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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
彼女を俺のものにするにはどうしたらいいのかが分からなかった。愛の言葉なんてもうずっと使っていないから思い浮かばないし、身体を無理やり繋げることもしたくはない。彼女の身体を求めているのではない、彼女の心が欲しいのだ。彼女の愛が欲しい。どんなものにも変えられない彼女からの溢れんばかりの愛情が、笑顔が、好意が欲しくて堪らない。しかしそれを手に入れる方法が俺には無いのである。今彼女の手を掴まなければ、俺にはもう一生チャンスは訪れないだろう。職場で1週間一緒に仕事をしただけの元同僚、良くて友人止まりになってしまう。きっと、そうだ。このままでは、普段働いている職場から大阪の支部へと研修に来た、彼女の研修期間1週間のうちの些細な出来事にすぎないに違いないのだ、俺の存在なんて。首筋を駆け上がるぞくぞくとした寒気と、耳の奥でわんわん鳴り響く耳鳴りに心臓の鼓動が急速に速くなる。今しかない。彼女の中で俺を絶対にするには、今しかないのだ。
一週間ありがとうございました、と微笑んだ彼女の細い腕を強く握りしめる。別れの挨拶をしている途中にいきなり手を握られたからか、彼女は面食らったような表情になった。

「…? 桑原さん?」

耳鳴りが酷くなると、ピキッと身体が金縛りにあったように動かなくなる。「あの部屋」に呼ばれる合図だ。俺の存在が彼女にとって取るに足らないものでも、あの部屋での出来事に巻き込んでしまえば自然と大きなモノになるだろう。それに、何処にいようと一度あの部屋の住人になってしまえばミッションが起こるたび否応無しに呼び寄せられるのだから、彼女を大阪に留めさせることもできる。一石二鳥だ。ジジ、とノイズ音のようなものがして視界があの部屋へと切り替わる。

「え、あ、ここ…どこ…!?桑原さ、一体何が……」
「大丈夫や…俺が絶対に守ったるから、絶対に死なせたりせぇへんから」
「死…っ、て、」
「命に変えても俺が守り通したる」

優しく頭を撫でると、ゆっくりと彼女が頷いた。とにかく俺に従うのが得策だと思ってくれたのだろう。訳もわからないまま俺の服の裾を震える手で掴む彼女に、口の端が釣り上がりそうだった。まず、一歩。


短編で書こうかなと思っていた話
周りがばったばったと死んで行く中自分しか頼れる人間が居なければ彼女も俺に頼るだろう、俺に縋るだろう、という桑原が書きたかったのです…
なんかもう勢いで書いたので色々酷いですね…小ネタに埋葬