「ああ…お前はなんて面白い子なのだろうね」

羅暁さまのお膝の上で頭を撫でてもらうこの時間が私は何よりも好きだ。ずっと欲しかったのに決して得ることができなかった母の愛に似たものを、私のような何にもなれない人間に羅暁さまは求めるだけ与えてくれる。
縫さまのように生命戦維を体内に持つわけでもなく、鳳凰丸さまのように生命戦維との親和性が高いわけでもない。皐月さまが自分の学園でお造りになっているらしい制服を模して作られた生命戦維が大量に織り込まれた服を着ても自我を失わない、普通の人間との違いはそれだけしかない私を拾い上げてくれた羅暁さま。なんて素晴らしく、慈悲に溢れたお人なんだろう。
絹のような滑らかな羅暁さまの肌が、慈しむような指先が自分の頬に触れるたびに私はこんなにも幸せでいいのだろうか、と酷く不安になる。いつも、これはただの夢で羅暁さまも私が産み出した妄想に過ぎないんじゃないだろうか、と不安になるほど今の私は幸福だ。

「羅暁さま…手を握っても、よろしいでしょうか…?」
「勿論だとも。遠慮しなくていい、好きなようにしなさい」

羅暁さまの柔らかな手のひらに自分の手を重ね、恐る恐る握る。暖かい。羅暁さまの優しいお声が私の鼓膜を揺らすたび、これは現実なのだと思えた。羅暁さまは、確かにここに存在している。
存在価値なんてなかった私に価値を見出して下さった羅暁さまがいる限り、私もこの世界に存在できる…。
もしも私の身体が生命戦維に呑まれてしまったら、羅暁さまはどうなさるのだろう。ごみのようになんの執着もなく捨ててしまうのだろうか。それとも生命戦維の礎になれたことを褒めて下さるのだろうか。…私は、縫さまや羅暁さまのように生命戦維を素晴らしいとは思えない。いつかその力に呑まれてしまうのではないかという恐れや、生命戦維への耐性は強くとも力を上手く引き出すことはできない自分はいずれは見限られてしまうのではないかという不安にいつもいつも支配されている。できればこんな服はもう着たくない。けれど、生命戦維の織り込まれた服を着ることよりも、羅暁さまのご期待に応えられないことや羅暁さまに捨てられてしまうことが私は何よりも恐ろしい。だから私は、この服を着ることがやめられないのだ。たとえ、自分の身体がだんだんと制御できなくなってきていたとしても。

「お前はいい子だね」

私に価値が生まれるのは、この服を着ているときだけ。羅暁さまに愛して頂けるかぎり、私は一生この服を着続けるのだ。