The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




その夜、サクヤがアンブリッジの部屋を出たのは、真夜中近くだった。
手の出血がひどくなり、形見のアームガードをまた血に染めていた。
寮に戻ったとき、談話室には誰もいないだろうと思っていたが、ハリーとロン、ハーマイオニーが起きて待っていてくれた。
サクヤは3人の顔を見れて嬉しかったし、サクヤの無事な顔を見てほっとしたようなハーマイオニーの笑顔がことさらに嬉しかった。

「ほら」

ハーマイオニーが傷の具合を見ると、心配そうに黄色い液体の入った小さなボウルを差し出した。

「手をこの中に浸すといいわ。マートラップの触手を裏ごしして酢に漬けた溶液よ。
いつでも作れるように、マダム・ポンフリーに聞いておいたの。楽になるはずよ」

サクヤは血が出てズキズキする手をボウルに浸し、すーっと癒される心地よさを感じた。
クルックシャンクスがサクヤの両足を回り込み、ゴロゴロと喉を鳴らし、膝に飛び乗ってそこに座り込んだ。

「ありがとう、ハル」

サクヤは右手でクルックシャンクスの耳の後ろをカリカリ掻きながら、感謝を込めて言った。

「マートラップの触手液は作るの簡単?あとで教えてよ」

「僕、やっぱりこのことで苦情を言うべきだと思うけどな」

ハーマイオニーが頷いたとき、ロンが低い声で言った。

「これを知ったら、マクゴナガルは怒り狂うぜ――」

「きっと、そうするだろうけど――」

サクヤが頷きながら渋っていると、ハリーが考えながら言った。

「――けど、アンブリッジが次のなんとか令を出して、高等尋問官に苦情を申し立てる者は直ちにクビにするって言うまで、どのくらいかかると思う?」

ロンは言い返そうと口を開いたが、何も言葉が出てこなかった。
しばらくすると、ロンは、降参して口を閉じた。

「あの人はひどい女よ」

ハーマイオニーが低い声で言った。

「とんでもなくひどい人だわ。
あのね、あなたが入ってきたときちょうどハリーやロンと話してたんだけど……私たち、あの女に対して、何かしなきゃいけないわ」

「僕は、毒を盛れって言ったんだ」

ロンが厳しい顔で言った。

「僕はウィーズリー製品をくれてやれって言った」

ハリーが言った。

「そうじゃなくて……つまり、アンブリッジが教師として最低だってこと。
あの先生からは、私たち、防衛なんて何にも学べやしないってことなの」

ハーマイオニーが言った。

「だけど、それについちゃ、僕たちに何ができるって言うんだ?」

サクヤが黙って聞いていると、ロンが欠伸をしながら言った。

「手遅れだろ?あいつは先生になったんだし、居座るんだ。ファッジがそうさせるに決まってる」

「あのね」

ハーマイオニーがためらいがちに言った。

「ねえ、私、先週から考えていたんだけど……」

ハーマイオニーが少し不安げにハリーをちらりと見て、それから思いきって言葉を続けた。

「考えていたんだけど――そろそろ潮時じゃないかしら。
むしろ――むしろ自分たちでやるのよ」

「自分たちで何をするんだい?」

ちらりと見られたハリーが怪訝そうに聞いた。
サクヤも手をマートラップ触手液に泳がせたまま、ハーマイオニーが話の核心を突くのを待った。

「あのね――『闇の魔術に対する防衛術』を自習するの」

ハーマイオニーが言った。

「いい加減にしろよ」

ロンが呻いた。

「この上まだ勉強させるのか?
君たちはいいだろうけど、ハリーも僕も、また宿題が溜まってるってこと知らないのかい?しかも、まだ2週目だぜ」

「でも、これは宿題よりずっと大切よ!」

ハーマイオニーが言った。
ハリーとロンは目を丸くしてハーマイオニーを見た。

「この宇宙に、宿題よりもっと大切なものがあるなんて思わなかったぜ!」

ロンが言った。

「バカなこと言わないで。もちろんあるわ」

ハーマイオニーが言った。
いま突然ハーマイオニーの顔は、SPEWの話をするときにいつも見せる、迸るような情熱で輝きをみせた。
ハリーはなんだかまずいぞと思った。

「その言い方からして、何か具体的な案を思いついたみたいだな」

話を聞く姿勢をとったサクヤが口を開いた。
促されたハーマイオニーは、頷いて言葉を続けた。

「ええ、もちろんよサクヤ。
私が言いたいのは、自分を鍛えるってことよ。
サクヤやハリーが最初のアンブリッジの授業で言ったように、外の世界で待ち受けているものに対して準備をするのよ。
それは、私たちが確実に自己防衛できるようにするということなの。
もしこの1年間、私たちが何にも学ばなかったら――」

「僕たちだけじゃ大したことはできないよ」

ロンが諦めきったように言った。

「つまり、まあ、図書館に行って呪いを探し出したり、それを試してみたり、練習したりはできるだろうけどさ――」

「たしかにそうね。
私も、本からだけ学ぶという段階は通り越してしまったと思うわ」

ハーマイオニーが言った。

「私たちに必要なのは、先生よ。ちゃんとした先生。
呪文の使い方を教えてくれて、間違ったら直してくれる先生」

「リーマスのこと?」

サクヤが尋ねた。

「ううん、違う。ルーピンのことを言ってるんじゃないの」

ハーマイオニーは首を振った。

「ルーピンは騎士団のことで忙しすぎるわ。
それに、どっちみちホグズミードに行く週末ぐらいしかルーピンに会えないし、そうなると、とても十分な回数とは言えないわ」

「じゃ、誰なんだ?」

ハリーはハーマイオニーに向かってしかめっ面した。
ハーマイオニーは大きなため息をひとつ吐いた。

「わからない?」

ハーマイオニーが言った。

「私、あなたのことを言ってるのよ、ハリー。
それに、サクヤも」

一瞬、沈黙が流れた。
夜のそよ風が、ロンの背後の窓ガラスをカタカタ鳴らし、暖炉の火をちらつかせた。
ハリーは意図が分からず、一緒に名前を連ねられたサクヤをちらりと見たが、サクヤは少しだけ驚いたような顔をして、ハリーを見つめ返すだけだった。

「僕の何のことを?」

ハリーが言った。

あなたたちが『闇の魔術に対する防衛術』を教えるって言ってるの」

ハリーはハーマイオニーをじっと見た。それからロンを見た。
ハーマイオニーが、たとえばSPEWのように突拍子もない計画を説明しはじめたときに、呆れ果ててロンと目を見交わすことがあるが、今度もそうだろうと思っていた。
ところが、ロンが呆れ顔をしていなかったので、ハリーは度肝を抜かれた。
ロンは顔をしかめていたが、明らかに考えていた。
それからロンが言った。

「そいつはいいや」

「何がいいんだ?」

ハリーが言った。

「君たちが」

ロンが言った。

「僕たちにそいつを教えるってことがさ」

「だって……ねえ、サクヤも賛成したの?こんなこと――」

ハリーはニヤッとしてサクヤを見た。
ロンとハーマイオニーが――もしかしたらサクヤも一緒になって――3人でハリーをからかっているに違いない。

「草案ってやつをハルから聞いてただけだ。具体的なことはいま初めて聞いたけど……。
でも、オレも、みんなに教えるってよりは、みんなで学び合うって意味なら、いいなと思うよ」

サクヤが微笑んだ。

「じゃあ――じゃあ、サクヤから学ぼう。うん、それがいい。僕も教えてもらう側に――」

「いいえ、ハリー。あなたに習いたいのよ、私たち」

ハーマイオニーが遮った。
ハリーはまだからかわれている気持ちで、思わず半笑いになっていた。

「だって、そりゃ、サクヤはそういうの、できるかもしれないけど……、僕は――僕は先生じゃないし、そんなこと僕には……」

「ハリー、あなたは『闇の魔術に対する防衛術』で、学年のトップだったわ」

「僕が?」

ハリーはますますニヤッとした。

「違うよ。どんなテストでも僕は君にかなわなかった――」

「実は、そうじゃないの」

ハーマイオニーが冷静に言った。

「3年生のとき、あなたは私に勝ったわ――あの年に初めてこの科目のことがよくわかった先生に習って、しかも初めて2人とも同じテストを受けたわ。
でも、ハリー、私が言ってるのはテストの結果じゃないの。
あなたがこれまでやって来たことを考えて!」



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