サイタマの笑顔が怖い

サイタマの笑顔が怖いと思うようになったのはいつからだったろうか。以前は安らぎを得られていたサイタマの手のひらも声も笑顔もなにもかも、今となっては私を萎縮させる要因のひとつになっている。
サイタマが何か変わったのか、と聞かれると明確な以前との違いは自分としてもよく分からなくてどう答えたらいいのか少し困ってしまうのだけれど、なんというか…顔は笑っていても、目や声が笑っていない。そんな感じがするのだ。
数ヶ月前の私に、サイタマと二人きりになりたくないと今の私の気持ちを聞かせたならば、きっと何を言っているんだと笑い飛ばしただろう。2人きりになるとドキドキしすぎる!とかそういうこと?なんてにやにやしながら聞いたかもしれない。それくらい私はサイタマのことが好きだったし、サイタマと幸せにずっと過ごしていけると信じて疑わなかった。
………今は、できれば一緒にいたくないと、心からそう思う。
そんなことを考えていた矢先だったから、なんとなく遊びに来た街でサイタマを見かけた時は肝が冷えた。最近弟子になったとかいう青年と一緒にいてこちらを向く素振りは無かったから逃げるようにその場を立ち去ったのだけれど……

「なあ、なんで声かけてくんねーんだ?」
「っ……!?」

いつの間にか、サイタマが後ろに立っていた。ーーあの、恐ろしいと感じる笑顔を浮かべながら。
背筋がぞっと冷えて思わず反射的に走り出す。サイタマから逃げられるなんて思えないけれど、あのままその場に居たら恐怖で死んでしまっていたんじゃないかとすら思った。

「はっ、はぁっ、はっ……!」
「なんで逃げるんだよ?私を捕まえて〜ってか?」
「やだっ…はぁっ、こっち…来ないでっ」
「そんな寂しいこと言うなよな」

一体どこまで行けば彼から逃れられるんだろう。だれか助けてと必死に頭の中で祈り、息苦しさではり裂けそうな胸を抑え付けながら、先の見えない道を私は駆けていくしかなかった。

ヤンデレサイタマと追いかけっこ