた。

先頭に、ネビル、続いてディーンとラベンダー。
そのすぐ後ろにパーバティとパドマ・パチルの双子と、チョウが(ハリーの胃袋がでんぐり返った)いつもクスクス笑っている女学生仲間の1人を連れて入ってきた。
それから、(たった1人で、夢でも見ているような顔で、もしかしたら偶然迷い込んだのではないかと思わせる)ルーナ・ラブグッド。
そのあとは、ケイティ・ベル、アリシア・スピネット、アンジェリーナ・ジョンソン、コリンとデニスのクリービー兄弟、アーニー・マクミラン、ジャスティン・フィンチ-フレッチリー、ハンナ・アボット。
それからハリーが名前を知らないハッフルパフの女学生で、長い三つ編みを1本背中に垂らした子。
レイブンクローの男子生徒が3人、名前はたしか、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナー、テリー・ブートだ。
次はジニーと、そのすぐあとから鼻先がちょんと上向いたひょろひょろ背の高いブロンドの男の子。
ハリーは、はっきりとは憶えていないが、ハッフルパフのクィディッチ・チームの選手だと思った。
しんがりはジョージとフレッド・ウィーズリーの双子で、仲良しのリー・ジョーダンと一緒に、3人ともゾンコでの買物をぎゅうぎゅう詰め込んだ紙袋を持って入ってきた。

「数人?」

ハリーは嗄れた声でハーマイオニーに言った。

数人だって?

「ええ、そうね、この考えはとっても受けたみたい」

ハーマイオニーがうれしそうに言った。

「ロン、もう少し椅子を持ってきてくれない?」

バーテンは一度も洗ったことがないような汚らしいボロ布でコップを拭きながら、固まって動かなくなっていた。
このパブがこんなに満員になったのを見たのは初めてなのだろう。

「やあ」

フレッドが最初にバー・カウンターに行き、集まった人数を素早く数えながら注文した。

「じゃあ……バタービールを25本頼むよ」

バーテンはぎろりとフレッドをひと睨みすると、まるで大切な仕事を中断されたかのように、イライラしながらボロ布を放り出し、カウンターの下から埃だらけのバタービールを出しはじめた。

「乾杯だ」

フレッドはみんなに配りながら言った。

「みんな、金出せよ。
これ全部を払う金貨は持ち合わせちゃいないからな」

ペチャペチャとにぎやかな大集団が、フレッドからビールを受け取り、ローブをゴソゴソさせて小銭を探すのを、ハリーはぼーっと眺めていた。
いったいみんなが何のためにやって来たのか、ハリーには見当もつかなかったが、ふと、何か演説を期待して来たのではないかという恐ろしい考えに辿りつき、急にハーマイオニーのほうを見た。

「君はいったい、みんなに何て言ったんだ?」

ハリーは低い声で聞いた。

「いったい、みんな、何を期待してるんだ?」

「言ったでしょ。
みんな、あなたが言おうと思うことを聞きにきたのよ」

ハーマイオニーがなだめるように言った。
それでもハリーが怒ったように見つめていたので、ハーマイオニーが急いでつけ加えた。

「あなたはまだ何もしなくていいわ。まず私がみんなに話すから」

「やあ、ハリー」

ネビルがハリーの向かい側に座ってにっこりした。
ハリーは笑い返す努力はしたが、言葉は出てこなかった。口の中が異常に乾いていた。
ちょうどチョウもハリーに笑いかけ、ロンの右側に腰を下ろすところだった。
チョウの友達の赤みがかったブロンド巻き毛の女生徒は、にこりともせず、いかにも信用していないという目でハリーを見た。
本当はこんなところに来たくなかったのだと、その目がはっきり語っていた。

新しく到着した生徒がハリー、ロン、ハーマイオニーの周りに集まり、あちこちばらばらに座った。
興奮気味の目あり、興味津々の目あり、ルーナ・ラブグッドは夢見るように宙を見つめていた。
みんなに椅子が行き渡ると、おしゃべりがだんだん少なくなった。みんなの目がハリーに集まった。

「えー」

ハーマイオニーは緊張で、いつもより声が少し上ずっていた。

「それでは、――えー――こんにちは」

みんなが、今度はハーマイオニーのほうに注意を集中したが、目は時々ハリーのほうに走らせていた。

「さて……えーと……じゃあ、みなさん、なぜここに集まったか、わかっているでしょう。
えーと……じゃあ、ここにいるハリーの考えでは――(ハリーがハーマイオニーをきつい目で見た)
つまり、私の考えでは――いい考えだと思うんだけど、『闇の魔術に対する防衛術』を学びたい人が――つまり、アンブリッジが教えてるようなクズじゃなくて、本物を勉強したい人という意味だけど――」

ハーマイオニーの声が急に自信に満ち、力強くなった。

「――なぜなら、あの授業は誰が見ても『闇の魔術に対する防衛術』とは言えません――」

そうだそうだ、とアンソニー・ゴールドスタインが合いの手を入れ、ハーマイオニーは気をよくしたようだった。

「――それで、いい考えだと思うのですが、私は、ええと、この件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました」

ハーマイオニーはひと息ついてハリーを横目で見てから言葉を続けた。

「そして、つまりそれは、適切な自己防衛を学ぶということであり、単なる理論ではなく、本物の呪文を――」

「だけど、君は、『闇の魔術に対する防衛術』のOWLもパスしたいんだろ?」

マイケル・コーナーが言った。

「もちろんよ」

ハーマイオニーがすかさず答えた。

「だけど、それ以上に、私はきちんと自分の身や大事なひとを護れるように、訓練を受けたいの。なぜなら……なぜなら……」

ハーマイオニーは大きく息を吸い込んで最後の言葉を言った。

「なぜならヴォルデモート卿が戻ってきたからです」

たちまち予想どおりの反応があった。
チョウの友達は金切り声をあげ、バタービールをこぼして自分の服に引っかけた。
テリー・ブートは思わずびくりと痙攣し、パドマ・パチルは身震いし、ネビルはヒエッと奇声を発しかけたが、咳をしてなんとかごまかした。
しかし、全員がますますらんらんとした目でハリーを見つめた。



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