The founder of orphan X
-総受男装ハーマイオニー百合夢-
バーノン叔父さんが口を開き、口を閉じ、もう一度開いて、閉じた。
まるでどうやって話すのかを思い出すのに四苦八苦しているかのように、三度目に口を開いて、嗄れ声を出した。
「それじゃ――じゃ――そいつらは――えー――そいつらは――あー――本当にいるのだな――えー――キューコンなんとかは?」
ペチュニア叔母さんが頷いた。
バーノン叔父さんは、ペチュニア叔母さんからダドリー、そしてハリーと順に見た。
まるで、誰かが、「エイプリルフール!」と叫ぶのを期待しているかのようだ。誰も叫ばない。
そこでもう一度口を開いた。
しかし、続きの言葉を探す苦労をせずにすんだ。
今夜3羽目のふくろうが到着したのだ。
まだ開いたままになっていた窓から、羽の生えた砲弾のように飛び込んできて、キッチン・テーブルの上にカタカタと音を立てて降り立った。
ダーズリー親子3人が怯えて飛び上がった。
ハリーは、2通目の公式文書風の封筒を、ふくろうの嘴からもぎ取った。
ビリビリ開封している間に、ふくろうはスイーッと夜空に戻っていった。
「たくさんだ――くそ――
ふくろうめ」
バーノン叔父さんは気を削がれたようにブツブツ言うと、ドスドスと窓際まで行って、もう一度ぴしゃりと窓を閉めた。
ポッター殿
約22分前の当方からの手紙に引き続き、魔法省は、貴殿の杖を破壊する決定を直ちに変更した。 貴殿は、8月12日に開廷される懲戒尋問まで、杖を保持してよろしい。公式決定は当日下されることになる。
ホグワーツ魔法魔術学校校長との話し合いの結果、魔法省は、貴殿の退学の件についても当日決定することに同意した。 したがって、貴殿は、更なる尋問まで停学処分であると理解されたし。
貴殿のご多幸をお祈りいたします。 敬具
魔法不適正使用取結局 マファルダ・ホップカーク
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ハリーは手紙を立て続けに三度読んだ。
まだ完全には退学になっていないと知って、胸につかえていた惨めさが少し緩んだ。
しかし、恐れが消え去ったわけではない。
どうやら8月12日の尋問にすべてがかかっている。
「それで?」
バーノン叔父さんの声で、ハリーはいまの状況を思い出した。
「こんどは何だ?何か判決が出たか?ところでおまえらに、死刑はあるのか?」
叔父さんはいいことを思いついたとばかり言葉をつけ加えた。
「尋問に行かなきゃならない」
ハリーが言った。
「そこでおまえの判決が出るのか?」
「そうだと思う」
「それでは、まだ望みを捨てずにおこう」
バーノン叔父さんは意地悪く言った。
「じゃ、もういいね」
ハリーは立ち上がった。独りになりたくて堪らなかった。考えたい。
それに、サクヤと、ロンやハーマイオニー、そしてシリウスに手紙を送ったらどうだろう。
「
だめだ、それでもういいはずがなかろう!」
バーノン叔父さんが喚いた。
「
座るんだ!」
「
今度は何なの?」
ハリーはイライラしていた。
「
ダドリーだ!」
バーノン叔父さんが吠えた。
「息子に何が起こったのか、はっきり知りたい」
「
いいとも!」
ハリーも叫んだ。
腹が立って、手に持ったままの杖の先から、赤や金色の火花が散った。
ダーズリー親子3人が、恐怖の表情で後退りした。
「ダドリーは僕と、マグノリア・クレセント通りとウィステリア・ウォークを結ぶ路地にいた」
ハリーは必死で癇癪を抑えつけながら、早口で話した。
「ダドリーが僕をやり込めようとした。僕が杖を抜いた。でも使わなかった。
そしたら吸魂鬼が2人現れて――」
「しかし、いったい
何なんだ?そのキューコントイドは?」
バーノン叔父さんが、カッカしながら聞いた。
「そいつら、いったい
何をするんだ?」
「さっき、言ったよ――幸福感を全部吸い取っていくんだ」
ハリーが答えた。
「そして、機会があれば、キスする――」
「キスだと?」
バーノン叔父さんの目が少し飛び出した。
「
キスするだと?」
「そう呼んでるんだ。口から魂を吸い取ることを」
ペチュニア叔母さんが小さく悲鳴をあげた。
「この子の
魂?取ってないわ――まだちゃんと持って――?」
叔母さんはダドリーの肩をつかみ、揺り動かした。
まるで、魂がダドリーの体の中でカタカタ音を立てるのが聞こえるかどうか、試しているようだった。
「もちろん、あいつらはダドリーの魂を取らなかった。取ってたらすぐわかる」
ハリーはイライラを募らせていた。
「追っ払ったんだな?え、坊主?」
バーノン叔父さんが声高に言った。何とかして話を自分の理解できる次元に持っていこうと奮闘している様子だ。
「パンチを食らわしたわけだ。そうだな?」
「吸魂鬼に
パンチなんて効かない」
ハリーは歯軋りしながら言った。
「それなら、いったいどうして息子は無事なんだ?」
バーノン叔父さんが怒鳴りつけた。
「それなら、どうして息子はもぬけの殻にならなかった?」
「僕が守護霊を使ったから――」
シューッ。カタカタという音、羽ばたき、パラパラ落ちる埃とともに、4羽目のふくろうが暖炉から飛び出した。
「
なんたることだ!」
喚き声とともに、バーノン叔父さんは口ひげをごっそり引き抜いた。
ここしばらく、そこまで追い詰められることはなかったのだが。
「
ここにふくろうは入れんぞ!こんなことは許さん。わかったか!」
しかし、ハリーはすでにふくろうの脚から羊皮紙の巻紙を引っ張り取っていた。
ダンブルドアからの、すべてを説明する手紙に違いない――吸魂鬼、フィッグばあさん、魔法省の意図、ダンブルドアがすべてをどう処理するつもりなのかなど――そう強く信じていただけに、シリウスの筆跡を見てハリーはがっかりした。
そんなことはこれまで一度もなかったのだが。
ふくろうのことで喚き続けるバーノン叔父さんを尻目に、いま来たふくろうが煙突に戻るとき巻き上げたもうもうたる埃に目を細めて、ハリーはシリウスの手紙を読んだ。
アーサーが、何が起こったのかを、いま、みんなに話してくれた。 何があろうと決して家を離れてはいけない。
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これだけいろいろな出来事が今夜起こったというのに、その回答がこの手紙じゃ、あまりにもお粗末じゃないか、とハリーは思った。
そして、羊皮紙を裏返し、続きはないかと探した。しかし何もない。
ハリーはまた癇癪玉が膨らんできた。
2体の吸魂鬼をたった1人で追い払ったのに、誰も「よくやった」って言わないのか?
ウィーズリーおじさんもシリウスも、まるでハリーが悪さをしたかのような反応で、被害がどのくらいかを確認するまでは、ハリーへの小言もお預けだとでも言わんばかりだ。
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