小説 | ナノ


ダークチェンジで見失う


「おーっし、じゃあ各自自主練なー」

そう音駒高校排球部主将であるクロが指示を出せば部員たちが各々自主練を始める。
マネージャーである私はというと、この時間はまあやることもなくただただ自分専用のイスに座って怪我をした部員を手当したり、みんなの練習風景を眺めたりして時間を潰している。そしてこの自主練の時間、私は決まってクロを眺めていた。その理由は個人的にクロの静かなプレーが好きだから、というもので他意はない、はず。だから今日もクロの方へ頭を向けてぼーっと眺めていれば、どこからかボールが飛んで来て後頭部に激突した。

「うわああ名前さん大丈夫すか!?」

痛みに悶絶しながら私が唸り声をあげていると、後ろからバタバタと近づいてくる足音とこのボールを私の後頭部へ飛ばしたであろうリエーフの声が聞こえてくる。

「いや、私も違うとこ見てぼーっとしてたし大丈夫だから…」

じんじんと痛む後頭部をさすりながらイスに座ったまま後ろを見上げればすごい迫力の彼と目が合う。

「違うとこって誰か見てたんですか?」

「あー、うん、クロみてたわ」

あっち、とクロの方を指させばリエーフはふーん、とだけ言って自分から聞いたくせに興味無さそうな返事だけをした。

「ほら、リエーフも見とけば?クロから学べることもたくさんあるだろうし…」

しかし次の瞬間私の目の前からクロ諸共体育館が消え暗転、と同時に顔の上半分に何かが覆いかぶさる感覚。そのあとすぐにそれの正体を理解し、今すぐ退けようと両手で掴みひっぱる、けれどもリエーフの手はびくともしなかった。

「えっ、ちょっと、リエーフ見えないっ…」

正直掴み握ったリエーフの手が大きく、骨張っていることに対して少しドキドキした。けれどもずっとこのままなのは困るし必死に退かそうと抵抗すれば、そのまま私の目を隠した手の力で引き寄せられ、頭がリエーフの腹部にあたる。そしていつの間にか耳元ではリエーフの吐息が聞こえていた。

「名前さんは俺以外見なくていいです…」

その囁きと耳にさらさらと触れるリエーフの髪に思わず声をあげそうになった。そこで掴みっぱなしだったリエーフの手は私が力を入れずとも退かされ、私の頬に添えられる。

「俺の事、見て?」

ぐい、と顔を上に向けさせられリエーフのエメラルドグリーンが潤み輝く瞳とバッチリ目が合う。上から逆さに覗き込まれたリエーフの表情はどこか色気があって、美しく、思わず息を呑むほどだった。一度意識してしまえばどれもこれも心拍数を速めるものばかりで、頬に添えられた手の体温とか、頭に感じる腹筋の硬さとか、全身リエーフに触れられているところが敏感に感じてしまうほどに。

けれどそれはつかの間の時間だった。
リエーフに向かってボールが飛んで来て、すごい音といきおいで彼の頭にぶつかったのだ。その勢いでリエーフは私の視界から一気に消えた。

「りっ、りえーふ!?」

イスから立ち上がり後ろを振り返ればすっかり伸びてしまって倒れているリエーフ。

「おーいリエーフ、自主練やれっつったろー」

後ろから聞こえた声で今のボールを飛ばしたのはクロだと言うことがわかった。

「と、とりあえず救急箱持ってくる!」

部室へと向かうため外と繋がる渡り廊下へとでれば、先ほどまでのからだの火照りがさめていく。

ああ、次の自主練の時間からはリエーフを見てあげないとな。



企画サイト「パラフィン」様に提出。



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