The ounder of rphan X 
 -総受男装ハーマイオニー百合夢-




「いいよ」

ハリーが言った。

「考え直した。僕、ここにいるよ」

ハリーはさっとテーブルの前に座り、ダドリーとペチュニア叔母さんとに向き合った。
ダーズリー夫妻は、ハリーの気が突然変わったので、唖然としていた。
ペチュニア叔母さんは、絶望的な目つきでパーノン叔父さんをちらりと見た。
叔父さんの赤紫色のこめかみで、青筋のひくひくが一層激しくなった。

「いまいましいふくろうどもは誰からなんだ?」

叔父さんがガミガミ言った。

「最初のは魔法省からで、俺を退学にした」

ハリーは冷静に言った。
魔法省の役人が近づいてくるかもしれないと、ハリーは耳をそばだて、外の物音を聞き逃すまいとしていた。
それに、バーノン叔父さんの質問に答えているほうが叔父さんを怒らせて吠えさせるより楽だったし、静かだった。

「2番目のは友人のロンのパパから。魔法省に勤めているんだ」

魔法省?

バーノン叔父さんが大声を出した。

「おまえたちが政府に?
ああ、それですべてわかったぞ。この国が荒廃するわけだ」

ハリーが黙っていると、叔父さんはハリーをぎろりと睨み、吐き捨てるように言った。

「それで、おまえはなぜ退学になった?」

「魔法を使ったから」

はっはーん!

バーノン叔父さんは冷蔵庫のてっぺんを拳でドンと叩きながら吠えた。
冷蔵庫がバカンと開いた。
ダドリーの低脂肪おやつがいくつか飛び出して引っくり返り、床に広がった。

「それじゃ、おまえは認めるわけだ!いったいダドリーに何をした?

「なんにも」

ハリーは少し冷静さを失った。

「あれは僕がやったんじゃない――」

やった

出し抜けにダドリーが呟いた。
バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんはすぐさま手でシッシッと叩くような仕種をして、ハリーを黙らせ、ダドリーに覆い被さるように覗き込んだ。

「坊主、続けるんだ」

バーノン叔父さんが言った。

「あいつは何をした?」

「坊や、話して」

ペチュニア叔母さんが囁いた。

「杖をぼくに向けた」

ダドリーがモゴモゴ言った。

「ああ、向けた。でも、僕、使っていない――」

ハリーは怒って口を開いた。しかし――、

黙って!

バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんが同時に吠えた。

「坊主、続けるんだ」

バーノン叔父さんが口ひげを怒りで波打たせながら繰り返して言った。

「全部真っ暗になった」

ダドリーは嗄れ声で、身震いしながら言った。

「みんな真っ暗。
それから、ぼく、き、聞いた……なにかを。ぼ、ぼくの頭の中で」

バーノン叔父さんとペチュニア叔母さんは恐怖そのものの目を見合わせた。
2人にとって、魔法がこの世で一番嫌いなものだが――その次に嫌いなのが、散水ホース使用禁止を自分たちよりうまくごまかすお隣さんたちだ――ありもしない声が聞こえるのは、間違いなくワースト・テンに入る。
2人は、ダドリーが正気を失いかけていると思ったに違いない。

「かわい子ちゃん、どんなものが聞こえたの?」

ペチュニア叔母さんは蒼白になって目に涙を浮かべ、囁くように聞いた。
しかし、ダドリーは何も言えないようだった。
もう一度身震いし、でかいブロンドの頭を横に振った。
最初のふくろうが到着したときから、ハリーは恐怖で無感覚になってしまっていたが、それでもちょっと好奇心が湧いた。
吸魂鬼は、誰にでも人生最悪のときをまざまざと思い出させる。
甘やかされ、わがままでいじめっ子のダドリーには、いったい何が聞こえたのだろう?

「坊主、どうして転んだりした?」

バーノン叔父さんは不自然なほど静かな声で聞いた。
重病人の枕元でなら、叔父さんはこんな声を出すのかもしれない。

「つ、躓いた」

ダドリーが震えながら言った。

「そしたら――」

ダドリーは自分のだだっ広い胸を指差した。
ハリーにはわかった。
ダドリーは、望みや幸福感が吸い取られてゆくときの、じっとりした冷たさが肺を満たす感覚を思い出しているのだ。

「おっかない」

ダドリーは嗄れた声で言った。

「寒い。とっても寒い」

「よしよし」

バーノン叔父さんは無理に冷静な声を出し、ペチュニア叔母さんは心配そうにダドリーの額に手を当てて熱を測った。

「それからどうした?」

「感じたんだ……感じた……感じた……まるで……まるで……」

「まるで、二度と幸福にはなれないような」

ハリーは抑揚のない声でそのあとを続けた。

「うん」

ダドリーは、まだ小刻みに震えながら小声で言った。

「さては!」

上体を起こしたバーノン叔父さんの声は、完全に大音量を取り戻していた。

「おまえは、息子にへんてこりんな呪文をかけおって、何やら声が聞こえるようにして、それで――ダドリーに自分が惨めになる運命だと信じ込ませた。そうだな?」

「何度同じことを言わせるんだ!」

ハリーは癇癪も声も爆発した。

僕じゃない!吸魂鬼がいたんだ!2人も!」

「2人の――なんだ、そのわけのわからん何とかは?」

「吸――魂――鬼」

ハリーはゆっくりはっきり発音した。

「2人」

「それで、キューコンキとかいうのは、一体全体なんだ?」

「魔法使いの監獄の看守だわ。アズカバンの」

ペチュニア叔母さんが言った。
言葉のあとに、突然耳鳴りがするような沈黙が流れた。
そして、ペチュニア叔母さんは、まるでうっかりおぞましい悪態をついたかのように、パッと手で口を覆った。
バーノン叔父さんが目を丸くして叔母さんを見た。
ハリーは頭がくらくらした。
フィッグばあさんもフィッグばあさんだが――しかし、ペチュニア叔母さんが?

「どうして知ってるの?」

ハリーは唖然として聞いた。
ペチュニア叔母さんは、自分自身にぎょっとしたようだった。
おどおどと謝るような目でバーノン叔父さんをチラッと見て、口から少し手を下ろし、馬のような歯を覗かせた。

「聞こえたのよ――ずっと昔――あのとんでもない若造が――あの妹にやつらのことを話しているのを」

ペチュニア叔母さんはぎくしゃく答えた。

「僕の父さんと母さんのことを言ってるのなら、どうして名前で呼ばないの?」

ハリーは大声を出したが、ペチュニア叔母さんは無視した。
叔母さんはひどく慌てふためいているようだった。
ハリーは呆然としていた。
何年か前にたった一度、叔母さんはハリーの母親を奇人呼ばわりしたことがあった。
それ以外、叔母さんが自分の妹のことに触れるのを、ハリーは聞いたことがなかった。
普段は魔法界が存在しないかのように振舞うのに全精力を注ぎ込んでいる叔母さんが、魔法界についての断片的情報を、こんなに長い間憶えていたことにハリーは驚愕していた。


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