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真夏の微熱


カチリ、カチリと時を刻むタイマーが制限時間に達したことを確認すれば、音駒高校排球部が活動している体育館に練習試合終了の合図である笛の音が鳴り響く。

「お疲れ様ー、じゃあ各自タオルとドリンクを取りに来てー!」

そうまだコートにいる部員たちに呼び掛ければ、練習終わりだというのにその体力は一体どこに残っていたのか、と疑いたくなる程のスピードでこちらへ走って来る部員が1人。それはもうきらきらした笑顔で綺麗な銀髪をなびかせた長身の1年生が。

「名前さん見てましたか!?俺サーブもレシーブもめっちゃ頑張りました!褒めてください!」

勢い良く近づいて来るリエーフに対し、嫌な予感はしていた。そしてその私の嫌な予感というものが当たってしまったらしく、目の前まで来た彼はそのまま勢いを止めずに、まるでタックルをするように私を抱きしめた。

「ぐえっ!…ちょ、リエーフ!暑いっ、離して!離してえ!」

練習試合をみていただけでも汗が止まらないほど暑いこの体育館で抱きつくとは何を考えているのか!けれど他の子より少し背の低い私なんか、抵抗する余地もなくすっぽりとリエーフに抱き込まれてしまう。私の頭には彼の手が添えられ、細く見えるリエーフのくせに厚い胸板で顔を挟まれてしまって呼吸が苦しい。酸素を確保するべく彼の胸板と私の顔の辺りに両手をねじこみ、少しの隙間を作る。そこで深く息を吸い込めば、リエーフの汗のにおいと柔軟剤のにおいとが混じったような甘い香りに頭がクラクラして、体温が一気に上がった気がした。

「ほらリエーフ、さっさと名前を離してやれ。」

「えー…」

一番乗りで来たリエーフに続き、タオルやドリンクを求めて部員がぞろぞろと押し寄せるなか、黒尾がリエーフにやっと制止の言葉をかけてくれて私はようやく彼の腕から解放された。

「で!どうでしたか俺の活躍!惚れました?」

テンションの高いリエーフをよそに、外の新鮮な空気を深く吸い込んでから彼の方をぎろりと睨みつける。

「あのさあ…惚れましたか?じゃなくて!こういう過度なスキンシップはやめてって何度も言ってるでしょ!」

「スキンシップっつーかアプローチだけどな」なんてニヤニヤしながら研磨くんに話しかける黒尾に一発お見舞い。それからくるりと振り返ればそこには先程のハイテンションと打って変わって、捨て犬のようにしゅん、とした表情で私を見下ろすリエーフがいた。
う、その顔には弱いかも…。

「だって名前さんにはいっぱい触りたいしぎゅってしたいし…」

「…はい!?」

部員の前で何言ってるの!?
リエーフはなんだか瞳がうるうるして涙目だし。あまりの恥ずかしさに私の方まで目に涙がたまってくる。こんな状況は耐えられない、黒尾へ目線でSOSサインを送る。黒尾は相変わらずニヤニヤしていたがすぐに休憩終了の号令をかけてくれた。

「はい休憩終わりー、リエーフは夜久とレシーブ練な」

「ほらリエーフさっさとしろ」

「…ええええ夜久さんとレシーブ!?やだー!名前さーん!」

休憩終了の号令を聞いたリエーフはころっと表情が変わって、またいつものように夜久に引きずられていく。

「ほらほら、呼ばれてるよ名前サン?」

「…面白がってるでしょ」

でも、私もリエーフに触れられたいしぎゅってしてほしいのは確かで。場所さえ考えてくれれば!
心を決めれば、私は大きく息をすった。

「部活終わったらいくらでもぎゅってしていいから、頑張ってきなさいっ…!」

体育館に響き渡る私の声はもちろんリエーフに届いただろう。恥ずかしくてリエーフの表情を確認する前に体育館を飛び出して来てしまったけど。
砂利を踏みしめながら木陰へとしゃがみこみ、両手を頬に添える。

「…あつい」

蝉の声に混じり、少しだけ離れた体育館からはリエーフを叱る夜久の声が聞こえた。





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