淡白。朴訥。寡黙。釣った魚に餌をやらないタイプ。黄長瀬紬という男に対してヌーディストビーチの構成員は大体そんな感想を抱いているだろう。
誰よりも彼との付き合いが長い愛九郎さんはどうだか知らないけど、御多分に漏れず私も彼に対してはそんなイメージを持っていたし、彼と付きあう人はきっと苦労するのだろうな、と思っていた。記念日なんかにも頓着しなさそうだし、彼の恋人はきっと約束をすっぽかされて「本当に私のこと好きなの?」だとか「仕事と私どっちが大事なのよ!」とか、そういうチープな台詞を言う時がすぐに来てしまうのだろうなんてことを、鬼龍院の傘下の学校を飽きる暇もなく襲撃するその背中を見て他人事のように考えたものだ。
黄長瀬さんの姿を見ながらもっと恋人を大事にする人と付き合いたいなあなんて失礼なことを思っていたのに、それが何の因果か気が付けば私は黄長瀬紬という男に心底惚れてしまっていて、いつの間にか「たとえ餌を与えられなくともこの人の側にいたい」とまで思ってしまっていた。
──彼は理性的な人間だ。だから、私がこの想いを伝えてしまっても「そうか」とだけ返して何もなかったかのように今まで通りに過ごしてくれるに違いない、と思った。私の想いを聞かなかったことにはしない。けれど、返事もしない。自分の越えられたくないラインを私は決して越えてこないことを知っているからこそ、想いを殺させもしないし生かしもせず、今まで通りの距離感でいてくれるだろう。
別に黄長瀬さんの恋人になりたかったわけじゃない。でも、この想いを閉じ込めておけるほど私は出来た女じゃなかった。生命戦維との戦いが激化し、いつ死ぬか分からないという状況が背中を押したこともあるけれど、まるで挨拶をするかのような無感情さで「好きです」とだけ自分の想いを彼に伝えたのは、ひとえに彼はそういう男だと認識していたからこそだ。
その考えが全く見当外れもいいところで、私は結局彼のことを何も知らなかったのだなということをつくづく自覚させられたのは、目をまん丸に見開いた黄長瀬さんが自分の膝の上に煙草の火が落ちるのも気にせずに私を凝視したまま、恐る恐る「本当か」と聞いてきたその震えた声にだった。


彼女を溺愛する黄長瀬くんが書きたかったけど解釈違いです!!!!てもう一人の自分がキレたのでやめました