土方一派の飯炊き

「…牛山さんは素敵ですね」

庭で鍛錬に励む牛山さんを横目で見ながらなんとなしにぽつりとそう零すと、少し間を置いてからがちゃんという音が静かな部屋に響いた。なんだなんだと永倉さんのほうへ視線を移すと、手に持っていた湯呑みを菓子皿に落としてしまったのかまっぷたつになった湯呑みと皿と、あんぐりと口を開け大きく表情を変えた永倉さんが目に入った。珍しいこともあるものねと見慣れない永倉さんの顔にうふふと笑ってしまう。

「そんなにおかしなことを言いましたか」
「…あの男はやめておきなさい」
「何故です?」
「女と金と柔道しか頭に無いような男だ」
「それは男性は皆そんなものなのでは?」
「度を越しているだろう」
「いつも紳士的ですよ」
「猫を被っているだけだ」
「…そうかしら」

毎日の朝餉と夕餉を美味いと言ってくれ、一言二言ではあるけれどあれが美味かった、これの味付けが好みであったと感想を言ってくれる人がただ猫を被っているだけとは到底思えない。永倉さんもお優しい方だけれど、それに負けないくらい牛山さんもお優しい。

「力強い腕とか、良いと思いませんか」
「お前は趣味が悪いな」
「あら土方さんまで」
「最近買い物をしに街へ行った時口説かれていたじゃないか、あっちの方が随分まともだ」
「ほう、その男は中々見る目がありますな」
「…小樽にいる軍人さんはどうも好きませんねぇ」
「牛山よりもっと良い男はいくらでもいるだろう」
「確かに良い方はいますね、目の前に」

私がそう言うと、今度は土方さんまで少し驚いたという風な表情になって思わず吹き出してしまう。確かに土方さんは良い男だという表情でうんうんと頷く永倉さんに、永倉さんもですよと言うとからかうのはやめろと真顔で言われてしまった。からかいではなく本心なのだけれど。
皆でくすくす笑っているとどこかの家からか味噌汁の香りが漂ってきて、その匂いにつられてか誰かのお腹がくぅと小さく鳴く。おそらく土方さんだろう、今日はお二人の珍しいところがたくさん見れる日だったなあと思いつつ、今日もしっかり自分のお役目を果たさなければなと気を引き締めた。

「さて、そろそろお夕飯にしますか」

永倉さん宅で飯炊き