(奥山くんは出ません、全部佐藤さんとの会話)


「好きにすればいいんじゃない?」
「…はあ」
「君の力の使い所は私が考えるから、仕事ができた時以外は君のやりたいことをすればいい」
「やりたいこと、ですか」
「あるだろう?」
「特には…ない、ですけど…」
「…ま、楽しみなよ」

今まで出せなかった黒い幽霊が、ある日突然出せるようになった。その事を佐藤さんに報告したら今まで後方支援をしていた私も前線に立たなきゃならなくなるのかな、こわいなあ、なんて考えながら佐藤さんに恐る恐る話を切り出してみると、帰って来たのは先ほどの答えだった。
すきにすればいい、やりたいことをすればいい。
私のやりたいことってなんなんだろう。そう思った時に真っ先に思い浮かんだのは、亜人の未来のためとか、亜人を導いてくれる佐藤さんの力になりたいとか……亜人の権利を訴えるために佐藤さんの元に集まった一人として考えているべきようなことでは一切なく………奥山くんに、触れてみたい。ただそれだけを考えた。

銃火器の扱いもハッキングも、何もかも奥山くんのほうが上手でーークラッキングに関しては私に分があるけれど、ここや亜人の存在をそう簡単に悟られてはいけない今は、その技術はさほど役に立たないので私が最も役に立てる仕事は特にないーー私は奥山くんのサポートしかできずにいる。下手に私がメインになってやろうとするより奥山くんが仕事をこなすほうがよっぽど奥山くんの仕事が増えずに済んで奥山くんのためになるという、なんとも歯がゆい状況が続いていた。そんな状態でも、奥山くんは私に「君がいると作業が楽だ」なんて優しい言葉をかけてくれるし、笑顔を見せてくれる。こんなに優しい人とずっと一緒にいて、惹かれるなというほうが難しいだろう。
でも私にはこの気持ちを打ち明ける勇気はない。でも、奥山くんに触れてみたい。…幽霊を使えば、私だと悟られずに奥山くんに触れることができるのでは?黒い幽霊と私の感覚が共有されるかどうかなんて試したことがないからわからないけれど、奥山くんの身体に無遠慮に触れること、その行為をしたという事実だけできっと私は幸福を感じられる。
…でも、本当にそれだけで終われるのかな?
奥山くんに触れたい、ただそれだけの願望だと思っていたもののなかに小さな劣情の焔が灯ったことを自覚してしまってから、それが大きく燃え上がるのは一瞬のことだった。奥山くんを抱きしめたい、キスしてみたい、それ以上のことも、して、みたい。
そんなことを考えた瞬間、めき、と小さな音を立てて幽霊の顔にヒビのようなものが入った。

「…あ」
「おや、変化が異様に早いね」
「なんか佐藤さんのと田中さんの中間みたいになりましたね」
「面白いねえ」
「面白いですか?幽霊のことよく知らないのでわかんないですけど…」
「いやあ永井くん以来だよこんなに興味深い幽霊は!」
「はあ……」

幽霊の顔の真ん中がぎざぎざに裂けて、先端の割れた長い舌がちろりと姿を現す。唾液でてろりと鈍く光るそれはまるで蛇のようで、以前佐藤さんの幽霊が口を開けた時に見たような、恐ろしさの中にいやらしさすら感じるような生々しい舌だった。
奥山くんに触れるだけで終われるのか?
…そんな私の思考を読んだかのように変化した幽霊に思わずどきりとし、淡々と幽霊を観察する佐藤さんになんだか申し訳ない気持ちになる。そもそも幽霊を使ってやりたいことが情けない行為だっていうのに、奥山くんに対して…すこし、やらしいことを考えたなんて、とさらにいたたまれなくなった。


「……蛇は生と死の象徴、らしいよ」
「はあ」
「私の幽霊が死だとしたら、君のは生かな?」
「…あの、佐藤さん、それどういう意味ですか……」
「ん?だって君、いま女の目をしたからね」
「なっ!?」
「あーこれってセクハラとかになっちゃうかな、忘れて忘れて」
「ちょっ、さと、佐藤さんこそ忘れてください…!」
「(…分かりやすいな〜)」


続いたらえろい展開にいきます
短編にしたい、が、いかんせん長くなるし何がしたいのやらって感じだし、いやまあすでに何したいかわけわかんないんですが…
奥山真澄くんをよろしくおねがいします!