「うわ、酒くさ」

三日ぶりに家に帰ってきた紬はそれはそれは酒臭かった。お酒と混じって、むせ返るような煙草の匂いもする。すん、と鼻を鳴らせば、紬のにおいに混じってどこか嗅ぎ覚えのあるにおいがした。
オッケー、美木杉さんと一緒に山積みになってた研究とか論文とか、そういう諸々を片付けてから打ち上げで酒を飲んだわけですね。一人でうんうんと頷いてから、においと紬の状態で何があったかを察するまであの変態組織と長い付き合いになってしまったか、と一人ごちる。とりあえず紬の服を剥ぎ取って洗濯機を回して、どうにか紬にシャワーを浴びさせないと。そんなことを考えながら紬の肩を揺すっていると、急に私の肩に顎を乗せて体重をかけて来たものだから支えきれずに後ろに倒れ込んでしまった。普段あまりべたつかない紬にしては珍しい、と驚きつつ、染み付いた臭いと筋肉だるまに覆い被さられる苦しさに我慢できず「起きて服脱いで、それでお風呂入って」という旨を切れ切れに伝えながら紬の肩をタップする。その言葉を聞いてのそりと顔を上げた紬の目は、どうしてだか完全に据わっていた。ただでさえ目付きが悪い紬にそんな目で見られると小心者の私は思わず震え上がってしまいそうになるからやめてほしい。

「…ふく、脱ぎゃいいんだな……」
「あー、うん、脱いで脱いで洗濯しちゃうから」
「そんで風呂…」
「ん!?紬!?なんで私を引っ張って行くのかな!?」
「風呂入るんだろ」
「一人で入りな!?」

私の手を引いてずんずん進んでいく紬が「お前からの誘いは珍しいからな」なんてブツブツ言っているのを見て、別にそういう意味じゃないんだけどとかムッツリに下手に酒は飲ませるもんじゃないなとかそういう事を思いつつ、紬に沢山飲ませたであろう美木杉さんへの恨み言をぼんやりと考えた。