The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
「どういうこと?」
「あのさ、僕、自信がなくなったよ。
こんなに血の巡りの悪いやつに教えてもらうべきかな」
ロンが、ニヤニヤしながらハーマイオニーにそう言うと、ハリーのほうを見た。
「どういうことかなぁ」
ロンはゴイルが必死に考えるような表情を作ってサクヤを笑わせた。
「うう……1年生――君は『例のあの人』からサクヤと『賢者の石』を救った」
「だけど、あれは運がよかったんだ」
ハリーが言った。
「技とかじゃないし――」
「2年生」
ロンが途中で遮った。
「君はサクヤと協力してバジリスクをやっつけ、リドルを滅ぼした」
「うん。でもフォークスが現れなかったら、僕たち――」
「3年生」
ロンが一段と声を張りあげた。
「君は100人以上の吸魂鬼からサクヤとハーマイオニー、シリウスを庇い、一度に追い払った」
「あれは、だって、まぐれだよ。
それに、あれだってサクヤと協力した――そもそも、もし『逆転時計』がなかったら――」
「去年」
ロンはいまや叫ぶような声だ。
「君は
またしても『例のあの人』を撃退した」
「こっちの言うことを聞けよ!」
今度はロンもハーマイオニーまでもニヤニヤしているので、ハリーはほとんど怒ったように言った。
クルックシャンクスが諫めるようにシャーッと鳴くのを、サクヤが黙ってなだめすかしていた。
「黙って聞けよ。
いいかい?そんな言い方をすれば、なんだかすごいことに聞こえるけど、みんな運がよかっただけなんだ――半分ぐらいは、自分が何をやっているかわからなかった。
どれ1つとして計画的にやったわけじゃない。たまたま思いついたことをやっただけだ。
それに、ほとんどいつも、サクヤにも、他の何かにも助けられたし――」
ロンもハーマイオニーも相変わらずニヤニヤしているので、ハリーは自分がまた癇癪を起こしそうになっているのに気づいた。
なぜそんなに腹が立つのか、自分でもよくわからなかった。
「わかったような顔をしてニヤニヤするのはやめてくれ。その場にいたのは僕とサクヤだけなんだ」
ハリーは熱くなった。
「いいか?何が起こったかを知ってるのは僕たちだ。
それに、どの場合でも、僕が、『闇の魔術に対する防衛術』がすばらしかったから切り抜けられたんじゃない。
なんとか切り抜けられたのは、サクヤがいたからだし、それでもまずい状況ばかりで――そういうときに、ちょうど必要なときに、助けが現れて、それで、僕の山勘が当たったからなんだ――だけど、ぜんぶ闇雲に切り抜けたんだ。
自分が何をやったかなんて、これっぽっちもわかってなかった――
ニヤニヤするのはやめろってば!」
ハリーの膝が机にぶつかり、サクヤの手を浸していたマートラップ液のボウルが床に落ちて割れた。
ハリーは、自分が立ち上がっていたことに気づいたが、いつ立ち上がったか覚えがなかった。
クルックシャンクスはさっとソファーの下に逃げ込み、ロンとハーマイオニーの笑いが吹き飛んだ。
サクヤはぶり返してくる傷の痛みを気にせず、今まで経験してきた危機を思い出すような目で、暖炉の火を見つめているだけだった。
「
ロンもハーマイオニーも、君たちはわかっちゃいない!君たちは――どっちもだ――あいつと正面きって対決したことなんかないじゃないか。
まるで授業なんかでやるみたいに、ごっそり呪文を覚えて、あいつに向かって投げつければいいなんて考えてるんだろう?
ほんとにその場になったら、自分と死との間に、防いでくれるものなんか何にもない。
――自分の頭と、肝っ玉と、そういうものしか――ほんの一瞬しかないんだ。
殺されるか、拷問されるか、友達が死ぬのを見せつけられるか、そんな中で、まともに考えられるもんか――授業でそんなことを教えてくれたことはない。そんな状況にどう立ち向かうかなんて。
それなのに、君たちはのんきなもんだ。
まるで僕がこうして生きているのは賢い子だったからみたいに。ディゴリーはバカだったからしくじったみたいに――君たちはわかっちゃいない。
紙一重で僕やサクヤが殺られてたかもしれないんだ。
ヴォルデモートが僕たちを必要としてなかったら、そうなっていたかもしれないんだ――なあ、そうだろう?サクヤ」
ハリーが、暖炉を見つめるサクヤへ振り返ると、サクヤはまた黙って、少し目線を落とし、そしてこっくり頷いた。
「なあ、おい、僕たちは何もそんなつもりで」
ロンは仰天していた。
「何もディゴリーをコケにするなんて、そんなつもりは――君、思い違いだよ――」
ロンは助けを求めるようにハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーは自分の感情の昂りに打ちのめされたような顔をしていた。
「ハリー」
ハーマイオニーがおずおずと言った。
「わからないの?だから……だからこそ私たちにはあなたとサクヤが必要なの……私たち、知る必要があるの。
ほ、本当はどういうことなのかって……あの人と直面するってことが……ヴォ、ヴォルデモートと」
ハーマイオニーが、ヴォルデモートと名前を口にしたのは初めてだった。
そのことが、他の何よりも、ハリーの気持ちを落ち着かせた。
サクヤがなんとも言えないような表情でハーマイオニーを見つめている。
息を荒らげたままだったが、ハリーはまた椅子に座った。
そのとき初めて、サクヤの手を癒してくれるマートラップ液をボウルごと取り上げてしまった後悔がやってきた。
「ねえ……考えてみてね」
ハーマイオニーが静かに言った。
「いい?」
ハリーはなんと答えていいかわからなかった。
爆発してしまったことをすでに恥ずかしく思っていた。
ハリーは頷いたが、いったい何に同意したのかよくわからなかった。
ハーマイオニーがサクヤを促しながら立ち上がった。
「じゃ、私たちは寝室に行くわ」
できるだけ普通の声で話そうと努力しているのが明らかだった。
「オレは――それでも、いい案だと思ってるよ。
それじゃ、おやすみ」
サクヤが静かに言った。
ハリーはパッと振り返って、「マートラップ液を落としてごめん」と謝った。
サクヤは気にしてないように手を振って、ハーマイオニーと共に階段を上っていった。
ロンも立ち上がった。
「僕たちも行こうか?」
ロンがぎごちなくハリーを誘った。
「うん……」
ハリーが答えた。
「すぐ……行くよ。これを片づけて」
ハリーは床に散らばったボウルを指差した。
ロンは頷いて立ち去った。
「レパロ、直せ」
ハリーは壊れた陶器の欠けらに杖を向けて呟いた。
欠けらは飛び上がってくっつきあい、新品同様になったが、マートラップ液がボウルに戻ることはなかった。
どっと疲れが出て、ハリーはそのまま肘掛椅子に埋もれて眠りたいと思った。
やっとの思いで立ち上がると、ハリーはロンの通っていった階段を上った。
浅い眠りが、またもや何度もあの夢で妨げられた。いくつもの長い廊下と鍵の掛かった扉だ。
翌朝目が覚めると、傷痕がまたちくちく痛んでいた。
>>To be continued
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