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目が合ったなら逸らさないで


「ねえねえ、」

国見くん国見くん、そう俺を呼ぶのは隣の席に座っている名字だ。授業と授業の間の10分間、そのときがくれば名字は毎回のように話しかけてくる。だが俺は今その彼女の呼びかけには応えず、机に突っ伏している状態だった。

「昨日の及川さんのサーブさ、いつも通りかっこよかったよねえ!しかもサーブのあとこっちに向かってピースしてくれたんだよ!」

絶対目が合ったと思うんだけどなー、なんて話を続ける様子からして、俺が机に突っ伏しているのはお前の話なんか聞きたくないからだ、という意思表示だということは伝わらなかったらしい。
名字の口から他の男の名前なんか聞きたくなかったし、それがうちの部活の先輩だなんて尚更だ。第一、あの人が特定の彼女なんて作るとは思えないし、報われない恋なんて誰だってしたくはないだろう。

「俺じゃ駄目なの?」

それなら、と出た一言も、クラスメイトたちのざわめきにかき消された。きっと誰にも聞こえていないのだろう、名字にだって。
ちらり、と名字の方を盗み見てみる。

「…え、」

少し伸びてきた前髪の隙間、そこから見えた表情に思わず顔を上げてしまう。

「……っ!えっと、国見くん…」

らしくない、けど俺の性格なんか無視して名字は俺の心拍数をどんどん上昇さていく。こんなの誰だって少しの期待はするだろう。

「だから、俺じゃ駄目な訳?」

もう一度、今度は机から体を起こして名字の方を見つめながら言ってみる。

「あ、その、…」

「俺の目、見てよ」

そう畳み掛ければ名字がびくりと肩を揺らしながら恐る恐ると顔をあげる。赤い頬の上にある、震えるまつ毛には少しの雫が見えた。
しかし名字と目が合ったのも世界史の教師が教室に入ってくるまでの3秒間だけだった。

「きりーつ、」

一度合った名字の目は、誰かがかけた号令によって逸らされてしまった。
けど俺はもう、一度合った目を逸らすつもりはないから。






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