小説 | ナノ


温もりの愛しさ


「ふぁっ…ぐしょいっ!!」

「おい、もっと静かに出来ねえのか」

「…うっさいなー、くしゃみにケチつけないでくれるー」

私は今、季節の変わり目に体調を崩してからずるずると風邪気味の日々を過ごしている。ずずーっと鼻をかめば、これでポケットティッシュを今日1日で4つ使い果たしたことになる。
各々部員が自主練をしている中、私はやることもほぼ終わりただただみんなの練習風景を眺めていた。ぽーん、と綺麗に上がる菅原先輩のトスに見とれていれば鼻水がまたずるりと垂れてきた。

「おま、汚ねぇだろがボゲェ!」

「はいはい、お見苦しいものを見せました。今すぐ鼻をかみます…」

飛雄の声がいつもより大きく頭に響き、その拍子に頭痛が少し強くなった。だいたいコイツ、なんで自主練もせずに私の隣に居座ってんだ、そんな悪態を口には出さずに頭の中で考えながら、ジャージのポケットから本日5つ目のポケットティッシュを取り出し鼻をかむ。なんだろう、鼻が詰まり口呼吸だから酸素が頭へ十分に行き渡っていないのだろうか。クラクラする頭をおさえようと額に手をやればかなりの熱さに自分で驚いた。

「…お前今日調子だいぶ悪いだろ」

「え、」

飛雄の方へと顔を向けようとすれば、布のはためく音と同時に視界が一気に暗くなる。

「それ羽織っとけ、お前の荷物持って来るから」

頭にかけられた飛雄のジャージを肩まで下ろせば私の荷物を取りに部室へと走っていく彼の姿があった。
私が風邪気味ってこと、知ってたから隣にいてくれたのかな。そんなことを考えてしまえば、さっきまで飛雄の着ていた私よりサイズが大きいジャージの温もりがとても愛おしく思えた。

「今日は早退するってこと伝えてきた。ほら名前、帰んぞ」

戻ってきた飛雄が私の手を掴み外へと引っ張る。
周りからかけられる心配の言葉に軽く会釈で返しながらも、そこでまた繋がれた飛雄の手の温もりに、不謹慎ながら風邪もいいもんだなと思ってしまう。
外へ出れば冷たい夜風が火照ったからだのまわりを包み込んだ。

「飛雄、ありがと」

「…おう」

そうさっき伝えそびれた言葉を声に出せば、飛雄の大きな手がぎゅっと握り返してくれた。





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