The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




4人が次の授業の「変身術」の教室に入ると、アンブリッジ先生がクリップボードと対になって隅に座っていた。

「いいぞ」

みんながいつもの席に着くや否や、意気揚々とロンが囁いた。

「アンブリッジがやっつけられるのを見てやろう」

マクゴナガル先生は、アンブリッジ先生がそこにいることなど、まったく意に介さない様子で、すたすたと教室に入ってきた。
「静かに」のひと言で、たちまち教室がしんとなった。

「ミスター・フィネガン、こちらに来て、宿題をみんなに返してください。
ミス・ブラウン、ネズミの箱を取りにきてください――バカな真似はおよしなさい。噛みついたりしません――1人に1匹ずつ配って――」

ェヘン、ェヘン

アンブリッジ先生は、今学期の最初の夜にダンブルドアの話を中断したときと同じように、バカバカしい咳払いという手段を取った。
マクゴナガル先生はそれを無視した。
シェーマスが宿題をハリーに返した。
ハリーはシェーマスの顔を見ずに受け取り、点数を見てほっとした。なんとか「A」が取れていた。

「さて、それでは、よく聞いてください――ディーン・トーマス、ネズミに二度とそんなことをしたら、罰則ですよ――
カタツムリを『消失』させるのは、ほとんどのみなさんができるようになりましたし、まだ殻の一部が残ったままの生徒も、呪文の要領は呑み込めたようです。今日の授業では――」

ェヘン、ェヘン

アンブリッジ先生だ。

何か?

マクゴナガル先生が顔を向けた。
眉と眉がくっついて、長く厳しい一直線を描いていた。

「先生、わたくしのメモが届いているかどうかと思いまして。先生の査察の日時を――」

「当然受け取っております。
さもなければ、私の授業に何の用があるかとお尋ねしていたはずです」

そう言うなり、マクゴナガル先生は、アンブリッジ先生にきっぱりと背を向けた。生徒の多くが歓喜の目を見交わした。

「先ほど言いかけていたように、今日はそれよりずっと難しい、ネズミを消失させる練習をします。さて、『消失呪文』は……」

ェヘン、ェヘン

「いったい」

マクゴナガル先生はアンブリッジ先生に向かって冷たい怒りを放った。

「そのように中断ばかりなさって、私の通常の教授法がどんなものか、おわかりになるのですか?
いいですか。私は通常、自分が話しているときに私語は許しません」

アンブリッジ先生は横面を張られたような顔をして、ひと言も言わず、クリップボードの上で羊皮紙をまっすぐに伸ばし、猛烈に書き込みはじめた。
そんなことは歯牙にもかけない様子で、マクゴナガル先生は再びクラスに向かって話しはじめた。

「先ほど言いかけましたように、『消失呪文』は、『消失』させる動物が複雑なほど難しくなります。
カタツムリは無脊椎動物で、それほど大きな課題ではありませんが、ネズミは哺乳類で、ずっと難しくなります。
ですから、この課題は、夕食のことを考えながらかけられるような魔法ではありません。
さあ――唱え方は知っているはずです。どのぐらいできるか、拝見しましょう……」

「アンブリッジに癇癪を起こすな、なんて、よく僕に説教できるな!」

声をひそめてサクヤにそう言いながら、ハリーの顔がニヤッと笑っていた。
サクヤはアンブリッジ先生を黙らせたマクゴナガル先生を称賛の目で見つめ、生徒の身分でもどうにか真似できる部分はないかと探そうとしたが、それよりも今は「消失呪文」に集中するべきだと思いなおした。
マクゴナガル先生の言う通り、しっかり意識を集中してネズミに「消失呪文」をかけても、カタツムリで成功させたときの感覚だけでは十分に「消失」させることができなかったのだ。

アンブリッジ先生はトレローニー先生のときと違い、マクゴナガル先生についてクラスを回るようなことはしなかった。
マクゴナガル先生が許さないだろうと悟ったのかもしれない。
その代わり、隅に座ったまま、より多くのメモを取った。
最後にマクゴナガル先生が、生徒全員に教材を片づけるように指示したとき、アンブリッジ先生は厳めしい表情で立ち上がった。

「まあ、差し当たり、こんなできでいいか」

ゴニョゴニョ動く長い尻尾だけが残ったネズミを摘み上げ、ラベンダーが回収のために持って回っている箱にポトンと落としながら、ロンが言った。
教室から出ていく生徒の列に加わりながら、ハリーはアンブリッジ先生がマクゴナガル先生の机に近づくのを見てロンを小突いた。
ロンはハーマイオニーを小突き、ハーマイオニーがサクヤの腕を引くと、4人とも盗み聞きするためにわざと列から遅れた。

「ホグワーツで教えて何年になりますか?」

アンブリッジ先生が尋ねた。

「この12月で39年です」

マクゴナガル先生は鞄をパチンと閉めながらきびきび答えた。
アンブリッジ先生がメモを取った。

「結構です」

アンブリッジ先生が言った。

「査察の結果は10日後に受け取ることになります」

「待ちきれませんわ」

マクゴナガル先生は無関心な口調で冷たく答え、教室のドアに向かって闊歩した。

「早く出なさい、そこの4人」

マクゴナガル先生はハリー、ロン、ハーマイオニー、サクヤを急かして自分より先に追い出した。
ハリーは思わず先生に向かって微かに笑いかけ、そして先生も確かに笑い返したと思った。
次にアンブリッジに会うのは、夜の罰則のときだと、サクヤはそう思ったが、違っていた。
「魔法生物飼育学」に出るのに、森へ向かって芝生を下りていくと、アンブリッジとクリップボードが、グラブリー-プランク先生のそばで待ち受けていた。

「いつもはあなたがこのクラスの受け持ちではない。そうですね?」

みんなが架台のところに到着したとき、ハリーはアンブリッジがそう質問するのを聞いた。
架台には、捕獲されたボウトラックルが、まるで生きた小枝のように、ガサガサとゾウリムシを引っ掻き回していた。

「そのとおり」

グラブリー-プランク先生は両手を後ろ手に背中で組み、踵を上げたり下げたりしながら答えた。

「わたしゃハグリッド先生の代用教員でね」

4人は不安げに目配せし合った。
マルフォイがクラッブ、ゴイルと何か囁き合っていた。
ハグリッドについてのでっち上げ話を、魔法省の役人に吹き込むチャンスだと、手ぐすね引いているのだろう。

「ふむ」

アンブリッジ先生は声を落としたが、ハリー達にはまだはっきり声が聞き取れた。

「ところで――校長先生は、おかしなことに、この件に関しての情報をなかなかくださらないのですよ――あなたは教えてくださるかしら?
ハグリッド先生が長々と休暇を取っているのは、何が原因なのでしょう?」

ハリーはマルフォイが待ってましたと顔を上げるのを見た。

「そりゃ、できませんね」

グラブリー-プランク先生がなんのこだわりもなく答えた。

「この件は、あなたがご存知のこと以上には知らんです。
ダンブルドアからふくろうが来て、数週間教える仕事はどうかって言われて受けた、それだけですわ。
さて……それじゃ、始めようかね?」

「どうぞ、そうしてください」

アンブリッジ先生はクリップボードに何か走り書きしながら言った。

アンブリッジはこの授業では作戦を変え、生徒の間を歩き回って魔法生物についての質問をした。
だいたいの生徒がうまく答え、少なくともハグリッドに恥をかかせるようなことにはならなかったので、ハリーは少し気が晴れた。
ディーン・トーマスに長々と質問したあと、アンブリッジ先生はグラブリー-プランク先生のそばに戻って聞いた。

「全体的に見て、あなたは、臨時の教員として――つまり、客観的な部外者と言えると思いますが――あなたはホグワーツをどう思いますか?
学校の管理職からは十分な支援を得ていると思いますか?」

「ああ、ああ、ダンブルドアはすばらしい」

グラブリー-プランク先生は心からそう言った。

「そうさね。ここのやり方には満足だ。ほんとに大満足だね」

本当かしらという素振りをちらりと見せながら、アンブリッジはクリップボードに少しだけ何か書いた。

「それで、あなたはこのクラスで、今年何を教える予定ですか――もちろん、ハグリッド先生が戻らなかった、としてですが?」

「ああ、OWLに出てきそうな生物をざっとね。
あんまり残っていないがね――この子たちはもうユニコーンとニフラーを勉強したし。
わたしゃ、ポーロックとニーズルをやろうと思ってるがね。
それに、ほら、クラップとナールもちゃんとわかるように……」

「まあ、いずれにせよ、あなたは物がわかっているようね」

アンブリッジ先生はクリップボードにはっきり合格とわかる丸印をつけた。
あなたはと強調したのがハリーには気に入らなかったし、ゴイルに向かって聞いた次の質問はますます気に入らなかった。

「さて、このクラスで誰かが怪我をしたことがあったと聞きましたが?」

ゴイルは間抜けな笑いを浮かべた。マルフォイが質問に飛びついた。

「それは僕です。ヒッポグリフに――」

「あぁ、オレも怪我をしました」

サクヤがすかさず手を挙げ、言葉をかぶせた。

「ヒッポグリフですか?ミスター・マルフォイ

アンブリッジ先生は慌ただしく走り書きしながらマルフォイを指名して尋ねた。

「そうです――」

「ドラコってば、うっかり、ちゃんとハグリッドの言うことを聞いてなくって。
大した怪我じゃなく、かすり傷程度で止められて良かったですよ、ほんと」

サクヤが強引に言葉を引き取り、続けた。
マルフォイは否定したそうにサクヤを睨みつけていたが、サクヤがじっと見返すと、口を開いて、噤んだ。
昨年、サクヤが三校対抗試合中に全生徒の前でフィルゴークに変身したとき、マルフォイのなかでヒッポグリフに襲われたときの記憶と繋がったのだ。
あのとき2頭のヒッポグリフに襲われたのではなく、1頭には守られ、そのヒッポグリフの正体がサクヤの動物もどきであり、そして庇ったからと感謝や見返りを求められずに約1年を過ごしたのだ。
そのことを直接サクヤ本人に指摘する機会すらなくまた1年が過ぎ、今に至っている。
プライドの高すぎるマルフォイにとって、それは屈辱的であり、大きな借りであり、このことについてサクヤに強く出られない理由であった。

「結構」

サクヤのほうを一切見ることなく、クリップボードへのメモを取り終えると、アンブリッジ先生はゆっくりと言った。

「さて、グラブリー-プランク先生、ありがとうございました。ここはこれで十分です。
査察の結果は10日以内に受け取ることになります」

「はい、はい」

グラブリー-プランク先生がそう答えると、アンブリッジ先生は芝生を横切って城へと戻っていった。

「あれは――お前が――勝手に――やったことだ――」

マルフォイが噛みしめた奥歯から声を漏らした。
サクヤは振り返ると、嫌味なく微笑んで繰り返した。

「ああ。オレが勝手に、やったことだ」



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