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「#幼馴染」のBL小説を読む
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白石由竹という男はふとした時に私の中の琴線に触れてくる男だ。

普段はへらへらおちゃらけているし飲む打つ買うを好むろくでなしだし、アシリパちゃんに借りたお金まで使い込むし、湯たんぽにすらしたくないし(臭いから)。どうしようもない役立たずなのに、実際よく考えてみるとキロランケと共に旅をするようになるまでの間、刺青人皮の情報を持ってきたり上手く聞き込みをしてきたのはほとんど白石だったし、捕まった杉元を助けられたのは白石の力あってこそだった。いざという時に私たちが救われたのは、不本意だけど白石がいたからこそだったんだ。
そのことに気付いてから、私は今までと同じ目で白石を見ることができずにいた。なんというか、馬鹿にしてて申し訳ない気持ちがひとつまみと、あとは白石を男…として意識してしまっているような、複雑な気持ちが胸中に渦巻いてくる。いつも目尻を下げてへにゃへにゃ笑うあの白石が、一切のふざけた色の無い冷ややかな目をする姿が目に焼き付いて離れない。

「…どうしたんだよそんなに考え込んで」
「へあっ!?な、し、シライシ…ッ!?」
「うお、そんな驚くなよ!こっちがびっくりするわ」
「音もなく近寄んなッ」
「理不尽だ…」

白石のことを考えていたところに本人が突然現れたせいで、別に悪口を言っていたわけではないのにそれと似たような気まずさを覚えてしまう。なお、白石が役立たずだってことはただの事実で悪口ではないので別に関係ない。白石となんとなく視線を合わせづらくて俯いて床をじっと見ていたら、急に前髪を指で撫でられて驚きで肩が揺れた。
急に何すんだこいつ。顔を上げて白石の方を見たら、さっき考えていた冷ややかな表情とも普段のへらへらした表情とも違う、純粋に私のことを心配してるんだろうなって分かる顔をしていて小さく驚いてしまう。白石ってこんな顔もできたの。アシリパちゃんとか杉元に使えねーやつだな!って言われてる時ともまた違った風に眉をハの字にしている白石の顔はなんだかやけに整っていて、白石相手になんて悔しいけれど思わず見惚れてしまう。

「なんか顔赤くねぇ?風邪でも引いてんじゃないの?」
「え、私いま顔赤い?」
「うん」
「…うそ」
「こんなことで嘘ついても何も意味ないだろ…やっぱ風邪か?顔熱いぞ」

そのまま前髪を掻き分けた白石の手が私のおでこに触れる。何の他意もない手のひらはすぐに離れて、崩れた私の前髪をちょっと弄っていった。離れていく時目に入った白石の手は思っていたよりも大きくてしっかりしていて、ほんの少しかさついていて…。男らしい手だな、と、思ってしまった。

「…なに?もしかして男前な俺に見惚れちゃった?」
「んなっ!?ちが、手ぇ見てただけだし!」
「ふ〜ん?本当に?」
「本当!」

素直になれよ、なんていいながらキメ顔をする白石の顔はいつも以上に胡散臭くて一気に頭が冷える。なんでこんなタコ坊主に見惚れたりなんてしたんだろ。白石に図星を突かれたことが悔しくて、でも今まで意識したことなんてなかった男らしい手のひらに相変わらず私の心臓はどきどきしていて、もしかして私は白石のことが……なんてありえないことを考えた。


(時間軸はたぶん親姫の回の直前くらい)