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‐その頃,現世では‐


「…あんたが、俺を…助けたのか…?」

一護が再び意識を取り戻したのは、浦原商店でだった。

「おや?心外っスねえその言い方。
まるで助けて欲しくなかったみたいに聞こえる」

一護は怪我の所為を除いても、元気がなかった。

「―――……

…そうだ…あそこには石田も倒れてたろ?
あいつどうした?あいつもここに?」

必死に自分の話題から逸らそうとしている。

「帰りましたよ彼は。
元々彼の傷は血はたくさん出ちゃいるが、大したものじゃなかった。
だから傷自体はあの場で殆ど治せました。

帰り際…心配してましたよ。黒崎サンのことを…」



『僕はもう大丈夫。ありがとうございました。
それより黒崎を…よろしくお願いします。

…今、奴等を倒せる可能性があるとすれば…それは僕じゃない。』

石田は、何かを決意するかのように、こぶしを強く握った。

『…黒崎をよろしくお願いします……


朽木さんを救えるのは
 彼だけだ』




一護の頭に、ルキアの悲しげな背中がフラッシュバックした。

「…『俺だけ』か…
はっ…どーしろってんだよ俺に…


ルキアは尸魂界に帰っちまったんだぞ!!
どうやって尸魂界まで追っかけろってんだ!?
どうやって助けりゃいいんだよ!?

…できやしねーじゃねえかっ…!」

半ば自棄になっている一護に、浦原は静かに尋ねる。

「…本当に、無いと思いますか?
尸魂界に行く方法。」

一護の顔から、絶望の色が消えた。

「ある…のか…!?」

「アナタは咲矢サンから『生きろ』と言われた…
その言葉に込められた意味…わかりますか?」

「え…?」

「咲矢サンは何よりもアナタの安否と成長を第一と考えていた…
このくらい、あの子を見ていれば言葉で確認しなくともわかります。

アナタに『生きろ』と言ったのは…ただ単に生き延びて欲しいだけじゃない…
アナタに生きて朽木サンを助け出してほしい。
そういう想いが込められていたんですよ」

「な、なんで会ったばっかのヤツに…」

「それは本人に聞いてください」

「じゃ、じゃあ尚更だ…!
アイツには聞きたい事が山ほどある!
どうしたら尸魂界に行ける!?教えてくれ!!」

「勿論教えますよ?
…これから十日間、アタシと一緒に戦い方の勉強をしてから、ね」

「な…何だそれ!?修行でもしろってのか!?
そんなヒマねーだろ!

ルキアは尸魂界(アッチ)でいつ殺されるかわかんねーんだぞ!!
いくら咲矢もそこにいるからって、そんなコトしてる間に少しでも早く…」

「わかんない人だな」

浦原の態度が変わった。

「言ってるんですよ。
今のままじゃキミは死ぬ、と。

―勝てるんスか?今のキミが彼らと戦って。
アタシは今回あえてキミを彼らと戦わせました…
それは口で言うよりキミには解り易いと思ったからなんスよ。
今のキミの実力じゃ、尸魂界で戦うには何の役にも立たないって事実をね。

キミは弱い。
弱者が敵地に乗り込むこと…それは自殺っていうんスよ。
『朽木サンを救うため』?
甘ったれちゃいけない。


死にに行く理由に
  他人を使うなよ。」



静かなドスの効いた声で一護を諭す浦原。
今まで向けていた杖を下ろし、今後の説明を始めた。

「尸魂界は通例…極囚の刑の執行までに一月の猶予期間をとります。
今回の朽木サンの場合も同じはず…
確率は低いですが、咲矢サンがもし口出し出来ていたのなら、減刑も望めます。

これからキミをイジメるのに十日間、尸魂界への門を開くのに七日間…
そして尸魂界へ到着してから十三日間。極刑でも充分間に合う」

一護は再び最後に見たルキアの背中を思い出した。

「十日で俺は…強くなれるか?」

次に思い浮かべたのは、咲矢のあの泣きそうな顔。

「勿論、キミが朽木サンを救いたいと願うなら。

想う力は鉄より強い。
半端な覚悟ならドブに捨てましょ。

十日間、アタシと殺し合い…できますか?」

浦原は不敵に笑う。

「どうせ俺ができねえっつったら…誰もやる奴いねえんだろ?


しょうがねえっ!
やってやろーじゃ
 ねえか!」



雨が止んだ  
  気がした。












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