The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




ハリーはホグズミード行きの週末を楽しみにして過ごしたが、1つだけ気になることがあった。
9月の初めに暖炉の火の中に現れて以来、シリウスが石のように沈黙していることだ。
来ないでほしいと言ったことでシリウスを怒らせてしまったのはわかっていた――しかし、シリウスが慎重さをかなぐり捨てて来てしまうのではないかと、時々心配になった。
ホグズミードで、もしかしてドラコ・マルフォイの目の前で、黒い犬がハリーたちに向かって駆けてきたらどうしよう?

「シリウスが外に出て動き回りたいっていう気持ちは痛いほどよく分かる。
でも、大丈夫だよハリー。この沈黙のなか、シリウスは心の中で戦ってるんだ」

3人に心配事を相談すると、サクヤが深く頷いた。
サクヤの言葉が、なんだかとても説得力に満ちていたのはきっと、夏休みのあいだ、サクヤ自身も葛藤と戦ってきたのだろう。
ハリーはそう感じた。
彼女はもう1年半もホグワーツからまともに出られていないのだ。

それから、ロンが口を開いた。

「シリウスは2年以上も逃亡生活だったろ?そりゃ、笑い事じゃなかったのはわかるよ。
でも、少なくとも自由だったじゃないか?
ところがいまは、あのぞっとするようなしもべ妖精と一緒に閉じ込められっぱなしだ」

「問題は」

ハーマイオニーはロンを睨んだが、サクヤが口を挟み、クリーチャーを侮辱したことについてのそれ以上の追及を阻んだ。

「ヴォルデモートが――ロン、もうそんな顔するのやめろよ――表に出てくるまでは、シリウスは隠れていなきゃいけないってことだ。
つまり、バカで間抜けな魔法省が、ダンブルドアがシリウスについて語っていたことが真実だと受け入れないと、シリウスの無実に気づかないわけ。
あの連中がもう一度本当の『死喰い人』を逮捕しはじめれば、シリウスが『死喰い人』じゃないってことが明白になるはずだ……だって、第一、シリウスには『闇の印』がないんだし」

「のこのこ現れるほど、シリウスはバカじゃないと思うよ」

ロンが元気づけるように言った。

「そんなことしたら、ダンブルドアがカンカンだし、シリウスはダンブルドアの言うことが気に入らなくても、聞き入れるよ」

ハリーがまだ心配そうなので、ハーマイオニーが言った。

「あのね、サクヤと2人で、まともな『闇の魔術に対する防衛術』を学びたいだろうと思われる人に打診して回ったら、興味を持った人が数人いたわ。
その人たちに、ホグズミードで会いましょうって、伝えたの」

「そう」

ハリーはまだシリウスのことを考えながら曖昧な返事をした。

「心配しないことよ、ハリー」

ハーマイオニーが静かに言った。

「シリウスのことがなくたって、あなたはもう手いっぱいなんだから」

たしかにハーマイオニーの言うとおりだった。
宿題はやっとのことで追いついている始末だ。
もっとも、アンブリッジの罰則で毎晩時間を取られることがなくなったので、前よりはずっとよかった。
ロンはハリーよりも宿題が遅れていた。
ハリーとサクヤに加え、ロンも週2回のクィディッチの練習がある上、ロンにはさらに監督生としての任務があった。
ハーマイオニーは他の3人よりもたくさんの授業を取っていたのに、宿題を全部すませていたし、しもべ妖精の洋服を編む時間まで作っていた。
編み物の腕が上がったと、ハリーも認めざるをえなかった。
いまでは、ほとんど全部、帽子とソックスとの見分けがつくところまできていた。
サクヤはハリーと同じようにやっとのことで宿題をこなす日々だったが、二度目の罰則を終えて以降は、かなり時間的余裕ができたようだった。
少なくとも、ハーマイオニーの宿題をこなす速度に食らいついていたし、週末のスネイプの特別訓練へは、寝不足も補い毎週万全の状態で向かっていた。

にも関わらず、サクヤの「閉心術」習得はなかなか難航していた。
スネイプ曰く特訓は滞りないそうだが、ついにホグズミード行きの日に習得を間に合わせることができなかった。
当日は、明るい、風の強い朝で始まった。
爽やかな気候とは裏腹に、がっくりと項垂れ、心底落ち込むサクヤに3人は心から同情したし、ハリーやロンはマクゴナガル先生になんとか同行させてやることはできないかと直談判した。
ハーマイオニーもそうしたかったのは山々だったのだが、事情が事情であることも身に染みてよく分かっていた。
サクヤがホグズミードに行かないことが目立たないよう、グリフィンドール塔で見送ることにした際には、ぎゅっと強く抱きしめていた。

「それじゃあ、あのことお願いね」

「まかせて」

ハリーとロンが見ているなか、ハーマイオニーとサクヤがこっそりそう話すのが聞こえた。
サクヤと別れたあと、ハーマイオニーに何のことを話していたのか聞いたが、「あとで分かるわ」と言うだけだった。

朝食のあと、行列してフィルチの前を通り、フィルチは、両親か保護者に村の訪問を許可された生徒の長いリストと照らし合わせて生徒をチェックした。
シリウスがいなかったら、村に行くことさえできなかったことを思い出し、ハリーは胸がちくりと痛んだ。

ハリーがフィルチの前に来ると、怪しげな気配を嗅ぎ出そうとするかのように、フィルチがフンフンと鼻の穴を膨らませた。
それからこくっと頷き、その拍子にまた顎をわなわな震わせはじめた。
ハリーはそのまま石段を下り、外に出た。陽射しは明るいが寒い日だった。

「あのさ――フィルチのやつ、どうして君のことフンフンしてたんだ?」

校門に向かう広い馬車道を3人で歩きながら、ロンが聞いた。
城へ振り返ると、グリフィンドール塔の窓から小さな人影が手を振っていた。きっとサクヤだろう。

「糞爆弾の臭いがするかどうか調べてたんだろう」

3人は後ろ歩きしながら、見えなくなるまで手を振り返した。
それから、ハリーはフフッと笑った。

「言うの忘れてたけど……」

ハリーはシリウスに手紙を送ったこと、そのすぐあとでフィルチが飛び込んできて、手紙を見せろと迫ったことを話して聞かせた。
ハーマイオニーはその話に興味を持ち、しかもハリー自身よりずっと強い関心を示したのはちょっと驚きだった。

「あなたが糞爆弾を注文したと、誰かが告げ口したって、フィルチがそう言ったの?でも、いったい誰が?」

「さあ」

ハリーは肩をすくめた。

「マルフォイかな。おもしろいことになると思ったんだろ」

3人は羽の生えたイノシシが載っている高い石柱の間を通り、村に向かう道を左に折れた。
風で髪が乱れ、バラバラと目に掛かった。

「マルフォイ?」

ハーマイオニーが疑わしそうな顔をした。

「うーん……そう……そうかもね……」

それからホグズミードのすぐ外に着くまで、ハーマイオニーは何かじっと考え込んでいた。

「ところで、どこに行くんだい?」

ハリーが聞いた。

「『3本の箒』?」

「あ――ううん」

ハーマイオニーは我に返って言った。

「違う。
あそこはいつも一杯で、とっても騒がしいし。
みんなに、『ホッグズ・ヘッド』に集まるように言ったの。ほら、もう1つのパブ、知ってるでしょ。
表通りには面してないし、あそこはちょっとほら……胡散臭いわ……でも生徒は普通あそこには行かないから、盗み聞きされることもないと思うの」

3人は大通りを歩いて「ゾンコの魔法悪戯専門店」の前を通り――当然そこには、フレッド、ジョージ、リーがいた――郵便局の前を過ぎ――そこからはふくろうが定期的に飛び立っている――そして横道に入った。
その道のどん詰まりには小さな旅籠が建っている。
ドアの上に張り出した錆びついた腕木に、ボロボロの木の看板が掛かっていた。
ちょん切られたイノシシの首が、周囲の白布を血に染めている絵が描いてある。
3人が近づくと、看板が風に吹かれてキーキーと音を立てた。3人ともドアの前でためらった。

「さあ、行きましょうか」

ハーマイオニーが少しおどおどしながら言った。
ハリーが先頭に立って中に入った。

「3本の箒」とはまるで違っていた。
あそこの広々したバーは、輝くように暖かく清潔な印象だが、「ホッグズ・ヘッド」のバーは、小さくみすぼらしい、ひどく汚い部屋で、ヤギのようなきつい臭いがした。
窓はべっとり媒けて、陽の光が中までほとんど射し込まない。
代わりに、ざらざらした木のテーブルで、ちびた蝋燭が部屋を照らしていた。
床は一見、土を踏み固めた土間のように見えたが、ハリーが歩いてみると、実は、何世紀も積もり積もった埃が石床を覆っていることがわかった。

1年生のときに、ハグリッドがこのパブの話をしたことを、ハリーは思い出した。

「『ホッグズ・ヘッド』なんてとこにゃ、おかしなやつがうようよしてる」

そのパブで、フードを被った見知らぬよそ者からドラゴンの卵を賭けで勝ち取ったと説明してくれたときに、ハグリッドがそう言った。
あのときハリーは、会っているあいだ中ずっと顔を隠しているようなよそ者を、ハグリッドがなぜ怪しまなかったのかと不思議に思っていたが、ホッグズ・ヘッドでは顔を隠すのが流行りなのだと初めてわかった。
バーには首から上全部を汚らしい灰色の包帯でぐるぐる巻きにしている男がいた。
それでも、口を覆った包帯の隙間から、何やら火のように煙を上げる液体を立て続けに飲んでいた。
窓際のテーブルの1つに、すっぽりフードを被ったひと組が座っていた。
強いヨークシャー訛りで話していなかったら、ハリーはこの2人が「吸魂鬼」だと思ったかもしれない。
暖炉脇の薄暗い一角には、爪先まで分厚い黒いベールに身を包んだ魔女がいた。
ベールが少し突き出しているので、かろうじて魔女の鼻の位置だけは分かった。

「ほんとにここでよかったのかなあ、ハーマイオニー」

カウンターのほうに向かいながら、ハリーが呟いた。
ハリーはとくに分厚いベールの魔女を見ていた。

「もしかしたら、あのベールの下はアンブリッジかもしれないって、そんな気がしないか?」

ハーマイオニーはベール姿を探るように見た。

「アンブリッジはもっと背が低いわ」

ハーマイオニーが落ち着いて言った。

「それにハリー、たとえアンブリッジがここに来ても、私たちを止めることはできないわよ。
なぜって、私、校則を2回も3回も調べたけど、ここは立ち入り禁止じゃないわ。
生徒がホッグズ・ヘッドに入ってもいいかどうかって、フリットウィック先生にもわざわざ確かめたの。
そしたら、いいっておっしゃったわ。ただし、自分のコップを持参しなさいって強く忠告されたけど。
それに、勉強の会とか宿題の会とか、考えられるかぎりすべて調べたけど、全部間違いなく許可されているわ。
私たちがやっていることを派手に見せびらかすのは、あまりいいとは思わないけど」

「そりゃそうだろ」

ハリーはさらりと言った。

「とくに、君が計画してるのは、宿題の会なんてものじゃないからね」



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